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シュウカイドウの英名はHardy begonia
植物の葉が地面に接するように放射状に広がっている状態。タンポポ、ハルジオン、オオバコなどの多年草や、ナズナ、ヒメジョオンなどの越年草は、この状態で冬を越す。
シュウカイドウ科の多年草。ベゴニアの仲間で、高さ約60㎝。秋、紅色の花が下垂して咲く。葉の付け根に小さいムカゴをつけて増える。中国の原産で、庭園に植えられる。
シュウカイドウは暑さや寒さに強く、唯一、日本の戸外で越冬できるベゴニアだ。
シュウカイドウは中国南部の原産だが、日本には江戸前期に持ち込まれたとされている。大きな庭のある家だと、生け垣や木の下の日陰の場所などに植えられるが、野生化したものを各地で見ることができる。
大きな葉は左右が非対称で珍しい。枝葉はとてももろくて折れやすい。雄花からは花粉のかたまりが突き出るが、雌花には三角形の翼がある。
種は砂粒のように小さくて、実生では育たないが、葉の基部にムカゴができて、これがこぼれ落ち、新しい株に育つ。
昔、ツクバネの実をどうしても見たいという家内の友人を連れて、私が「イノシシヤマ」と呼んでいる峠まで行ってみた。
麓の山からは200mほどの高さの、この山の脇道には、3本のツクバネの木があり、ほかにもハンショウヅルやシラヤマギクなどが育つのだが、行ってみたらなんと、木や草がきれいに切り払われていて、ツクバネの木も消えていた。
立ち止まって見ていると、「親父……」と、向こうで息子が呼んでいる。行ってみると、なんと脇道の入り口の左手に、枝先に実を付けたツクバネの木があって、家内の友人が大喜び。
そこから少し坂道を下がったところに小さな沢があり、シュウカイドウが5株ほど並んでいた。バケツに沢の水を汲んで太めの枝を入れたが、シュウカイドウの枝や茎はとても折れやすいから、はたして無事に家まで持って帰れるだろうか。
ツクバネの小枝を手にした家内の友人は、「ほんと、羽にそっくりよね」とご機嫌だったが、クルマが大きく揺れるたびに、私はハラハラしてバケツを振り返った。

雄花の花粉のかたまり。

雌花には三角形の翼がある。

できたムカゴが新しい株に育つ。

羽根突きの羽にそっくりのツクバネの実。
おくやまひさし プロフィール
画家・写真家・ナチュラリスト。
1937年、秋田県横手市生まれ。自然や植物に親しむ幼少期を過ごす。写真技術を独学で学んだのち、日本各地で撮影や自然の観察を開始。以降、イラストレーター、写真家として図鑑や写真集、書籍を数多く出版。
(BE-PAL 2025年11月号より)