
そこでさらに心を奪われたのが、各地に広がる美しい湖たちでした。エメラルドグリーンに輝く湖面と、アルプスの山々が織りなす風景には、ただただ魅了されっぱなし。
そんな湖の中でも、特に感動したのが「Seebensee」(ゼーベン湖)。チロル地方の山あいにひっそりと広がる湖で、さらに登ると、ほとんど知られていない、”もうひとつの“秘境レイク”に出会えるのです!ロープウェイで気軽にアクセスできる人気スポットですが、私たちはあえて、自分たちの足で、ハシゴや鎖を乗り越えるスリル満点ルートで向かうことに。
今回は、そんなオーストリア“湖の天国”でのハイキング体験をお届けします。
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宝石のような湖、Seebenseeってどんな場所?
Seebenseeはオーストリア西部、ドイツとの国境近くにあるチロル州のEhrwaldという小さな山あいの町に位置する、美しい高山湖です。標高約1,657mにあり、透明度の高いエメラルドグリーンの湖面と、背景にはいくつもの壮大な岩山が映り込む景色は、まさに絵画のようです。
この湖の魅力はなんと言ってもアクセスのしやすさ。Ehrwaldの町から出ているロープウェイEhrwalder Almbahnを使えば、あっという間に標高1,500m地点まで登ることができ、そこからは初心者でも歩ける比較的なだらかなトレイルで湖までアクセスが可能です。片道1時間半~2時間で気軽にアルプスの絶景を味わえることもあって、多くの観光客が訪れる人気のスポットとなっています。
⚫︎Ehrwalder Almbahnロープウェイ情報
運賃大人:往復25ユーロ(約4,300円)、片道16ユーロ(約2,700円)
2025年営業期間:夏季:5月17日〜11月9日、冬季:12月19日〜4月12日
営業時間:8:30~16:30

あえてロープウェイなし!鎖場ありのルートで向かう絶景Seebensee
ロープウェイを使えば簡単に湖へ到着することができますが、今回はあえて使わず、自力で登るルートにチャレンジすることにしました。ルートは初心者から上級者向けのハイキングからサイクリングコースまで様々あり、体力や経験に合わせて選べるのが魅力です。
私たちが選んだのは、登りは“Immensteig”と呼ばれる鎖場やハシゴを含むスリリングな登山ルート。下りはロープウェイ「Ehrwalder Almbahn」に沿って伸びる、整備された歩きやすい道で戻ってくるという、ちょっと冒険心をくすぐるコースです。

登山口を入ってしばらくは森の中の静かな山道を進んでいきます。ほどなくすると道の分かれ目になり、私たちの進む方向には「注意!この先アルパイン経験者のみ。一部に鎖・ハシゴあり」の看板が…。事前に調べた限りでは、鎖場やハシゴはあるものの、特別な装備は必要なく初心者〜中級者でもOKとのこと。
でも、実際にこんな注意書きを目の前にすると、やっぱり少し不安になります。海外の登山ルートは、日本ほど詳細な情報や口コミがないことも多く、毎回ちょっとした“賭け”のような気分です。

それでも勇気を出してさらに進むと、ゴツゴツした岩と岩壁に打ち込まれた鎖場が登場し、ここからが本番のスタートです。ここでトレッキングポールは閉まって、両手をしっかり使いながら慎重に登っていきます。

見上げると急斜面の岩場で一瞬怯みますが、手足を置く場所はしっかりあるので、鎖をしっかり掴みながら一歩ずつ登っていけば大丈夫。実は私、高所がちょっと苦手…でも、木々に囲まれているおかげか、そこまでの高度感はなく、真下を見なければ案外怖くない。

「怖いけどやってみたい!」という矛盾した気持ちで挑んでいる自分に、ちょっと笑ってしまいました。

30分ほどで鎖場ルートを抜け、ロープウェイ利用者が歩く広く整備されたハイキング道に合流。ここからは他の登山者も増え、一気に歩きやすくなり、心も体もほっとひと息です。自転車も通れる広めの砂利道で、ベビーカーを押しながらの人たちもいてビックリ!ゆっくり歩きながら景色を楽しみ、Seebenalmという山小屋が見えてきました。

ここは、まるでアルプスの絵本の世界。木造の建物にはレストランが併設されていて、名物のチロル料理や冷たいビールをテラス席で楽しむことができます。目の前に広がる牧草地と山々、そして牛の鳴き声で、最高の癒しタイムです。

そして山小屋からさらに1時間ほど歩くと、木々の間から突如視界が開け、エメラルドグリーンの湖面が目に飛び込み、Seebenseeに到着です!
ご褒美の絶景!Seebensee

鏡のように澄み切った湖と背景の岩山がくっきりと映り込み、その美しさはまさに“アルプスの宝石”。写真では見ていたけれども、やっぱり実際に目の前に立つと、そのスケールと美しさに圧倒されます。
家族連れやカップル、ソロのハイカーたちがそれぞれのスタイルでこの絶景を味わっていて、なんとものんびりした時間が流れています。

湖の周りはぐるっと一周できるようになっており、ゆったりと散歩しながら、さまざまな角度から湖と山のコラボレーションを堪能できるのも魅力のひとつ。太陽の角度によって湖の色が微妙に変わり、ずっと見ていても飽きることがありません。
遠くから湖畔でのんびり草を食む放牧の牛たちの、首にぶら下げた鈴が「チリン、チリン」と優しく鳴り、まるで童話の中に迷い込んだかのような気分にさせてくれます。

この場所だけでも十分に来た甲斐があったと感じる絶景ですが、実はここで終わりではありません。Seebenseeでエネルギーをチャージしたあとは、もうひとつの「秘境レイク」を目指して、さらに上を目指します。
さらに上へ!もう一つの「秘境レイクDrachensee」
Seebenseeでのんびり過ごした後は、山のさらに奥深くにひっそりと隠れるように佇むもう一つの湖、「Drachensee」(ドラッヘン湖)へ向かいます。道のりは約40分で、これまでのハイキングよりもぐっと傾斜がきつくなるため、あまり登る人が少なく、静かな湖の景色を独り占めできちゃいます。

登っていくと、振り返るたびにSeebenseeがどんどん小さくなり、その向こうにはドイツ最高峰Zugspitze(ツークシュピッツェ)の堂々たる姿がはっきりと見えるようになります。実はこのZugspitze、先日登ったばかりの山なので、こうして遠くから眺めると、あのときの感動がまた新たに蘇ってくるようでした。
Drachenseeに到着すると、そこは切り立った岩山に囲まれた小さな湖で、まさに“秘境”の名にふさわしい場所。人がほとんどいなく、静寂の中、自然を思う存分堪能することができました。

ちょうど湖のそばには、Coburger Hütteという山小屋もあり、食事や宿泊も可能。登った後のキンキンに冷えたビールと、雄大な景色を眺めながらの一杯は、言葉にできないほどの贅沢な時間でした。人が少ないからこそ感じられるこの場所の“特別さ”は、きっと登った人だけの宝物になるはずです。


下山はのんびり癒しルートで素敵な出会いが!

2つの美しい湖で、贅沢なひとときを堪能した後は、登りとは別ルートでのんびり下山していきます。ロープウェイの下をくぐりながらのルートで、歩きやすく整備されており、のどかな牧草地や広がる山並みを眺めながら歩ける癒しの道です。

途中、可愛いらしい出会いもありました。ふわふわの毛に覆われた長い角の牛、Highland Cattle(ハイランド・キャトル)たちが目の前に現れたのです!スコットランド原産のこの珍しい牛たちは、アルプスの自然の中でも元気に放牧されていて、のんびりと草を食べている姿には本当に癒されました。

行きの登り道では、スリルと絶景の連続に心が躍り、帰り道では、穏やかな景色と動物たちに心が癒される。自然の中で、五感すべてが満たされるような体験でした。SeebenseeとDrachenseeのハイキングは心からおすすめできるルートなので、まるで宝石のような湖たちと出会えるオーストリアのこの道を、ぜひ歩いてみてください。