海中から道が出現!? 葛飾北斎も描いた江の島が海と地続きになる日 | 海・川・カヌー・釣り 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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  • 海中から道が出現!? 葛飾北斎も描いた江の島が海と地続きになる日

    2022.06.08 旅音

    自転車で30分の場所に“モン・サン・ミッシェル”があった

    神奈川が誇る一大観光地、江の島。自宅から近いこともあって、これまでに何度も訪れているスポットだ。ただ、まだ目にしたことのない江の島ならではの光景がある。それは、片瀬海岸の水が引き、海底がむき出しになって、島まで歩いていけるスペシャルな散歩道が現れるところ。

    干潮時、海と沖合の島が地続きになる「トンボロ現象」は、波に運ばれてきた砂が盛り上がってできあがった砂州が、潮位が低くなったときにひょっこり顔を出すというもの。干潮ならいつでも見られるわけではなく、江の島の場合は潮位が20cm以下のタイミングで、というのがひとつの目安になるらしい。

    江の島に限らず、トンボロはほかの場所でも見ることができる。とくに有名なのは、フランス西海岸に浮かぶ岩山の聖堂、モン・サン・ミッシェルだろう。現在は連絡橋が架けられているが、かつては潮の引いたときに歩いて向かうしか術がなかったのだとか。信仰の島へのアクセスが海の道だったという共通点に、勝手にご縁を感じてしまう。

    ちなみに、鎌倉時代の歴史書『吾妻鏡』によると、1216年に徒歩で江の島に渡れるようになったらしい。また、人気絵師、葛飾北斎の「富嶽三十六景」のひとつ、「相州江の島」には砂州の参道を歩いて江の島に向かう人の姿が描かれている。

    葛飾北斎「相州江の島」

    葛飾北斎「冨嶽三十六景 相州江の嶌」(国立国会図書館蔵)

    よし、今回のテーマは、「葛飾北斎が描かずにはいられなかった日本のモン・サン・ミッシェルへ」。これでいこう。

    期間限定の特別な道から江の島を目指す

    気象庁のWEBサイトに載っている潮位表と週間天気予報、そして自分たちのスケジュールをチェックして、「この日なら」と決めたのがゴールデンウイーク真っ只中の5月4日。国道134号線も江ノ電も大混雑必至だが、自然のリズムは連休であろうとなかろうと待ったなしだ。絶好のサイクリング日和だからと、5年前と同じように自転車に乗っていざ出発! 心地よい海風を感じながらペダルを漕ぐのは楽しい。目の前には富士山がどーんとそびえている。

    渋滞中の国道134号線と並行する自転車歩行者専用を快走。

    途中で休憩を挟みつつ、50分ほどで江の島までやってきた。干潮のピークは12時42分。まだ1時間半以上あるが、すでに海の道らしいものができていて、歩いている人もちらほらいる。でも、せっかくならばいちばん潮位の低くなる時間に繰り出そう、というわけで、まずは北斎があの風景画をどの位置から描いたのかを探すことに。

    「相州江の島」を見ながら、おそらくここだろうと思われるポイントを見つけたので、今度はじっくりと見比べてみる。この絵が描かれた1830年頃には、自動車専用の「江の島大橋」も歩行者用の「江の島弁天橋」もない。その違いについては想定通りだったが、実際には富士山はフレームアウトしているという面白い発見があった。名所を一枚の中に盛り込みたかったのだろう。

    同じ角度から富士山を入れようとすると広角レンズが必要になる。

    それにしても、江の島へと延びるふたつの橋の混みっぷりといったら。黙々と進む行列を横目に見ながら、そろそろ島を目指して海の道へ繰り出そう。

    遠目に見るとただの砂浜だけれど、近くまで来ると、水分をたっぷり含んだ砂紋が広がっているのに気づく。波による天然の連続模様の上を歩いてみる。ギュッと締まっている感じが、足の裏から伝わってくる。この砂の固さこそ海底だった証、なのかもしれない。でも……、期待していたよりも“海だった感”が弱い。何か驚きの発見はないだろうか。

    橋脚のあたりもだいぶ水が引いている。多少足が海水に浸かってしまうが、歩けないほどではない。逃げ遅れた魚が砂の上に横たわっていたり、橋脚にフジツボがびっしり貼り付いていたりと、海中だった名残を感じながら進んだ先で、一同「おおっ!」と声を上げたスポットがある。それは、「江の島弁天橋」の二柱式橋脚の真ん中に立ったとき。古代神殿の柱廊のような荘厳な風景が、目の前に広がっていた。トンボロ現象のおかげで遭遇できた、スペシャルな瞬間だ。

    古代神殿に迷い込んだ気分になる二柱式橋脚の連なり。

    これでだいぶ満足した。さあ、いよいよ江の島に上陸しよう。まさか最後に試練が待っているとは思わず、足取り軽く向かった先に立ちはだかるのは、登れそうで登れない絶妙な高さの岸壁だった。

    江の島上陸にとても難儀している先達の姿。

    お尻を支えてもらって頑張って登る人、先に上陸を果たした人に引き上げてもらう人などを見ながら、はてどうしようかと考える。できるだけ低い場所を探して、そこから一点突破の力技でなんとか全員が自力で上陸することができた。ここで挫折したら、今来た道を戻り、正攻法である「江の島弁天橋」の人混みに紛れて再訪しなければいけないところだった。

    少し高い位置から眺めると、これまで歩いてきたところがちゃんと道になっているのがわかる。

    江島神社までの参道は大勢の人でごった返していた。

    少し休憩をして、14時過ぎに戻る準備を始めると……、すでに両側から海水が押し寄せているではないか。これは思い違いをしていたか。というのも、気象庁の毎時潮位表に「11時30cm」とあったが、そのときに海の道を渡っている人を見かけたので、「14時は23cmだから、14時半ぐらいに帰ればいいかな~」と呑気に構えていたのだ。

    道がなくなりつつある。

    時すでに遅し。すでに水没している箇所があり、靴のままでは通れなくなっていた。遠くからチェックした限りでは、まだまだ行けそうに見えたのに……。裸足になって、くるぶしぐらいまで水に浸かりながらも、なんとか出発地点まで戻ってきた。濡れた足を乾かしながら消えゆく海の道を眺めていたら、水没ポイントで足止めを食って困惑する人が続出している様子。ついさっきまでの自分たちの姿と重ねて、しみじみ「わかるよ……」と共感してしまった。

    近くまで来てから「こんなに水で満ちているの!?」と気づいたときの気持ちといったら。

    ※江の島のトンボロ現象は、潮位20cm以下の日中が狙い目だが、気象条件等によって必ずしも起こるとは限らないのでご注意を。ウォーターシューズなど濡れてもOKな恰好がおすすめ。

    最初の写真と同じ場所で撮影した、別日の満潮時の光景。まるで渡れそうにない。

    私が書きました!
    旅行作家、カメラマン、ライター
    旅音(たびおと)
    カメラマン(林澄里)、ライター(林加奈子)のふたりによる、旅にまつわるさまざまな仕事を手がける夫婦ユニット。単行本や雑誌の撮影・執筆、トークイベント出演など、活動は多岐にわたる。近年は息子といっしょに海外へ出かけるのが恒例行事に。著書に『インドホリック』(SPACE SHOWER BOOKS)、『中南米スイッチ』(新紀元社)。
    https://tabioto.com

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