視力を失ったフリークライマーの信じられない大冒険!ドキュメンタリー映画『ライフ・イズ・クライミング!』 | アウトドア・外遊び 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2023.05.12

    視力を失ったフリークライマーの信じられない大冒険!ドキュメンタリー映画『ライフ・イズ・クライミング!』

    フィッシャー・タワーズ

    フィッシャー・タワーズを登る小林さん。目が見えないなんて、信じられない!

    視力を失ったフリークライマーの小林幸一郎さんと、彼の目となるサイトガイドの鈴木直也さん。パラクライミング世界選手権で4連覇を成し遂げた二人が、ユタ州の大地にそびえる真っ赤な奇岩、フィッシャー・タワーズの尖塔を目指す! 

    びっくり仰天な大冒険を追ったドキュメンタリー映画『ライフ・イズ・クライミング!』が公開されます。人間の可能性に心底驚き、観れば元気になること間違いなし。小林さんと鈴木さんに聞きました。

    小林幸一郎さん

    小林幸一郎さん
    1968年生まれ。16歳でフリークライミングと出会い、28歳で「網膜色素変性症」を発症。競技者として、2014~2019年までパラクライミング世界選手権視覚障害男子B1クラス(全盲)4連覇を果たす。今年の日本選手権で第2位、現役引退を表明。2005年にNPO法人「モンキーマジック」を設立し、障害者クライミング普及活動を続けている。

    鈴木直也さん

    鈴木直也さん
    1976年生まれ。日本人初のアメリカ山岳ガイド協会公認のロッククライミングインストラクター。2011年からパラクライミング世界選手権の日本代表チームに同行。

    目が見えなくても、フィッシャー・タワーズの偉大さはわかる

    ――お二人は10代でフリークライミングと出合って、最初から惹かれたのですか?

    小林幸一郎(以下、小林):子供のころから運動が苦手でしたが、自分にもできることがあるんだ!と、そんなわかりやすい達成感があって。自然の中でキャンプをしながら、子供から大人までがクライミングを楽しむコミュニティーに触れ、高校生だった自分にとって、世界が大きく広がっていく感覚がありました。

    鈴木直也(以下、鈴木):僕は15歳で出合いました。達成感はもちろんですが、自然の中で、人工的につくられたものではない崖を登るなんてすごい!って。今回のフィッシャー・タワーズへの挑戦も、目の見えないコバちゃん(=小林さん)はあの絶景に立ったときに何を見るのだろう?それがスタートでした。途中で、その気持ちは変わっていきましたけど。

    ――フィッシャー・タワーズを前にしたとき、何を感じましたか?

    小林:見ようと思っても何も見えないけど、音が抜けていく感じ、吹く風の感覚はわかります。トイレのなかで目を閉じると狭い空間が感じられるのと同じように、それはわかるんです。頂上に立ったときも、喜びは大きくて。それ以上に、本当に来れたんだ! という旅の喜びが強かったですね。車2台に監督やカメラマンが乗り込んで、トランシーバーで連絡を取りながら移動して。あまりにもくだらない話ばかりで、電池の無駄だよ! という感じでしたけど。

    鈴木:旅の間は、ず~っと楽しかった。いちばん楽しかったのは、そこかも。

    車で移動中

    フォルクスワーゲンの白いキャンパーバンで、車中泊しながらフィッシャー・タワーズへ。このスケール感!

    ――お二人はパラクライミング世界選手権に日本代表チームとして出場されましたよね。「12時、右手」などと、サイトガイドの鈴木さんがホールド(突起物)の位置を時計の針になぞらえ、小林さんに指示していく。映画の中で小林さんが、鈴木さんのリードについて「(他のサイトガイドとの)いちばんの違いは地声であること。声の力が大きい」とおっしゃったのが印象的でしたが?

    小林:大会のとき、外国チームの多くはイヤホンをつけ、トランシーバーの声を聞いて、指示を受けながら登る選手が多い。でも日本チームは、直也が始めてくれたのがベースになっていますが、地声で叫ぶのを聞いて登ります。僕にとって、その声は背中をプッシュしてくれる。気持ちを鼓舞する強い力があります。

    鈴木:鼓舞しよう! と意識しているわけではないんです。いちど、イタリアの大会でトランシーバーを使ったのですが、当時はDJみたいなヘッドセットをつけなきゃいけなくて。ズレたらどうするんだ? という感じで。メガフォンを使って地声でやってます。

    小林:2018年、オーストリアのインスブルックで開催された世界選手権で私たちふたりが金メダルをとったとき、翌日の地方紙に写真が掲載されました。一面トップで、カラーでしたが、写っているのは登っている僕じゃなく、(鈴木さんを指差して)この人で。

    鈴木:コバちゃんが主役なのに!

    小林:そのぐらいインパクトがあったんでしょうね。

    鈴木:それで僕はときどき右と左を間違えて指示しちゃうんですけど、コバちゃんも右と左を間違えたりして。自然と修正してくれたりします。ちょうどいいんです。

    小林:そうです、結果オーライで。

    クライミングの魅力と、映画が完成した気持ちとは

    フィッシャータワーズ

    フィッシャー・タワーズ、ここに登ろうなんて、なぜ考えたのだろう……?

    ――東京オリンピックを経て、フリークライミングへの注目度に変化を感じますか?

    小林:注目されたのはスポーツクライミングで、僕らがやっているのは障害のある人の競技、パラクライミング。スポーツクライミングが注目されたからといって、われわれがやるパラクライミングに注目が集まったかというと、それは全然ないかもしれません。大会を重ねて、レベルは向上していますが。

    鈴木:そもそも、障害のある人がクライミングをやるというのが信じられない!という国の方が遥かに多いはずで。日本だとコバちゃんの「モンキーマジック」がもう20年近く普及活動をしていて。クライミングジムに、障害のあるクライマーを受け入れる環境は世界でもトップクラスだと思います。

    ――目が見えなくなって、クライミングの楽しさに変化が?

    小林:本質的には変わりません。工夫の幅が広がり、むしろ面白くなったんじゃないかなと。もともとアウトドアのレクリエーションってキャンプとかフィッシングとか、競技性はないと思うんです。子供もお年寄りも、言葉が通じようが通じまいが、障害があろうがなかろうが関係ない。誰もが自然の中で楽しめる。クライミングもそうです。大会に出て金メダルをとることが大事というものでもなくて。自分の世界を広げてくれることにこそ価値がある、そう思う瞬間がとても多いのです。

    僕は競技からは引退すると決めましたが、だからといってこれからもなにも変わりません。岩登りやクライミングジムに行って仲間とわいわいやって、終わったらビール美味しいね! といままでと同じように楽しみます。大会に出る、競技者であるという肩のリュックサックをいちど下すけど、日本パラクライミング協会の共同代表として競技クライミングにも関り続けるので。

    ――映画が完成したことをどのように感じていますか?

    鈴木:映画になるなんて思っていなかったので、こんなんできちゃっていいのかな!? って。監督に感謝です。ありのままの僕らが記録されています。映画はずっと残るわけで、親父が映画に出てるよ! と子供に自慢できますし。

    小林:宝ですね、本当に。

    ――お子さんもクライミングを?

    小林:ウチの子、まだ一歳半で!(取材した)今日が保育園の入園式だったんです。でも大きくなって、本人がやりたがったらやるでしょう。クライミングを通して親がなにかに夢中になったり、大人が真剣にくやしがったりする姿を観てほしいなあとは思っているんですけど。

    映画のメイン写真

    作品データ

    『ライフ・イズ・クライミング!』(配給:シンカ)

    監督/中原想吉、5/12~新宿武蔵野館ほか全国公開
    © Life Is Climbing 製作委員会

    取材協力/クライミングジム「Fish and Bird

    取材・文/浅見祥子

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