災害救助犬は日ごろどんな訓練をしているのか【災害救助犬コアと家族の日記 Vol.4】
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    2023.08.20

    災害救助犬は日ごろどんな訓練をしているのか【災害救助犬コアと家族の日記 Vol.4】

    瓦礫捜索訓練中のコア。

    救助犬というと、ニュース映像で流れる大地震や土砂災害の現場で瓦礫の中を捜索する「災害救助犬」の姿を思い浮かべる方が多いと思います。

    救助犬の活動は、その他にも冬山で行う雪崩救助や、『夏真っ盛り!水難救助犬の基礎訓練を応用した水遊びをご紹介【災害救助犬コアと家族の日記 Vol.3】』で紹介したような水難救助、山岳遭難や徘徊老人などの行方不明者の捜索など、多岐にわたります。いつどこで発生するかわからない災害や事故に備え、それぞれの救助犬とハンドラーは訓練を重ねています。

    そんな中から、今回は「ボックス訓練」と「瓦礫捜索訓練」の様子を、災害救助犬コアとハンドラーである私を例にして紹介していきたいと思います。

    訓練はコアが自信を持てるように、毎日楽しく、こつこつと

    日々の訓練では、私とコアだけでできることをコツコツと積み重ねています。例えば、散歩の途中に、脚側行進(ツケ)、招呼(コイ)、休止(マテ)、方向転換といった基礎的な訓練を組み入れながら歩いたりします。

    コアにとっては簡単なことでも、うまくいくたびにいっぱい褒めて、その後に大好きなボールで遊んであげたり、コアが楽しく訓練できるよう工夫をしています。 また、事前に疑似遺体臭を土中に埋めておき、嗅覚を使ってその匂いを探す遺体臭気捜索訓練も、ヘルパーなしで個人でできるので、週に3〜4日くらい行うようにしています。

    災害救助犬試験や競技会では、脚側行進中や休止中にそれぞれ 6 ミリ口径の 2 発の発砲がおこなわれます。救助犬はこの突発的な大きな音に反応せず、脚側や休止を続けなくてはいけません。コアは去年くらいから休止中に音に少し反応するようになってきたため、この点が今の訓練の課題のひとつになっています。

    その他、災害時の環境を想定して作られた災害救助犬訓練施設に出向いて、瓦礫捜索訓練や熟練課目 (水平梯子渡りやトンネルなど)の訓練を。さらに、他の災害救助犬の団体と一緒に訓練をしたり、各所で行われる消防や山岳会との合同訓練に参加するなど、行政とのつながりも大切にしています。

    今年3月には岩手県北上地区の雪山救助訓練では雪に埋まった要救助者を捜す訓練をしました。

    「ボックス訓練」と「瓦礫訓練」。コアががんばる姿を見てください!

    ボックス訓練

    災害救助犬は行方不明者を見つけたら、吠えて知らせます。これを“アラート”と言います。この「行方不明者を捜索して見つけたら吠えてアラート」という基本を、ボックス(中が空洞になった箱)を使って練習するのが『ボックス訓練』。訓練では、要救助者役に扮してボックスに隠れてくれているヘルパーがとても大事な存在となります。

    複数あるボックスの中のひとつに隠れたヘルパーを犬が見つけてアラートするのですが、犬が「このかくれんぼゲーム、大好き!」とわくわく楽しめるようにすることが大切。最初はヘルパーが走ってボックスの中に入るところを犬に見せたり、ヘルパーが箱の中から声を出して犬を呼んだりするなど、犬の能力や経験に合わせて工夫しながら訓練をしていきます。もちろん、うまくいったらたくさん褒めて、一緒に喜びます!

    ヘルパーの隠れているボックスを見つけて、アラートするコア。 コアはとても声が出やすく、アラートが得意です。声が出やすい=言い方を変えれば吠えやすいということで、よくある犬の悩みごとのひとつですが、それは救助犬コアの長所にもなっています。 歴史を振り返ると、犬が吠えるという行動は家族を守ったり、狩猟で獲物を追い詰めたり、ずっと人間の助けになってきたのですね。

    瓦礫捜索訓練

    ボックス訓練で学んだ基本を、災害現場を再現した難しい環境の中で行うのが『瓦礫捜索訓練』です。要救助者役に扮して瓦礫の中に隠れていたヘルパーを見つけたら吠えてアラートします。

    私たちは、この訓練を、福島県白河市にあるJKC(ジャパンケンネルクラブ) の災害救助犬訓練施設をお借りして行っています。

    JKCの災害救助犬訓練施設。救助犬の仲間と協力しあいながら一緒に練習します。

    初めて訪れた時は、瓦礫や木材で覆われた広大な施設を見て、「コアにできるだろうか?」と思いました。最初は瓦礫エリアに入りたがらない犬もいて、そういう場合はハンドラーと一緒に歩くことから練習を始めます。

    私自身も馴れないうちは瓦礫エリアを歩くのに苦労しました。でも、コアは実に生き生きと瓦礫の中を進み、あっという間にヘルパーを見つけ出しました。「コアは天才だ!」と、その能力にびっくりするとともに感動したことを覚えています。

    動画はこちらから↓

     

    そんなコアは瓦礫捜索訓練のスタート地点に立つと、「早く捜索したい!」と意欲満々。夢中になって鉄砲玉のように走りまわり、ハンドラーの私の声が耳に入らない時もあったため、ベテラン訓練士から「稟性(天賦の才)はあるが節度がない」と講評されたこともありました(苦笑)。

    コアの意欲の高さは素晴らしいのですが、実際の捜索現場では、救助犬が活動する場所と範囲が決められていることもあります。ですから、犬がハンドラーの指示を聞けないと、周辺で活動をしている消防や自衛隊などに迷惑をかけてしまうこともあるかもしれません。これは避けなければなりません。

    また、人間の経験や知識、得ている情報などが捜索のヒントになることも多いので、ハンドラーはそれを犬にきちんと伝えられることも大切になってくるのです。

    そして何より、危険な現場での犬の安全を確保するためにも、指示の声をちゃんと受け取ってもらわなければなりません。そのことを最優先して訓練をしています。

    ハンドラーと救助犬は互いに大事なバディ。

    救助犬育成のベテランの先生にインタビュー!

    私は、救助犬の魅力は「正解を知らない人間が、バディである犬を信頼し、犬が自信を持って行動する喜びを引き出し、力を合わせて作業できること」だと思っています。ですから、訓練では犬の意欲と能力を生かすことを心がけています。そのためにも、救助犬のことをもっと正しく理解していきたいです。

    そんな気持ちを込めて、JKC訓練担当理事をつとめる新田邦善先生にお話をおうかがいしました。ぜひ、最後まで読んで、私と一緒に、災害救助犬に対する理解を深めていただければと思います。

    コアは全てを兼ね備えているわけではありませんが、嗅覚、集中力はピカイチだと思います。 その長所を生かしつつ、苦手な部分をカバーできるハンドラーになりたいです。

    災害救助犬に向く気質とハンドラーに求められるもの 

    --コアはふだん私と家族として普通に暮らしています。なので、コアが災害救助犬だと知ると、「うちの子にもできるかしら?」と訊かれることがあります。新田先生、どんな気質の犬が災害救助犬に向くのでしょうか。

    新田先生(以下敬称略)「人や犬に対して攻撃性がなく、嗅覚に優れ、動作が機敏で、集中力、忍耐、持続力があり、突然の物音や出来事にも平常心でいられる気質の犬が向いています。」

     --災害救助犬の活動はハンドラーと救助犬がバディを組んで行います。ハンドラーに求められるものは何でしょう?

    新田「ハンドラーは訓練でも実働でも、当日の犬の能力の把握及び判断をしなくてはいけません。現場での捜索では、犬のサインを正確に読み取り、このエリアには要救助者がいないと判断し、次の捜索エリアへ移動する決断力が必要になります。

    また現場で風向きや地形を読み、犬がどの場所から捜索を始めるのか、その侵入位置を特定しなくてはいけません」

    救助犬の訓練を始めた頃は、私は意欲的に捜索するコアにまかせっきりで、後ろをただ付いて歩いていました。しかし、難易度が上がるにつれ、時折コアが迷ったり、匂いを感じていても自信がないというボディランゲージを見せるようになりました。犬がどう感じているのか、そのサインをよくみて、捜索しやすいように導くことがハンドラーの大切な役割だと思っています。

    また、ハンドラーが決めた侵入位置により犬の捜索のしやすさは変わりますし、現場での判断も大変な重責を伴います。私自身も正確な判断ができるように鍛錬しなくてはと思います。

    ハンドラーとしての知識や経験も深めていきたいです。

    訓練で大事なこと、難しいこと

    --訓練において大事だと思うことを教えてください。

    新田「アジリティ※やフリスビー等の競技会と違い、災害救助犬は誰にも答えがわからない(要救助者がどこにいるのかわからない)、現場によっては答えがない(要救助者がいない)作業となります。犬のモチベーション維持に、楽しい、良いことがあると思う育成法、そして適切な自主性の育成が大事になります」

    ※アジリティは、ハンドラーと犬が息をピッタリ合わせて、コース上に置かれたハードル、トンネル、シーソーなどの障害物を定められた時間内にクリアしていく、いわば犬の障害物競争。

    「ワンワン、発見したよ!」。コアが捜索を楽しみ、自分からもっとやりたいと思えるようにしていきたいです。

    --訓練のなかでも特に難しいと思われていることはありますか?

    新田「犬が風をとらえられる能力の育成と、そのためのシミュレーション作りです。」

    同じ場所に要救助者がいても、当日の風向きで匂いの出方が変わり、難易度も変わります。救助犬のハンドラーを始めた頃は、コアが要救助者役が隠れている場所へ直線的に向かうのではなく、全く違う方向へ行ってから、円の半径を狭めるように動いて発見するのが不思議でした。

    別の訓練の日に災害現場を想定して煙を焚いたら、煙の流れとコアの動きが一致していて、コアは風に流された匂いを捉えていたのかとその嗅覚に感嘆したことがあります。ハンドラーも風向きを意識して、犬が捜索しやすいように侵入位置を決めることが重要になります。

    匂いを追って、瓦礫のなかを駆けまわるコア。

    訓練では、ヘルパーの隠し場所も、最初は見つけやすい場所から始め、犬の成長に合わせて少しずつ難易度をあげていきます。隠れる場所や地形、風向きなどで難しい状況の時は捜索に時間がかかり、犬も疲れてきます。そんな時には状況を判断し、犬の安全を確保しつつ、犬の能力を引き出せるようにしたいです。

    ハンドラーにアラートして、要救助者を知らせるコア。

    --これからの救助犬の育成で伝えたいことはありますか?

    新田「現在、世界的に動物福祉が求められています。使役犬である災害救助犬も、愛犬が楽しいと思う育成法、人犬一体のチームワークの確立を目指していきたいと思っています。」

    災害救助犬というと、とても厳しい訓練をしていると思われることがあります。これまでコアと一緒に訓練に参加してみて、たくさんのハンドラーと救助犬のペアを見てきて実感したことは、災害救助犬の訓練が犬にとって楽しいわくわくするものでなくては、良い捜索はできないということです。

    JKC のような大きな組織が動物福祉に則った育成を目指していることは、日本の犬の福祉向上にとって大きな前進になるはずです。

    --お話をおうかがいして、初心に戻った気持ちにもなりました。これからもコアが楽しく、自信が持てるように一緒に学んでいきたいと思います。新田先生、きょうはどうもありがとうございました。

    お話を伺った人・新田邦善さん  NPO 法人 ボランティアドッグ育成センター 理事長/JKC 訓練担当理事 /JKC 公認訓練範士/FCI アジリティ審査員/JKC 災害救助犬審査員/JKC 家 庭犬訓練審査員/ノイマンドッグスクール(徳島県)スタッフ。 災害救助犬競技会にて。新田邦善先生とコア。コアの母犬は新田先生のもとで生まれました。

    災害救助犬の訓練は、犬自身の自主性、自信を持って行動することを育むもので、犬にとっても楽しいものです。大きな災害が起こらないことを願いながらも、いざという時のために、私とコアも日々の暮らしや訓練のなかで人犬一体のチームワークを目指していこうと思います。

    自主的に、生き生きと捜索するコア。

    私が書きました!
    救助犬ハンドラー
    かとう まさみ

    子供の頃から動物とアウトドアが大好き。ロサンゼルスのアニマル・シェルターでボランティア・スタッフをしながら犬のことを学ぶ。コアとお互いに良いバディでありたいと日々奮闘中。コアのHPはこちら。https://white-search-and-rescue-dog.jimdosite.com

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