シェルパ斉藤、超快適な「サイクルトレイン」で紀伊半島を行く!
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    2023.02.09

    シェルパ斉藤、超快適な「サイクルトレイン」で紀伊半島を行く!

    自転車と鉄道を使って、紀伊半島の海沿いを旅した。

    日本で「自転車&鉄道」の旅といえば、折りたたみ自転車やバラした自転車を輪行袋に収納して鉄道に乗る旅のイメージが強いが、そうではない。紀伊半島南部を走るJRきのくに線(紀勢本線)には、その名もサイクルトレインがあり、自転車をそのまま列車に乗せることができるのだ。

    東は新宮駅から西は御坊駅までの区間、どの駅でも追加料金なしに乗客は自転車ごと列車に乗り降りできる。通勤通学の乗客が多い時間帯は避けなくてはならないが、それ以外の時間帯は自転車の乗り降りが自由で(土日は終日利用可能)予約もいらない。

    漕ぎ疲れたら列車に乗って移動。あるいは交通量が多い区間をパスしたり、悪天候の場合に列車に頼ったりするなど、イージーでフレキシブルな自転車ツーリングが可能となる。

    きのくに線の主要駅で手に入るサイクルトレインのチラシ。

    サイクルトレインのチラシには列車の発着時刻とともに、自転車の移動がしやすい駅がマークで示されている。サービス提供側の良心を感じる。

    自転車ツーリングに適した国道42号線ルート

    旅のはじまりは、延縄漁法による生鮮マグロの水揚げ日本一を誇る那智勝浦町だ。そこから白浜方面に向かって、1年前の秋にレストアした愛車、ケルビムのツーリングバイクを走らせた。

    紀伊半島の海沿いを走る国道42号はほぼ平坦で、のどかな漁村の風景が広がる。交通量はそれなりに多いけど、国道42号は全長1200kmに及ぶ太平洋岸自転車道の一部でもあるため、路肩に自転車用レーンが表示されている。自転車と歩行者のみが通れる旧国道のトンネルもあって、自転車ツーリングに適したルートだといえる。

    トンネルを通過しなくて済むように、旧国道の一部が歩行者と自転車専用道になっていた。

    ちょっと寄り道!クジラを見に行く

    那智勝浦町から6kmほど走って、すぐに寄り道をした。那智勝浦町の隣の太地町は捕鯨で栄えた町だ。落合博満の野球記念館もあるけど、やっぱり捕鯨関連の施設を見学しておきたいと思って「くじらの博物館」に入った。

    クジラショーがちょうどはじまる時刻だったので、ショーが開催される天然プールに足を運んだが、冬の平日とあって、観客は僕を含めて7人しかいない。ショーを担当するスタッフの人数もクジラの頭数も、観客の人数とほぼ同じだ。ある意味、ぜいたくなショーともいえる。

    ショーの内容はシンプルだ。イルカショーのように輪をくぐったり、ボールを跳ねあげたりするような凝った演出はなく、スタッフの合図でクジラがジャンプするだけだが、体が大きいクジラのジャンプはそれだけでも迫力がある。自然の風景に近い天然プールの素朴さがそう感じさせるのか、ジャンプだけでも存分に満足できるショーだった。

    さすがは捕鯨の町。太地町に入ると実物大のザトウクジラの親子が旅人を迎える。

    くじら浜公園には捕鯨船の第一京丸が陸揚げされて展示されている。残念ながら内部には入れない。

    くじらの博物館内の展示物。人力の小さな船で大きなクジラをよくぞ仕留めたものだと感心する。

    クジラがただジャンプするだけなのに、感動する。派手なショーである必要はないと、この博物館のショーに関しては思った。

    本州最南端の潮岬までペダリング

    くじらの博物館を見学したあとは国道42号に戻り、本州最南端の潮岬に向かって自転車を走らせた。

    どの駅からも自転車を乗せられるとはいえ、列車の本数は少なく、日中の白浜方面行きは4本しかない。自転車を漕いだり、サイクルトレインに乗ったりするパターンを繰り返して旅をするつもりだったが、列車の運行時刻とうまくタイミングが合わなかったし、ペダリングが快調だったため、潮岬までは自転車ツーリングに徹した。

    名前が示すとおり、橋の杭が立っているように岩柱がそそり立つ橋杭岩。

    潮岬には観光タワーがあり、展望台からは360度の眺望が楽しめる。芝生の広場はキャンプ場になっている。

    300円の料金を払って観光タワーに入場すると、訪問証明書がもらえる。

    いよいよサイクルトレインへ

    潮岬に到達後は、本州最南端の駅である串本駅へ。Suicaをタッチしてホームへ入ったが、自転車を押して改札口を通る行為が新鮮に感じられる。してはいけないことをしている気になるんだけど、駅員さんは自転車を押す僕に会釈してくれた。

    いよいよサイクルトレインだ。ホームに到着した2両編成の列車に自転車を押して乗り込んだ。

    車内の乗客は5人しかいない。車両の隅には車椅子やベビーカー用のフリースペースがあって、自転車を置く場所として最適に思えたが、サイクルトレインのチラシには中央のシートに立てかけた写真が掲載されているので、それと同じように自転車を置いた。

    僕の自転車1台でシート4席分くらいを占める。さらに自分も座るわけだから、5席分のシートを独占することになる。車内エチケットに反する迷惑行為のように思えてしまう。

    車内が乗客で混みいってきたらフリースペースに自転車を移動させようと思っていたが、串本駅から白浜駅までの約1時間、途中駅で乗った利用客はたった2名だった。

    なるほど。利用客がこんなに少ない路線だからサイクルトレインが成り立つんだな、と納得した。

    特急列車が停車する主要駅には、ホームにサイクルスタンドが設置されている。サイクリスト目線のサービスがうれしい。

    列車の中央に自転車とともに乗車してみた。自転車だけでシートをかなり占有しているけど、乗客が少ないから迷惑ではなかった。

    フリースペースにも自転車を置いてみた。利用者がいない場合はこちらのほうが落ち着くと思う。サイクルトレインを利用する場合は自転車を固定するためのベルトやロープ類を用意する必要がある。

    サイクリストに優しいサービスの拡充に期待

    普通列車に乗せられるだけでもすばらしいサイクルトレインだが、2022年の秋に内容がさらに充実した。特急列車でも自転車の乗り入れが可能になったのである。利用者は専用カバーを自転車に被せれば(専用カバーは特急列車が停車する駅で借りて、降車駅で返却する)、特急「くろしお」のサイクリスト専用車両に自転車とともに乗車できて、自転車をリクライニングシートに置ける。運賃と特急料金は必要だが、専用カバーのレンタル代も含めた追加料金はかからない。

    サイクルトレインを導入して、赤字路線を有効活用したJR西日本の英断には拍手を送りたい。きのくに線と似たような赤字路線は全国にたくさんあるから、各地で導入したらいい。乗客が確実に増えるし、赤字路線は山間部やのどかな海沿いのエリアがほとんどなので、ツーリングを楽しみたいサイクリストにとっても都合がいいルートだといえる。自転車の旅も好きなバックパッカーとして、サイクルトレインの全国拡大を切に願う。

    紀伊半島の海沿いは自転車の旅人にとってのパラダイスだと思うが、2日間の旅ですれ違った自転車は2台だけだった。オフシーズンだからかな。

    お知らせ~シェルパ斉藤の新刊が発売されました!

    最後に新刊の宣伝です。

    山村で育った純朴な少年時代にはじまり、一家離散して自活の道を歩んだ学生時代など、地方出身の若者が未知の世界へ足を踏み入れて紀行作家になるまでの成長をつづった青春物語が1冊の本になりました。

    見開き2ページ完結の121話のショートストーリーで構成された、読みやすい本です。80年代に青春時代を過ごした方々には共感を、自分が進むべき道が見えない若者には勇気を与える一冊だと自負しています。

    ビーパル編集部に出入りするようになったライター時代のエピソードも赤裸々に書いていますので、ぜひ購読を!

    生まれ故郷、信州松本の地域新聞『市民タイムス』で連載したコラムをまとめて、大幅に加筆。ラブストーリーも収録してます。

     

    シェルパ斉藤
    私が書きました!
    紀行作家・バックパッカー
    シェルパ斉藤
    1961年生まれ。揚子江の川旅を掲載してもらおうと編集長へ送った手紙がきっかけで『BE-PAL』誌上でデビュー。その後、1990年に東海自然歩道を踏破する紀行文を連載して人気作家に。1995年に八ヶ岳の麓に移住 し、自らの手で家を作り、火を中心とした自己完結型の田舎暮らしを楽しむ。『BE-PAL』で「シェルパ斉藤の旅の自由型」を連載中。『シェルパ斉藤の行きあたりばっ旅』ほか著書多数。歩く旅を1冊にまとめた『シェルパ斉藤の遊歩見聞録』(小学館)には、山、島、村、東海自然歩道などの旅や、犬と歩いたロングトレイルの旅を収録。

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