
いざ、湧き水を探して武蔵野台地へ

「あれ? うちの近所、なんか湧き水がたくさんある???」
家の近所に湧水が散在していることに気がついたのは、遊び場を探していた編集オガワ。
「へえ!多摩川が流路を変えながら台地を削って崖ができ、その崖から、台地に降った雨が湧き出すって!? へー!」
国分寺崖線、立川崖線、青柳崖線と名づけられたそれらの崖は、開発されず緑地として残っている。とくに国分寺崖線は湧水が多く、それを集めた野川が並行して流れている。
「この緑地、帯状だから自転車で散歩したら夏でも涼しいんじゃない? 生き物もいそう!」
善は急げと自転車にまたがったオガワが最初に向かったのは深大寺。たまたま一般公開日だった都立農業高校神代農場を見学すると、湧水を生かしてワサビとヤマメが育てられていた。
「えー!東京のこんなところで!湧水ってすげ〜」
野川を遡って貫井神社、お鷹の道をのぞき、そこから立川崖線と青柳崖線の段差を確認。ママ下湧水公園を見てこれらの湧水をつくった多摩川へと出た。
「最後に詣でるのは伏流水のわんど。おお、本当に透明だ!」
東京に限らず、山の麓や河岸段丘には湧水がある。暑い夏にはこんな散策はどうでしょう?
※わんど=本流につながる淀み。

東京西部に広がる武蔵野台地は、関東山地から流れ下った多摩川がつくった扇状地。多摩川が流路を変えながら削った河岸段丘が、崖として今も残る。
ヤマメが泳ぐ清流が!
神代農場&深大寺

都立農業高校神代農場は国分寺崖線の斜面をそのまま生かしており、月に2回ほど一般開放が行なわれる。雑木林に挟まれた谷の奥からは豊富に水が湧き、ワサビやヤマメ、ニジマスなどが育てられている。農場から深大寺にかけては湧水が多い。


深大寺の境内の一段上には神代植物公園が広がる。緑地が大きいため野生動物も多い。「ここだけ深山みたい」。
かつては大きなプールがあった
貫井神社

境内の一画から湧いた水が親水歩道を経て野川に注ぐ。かつては境内に隣接する場所に湧水を集めた長さ50mのプールがあり、1976年に埋められるまで賑わったという。


武蔵野の面影を残す
お鷹の道・真姿の池湧水群

整備された武蔵国分寺公園から細い階段を降りたとたん、数十年前にタイムスリップしたかのような光景が現われる。古い農家と屋敷林が広がる一帯では、各所で水が湧き出し、水を集めてホタルの住む用水へと流れ出す。

小川には野菜の洗い場が点在し、今も現役で使われている模様。残念ながらホタルはわずかだそう。

お鷹の道周辺の景観は、地域の農家に守られている。庭先では季節の野菜が売られていた。

この界隈が徳川家の御鷹場に指定されていたことが「お鷹の道」の由来。各所で湧水が流れ出る。
清冽な水がこんこんと湧く
ママ下湧水公園&府中用水

多摩川にほど近い青柳段丘から流れ出す湧水は夏でも冷たい。崖に残った雑木林と豊富な水量によって、公園の周囲だけあたりよりだいぶ涼しい。


ママ下湧水公園は生物の採集が禁じられているが、水が落ちた先の用水ならガサガサ程度の観察は楽しめる。茂った水草の下からはタモロコやアブラハヤが現われた。

場所は明かせぬ桃源郷
秘密の湧水わんど

「多摩川の某所、深い藪の先に伏流水をたたえた透明な池がある」。そんな未確認情報を聞いたオガワは半信半疑で藪へとダイブ! 凄絶な藪漕ぎの果てに噂の池を発見した。「聞きしに勝る透明度に感動! でも、次はないかな……」。
水着持ってくればよかった

ここは昔の透明度!
今月の里山クイズ

磯の岩に棲むカメノテ。
①爬虫類②甲殻類③貝類のうちの何に近縁?
答え
貝のように岩に張りつき、名前には「亀」が入るけれど、実はカメノテは②甲殻類の仲間。
身からは良い出汁が取れて、貝とエビを合わせたような風味がある。
※構成/藤原祥弘 撮影/矢島慎一
(BE-PAL 2025年7月号より)