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【ホーボージュンのサスライギアエッセイ・旅する道具学】第17回「頂上直下の書記係」
AIボイスレコーダー「PLAUD / Plaud Note Pro & Pin」
今回は取材道具の話だ。
僕ら職業ライターにとって、ペンとノートは原始の火打ち石みたいな存在なのだが、そこに並んで欠かせないのがボイスレコーダーである。
かつて「テレコ」なんて無骨な呼び名で親しまれていた時代から、ルポやインタビュー取材の現場ではなくてはならない存在で、同業者の集まる場所では、○○社のレコーダーがいいだの、××の文字起こしアプリが神だのと情報交換が盛んだった。
そんな界隈で、いま話題沸騰中の製品がある。それが「プラウドノート」という、名刺サイズのAIボイスレコーダーだ。
プラウドノートは’23年に世に出たばかりの新参者だが、すでに累計100万台を突破するヒット作になった。10月に発売された最新モデルなどは店頭に並ぶ間もなく消え、幻のポケモンみたいな扱いになっている。
この小さな板切れが、なぜそこまで人々の心をつかんだのか。その答えは、AIという名の魔術にある。録音した音声はスマホのアプリに転送され、112か国語を理解する人工知脳によって、ほぼ瞬時に文字へと変換される。しかもそれだけでは終わらない。会話の内容は詳しく解析され、この集まりのテーマは何だったのか、誰がどんな意見を出し、それを受けてどんな議論があり、どこに着地したのかが分析され、最終的に詳細なレジュメに整形されて吐き出されるのだ。
例えば先日僕はビーパルの編集会議を録音したのだが、その様子はこんな風にまとめられた。
「今回の会話は、登山用品に使われるポリウレタン素材の加水分解による劣化という技術的なテーマから始まりました。話者1は自身のクライミングジャケットの経験を基に製品寿命の差について語り、話者2は高耐久素材のコスト問題について語りました。その後、話題は雪山での失敗談や、海外での飲み物の注文間違いといったユーモラスなエピソードへと移ります」
「次に、話は’26年秋冬コレクションの最新アウトドアウェア技術へと展開します。光で発熱する新素材や遮熱技術などが紹介され、続いてテントのトレンドについても議論されました。最近のテントは猛暑やゲリラ豪雨への対策、プライバシー確保が重視されており、特に雨音を和らげるテント生地が注目されていることが共有されました」
こいつに書記係を任せておけば、もうメモに追われる必要はない。質問や議論に集中でき、結果として取材の密度がぐっと上がる。そしてこれまで文字起こしと整理に吸い取られていた時間を、原稿書きという楽しい地獄に回せるようになる。
また図形やイラスト、その場で撮った写真をテキストにひも付けることもできるから、取材記録が立体的になる。記者やルポライターにとって、これはもう革命といっていいだろう。
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そして個人的にツボなのが、カード型だけでなくピンタイプが用意されている点だ。シャツやジャケットに留めれば両手が空く。アウトドアの現場で使えといわれているようなものだ。
登山雑誌の山行レポートを書くときなど、僕はこのピンを録音状態にしたまま歩く。何時何分にどこを通過したか、標高はいくつで、天気はどうで、足の具合はどうか。思いついたことはなんでも、その場で声にして放り込む。連続20時間の録音ができるから、朝から晩まで回しっぱなしで問題なし。立ち止まってノートとペンを取り出す必要もない。吹き込まれた声は自動で文字に変わり、時刻付きで細かく刻まれる。あとは要らない部分を、包丁で魚をさばくみたいに落とせばいいだけだ。
このスタイルは口述筆記にも向いていて、僕は散歩中や長い運転中に、これで原稿の下書きを作ることが多い。
じつは、いま皆さんが読んでいるこのエッセイも、プラウドノートによる口述筆記だ。僕はいま、那須岳の山頂直下にいる。ゴリゴリの岩場にへばりつきながら、原稿を吹き込んでいる。
「奥に見える旭岳の麓から白い雲が湧き、山肌をなめるように上がってきている。その舌先は生き物のように褐色の谷を駆け上がり、硫黄のにおいをすくい上げては、空へと投げる。そして雲は稜線の岩稜帯をすり抜け、はるかに広がる紅葉の絨毯へ流れ落ちていくのだ」
こんな独り言を岩場でつぶやく中年男は、はたから見ればだいぶ怪しい存在だろう。だが、僕の仕事場は大自然のど真ん中。僕のつぶやきを気にするのは、忙しなく頭上をかすめていくイワツバメくらいのものだ。
プラウドノートは、もともと最先端企業向けのクラウドファンディングで生まれた。掲げられた使命は「無駄な会議や議事録づくりに時間と知的リソースを浪費せず、人間をもっと創造的な仕事へ解放する」というもの。その産物が、こうして山の上で僕の書記係をしているのだから、世界は本当に面白い。
自然の中にデジタル機器を持ち込むなんて野暮だ、と顔をしかめる人はいまもいる。でも僕はこの新時代のフィールドノートを、心から歓迎している。
全身の感覚を研ぎ澄まし、山を、川を、海を味わい尽くす。そして、五感でつかまえたすべてを街へ持ち帰り、文章に変える。そんな僕の仕事において、コイツは欠かせない商売道具になりつつあるのだ。







ホーボージュン
大海原から6000m峰まで世界中の大自然を旅する全天候型アウトドアライター。X(旧Twitter)アカウントは@hobojun。
※撮影/中村文隆
(BE-PAL 2026年2月号より)




