【写真家・関健作さんに聞く:前編】「みんな同じ」が当たり前だった、ブータンに起こった急激な変化 | 海外の旅 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル - Part 2

海外の旅

2016.08.17

【写真家・関健作さんに聞く:前編】「みんな同じ」が当たり前だった、ブータンに起こった急激な変化

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タシ・ヤンツェ全景。一番手前右端にあるのが関さんの暮らしていた家。

タシ・ヤンツェ全景。一番手前右端にあるのが関さんの暮らしていた家。

——ほかに、現地の人たちを見ていて、何か気付いたことは?

関:サバイバル能力がすごい、ということでしょう。ある時、体育の授業で使う用具を作るのに竹が必要になって、子供たちが「先生、近くに竹がたくさん採れる場所があります」と言うので、みんなで採りに行くことにしたんです。近所だからと思って気を抜いて軽装で行ったら、ものすごく険しくて急な坂道で。片道5時間もかかる道のりだったんです。

——歩いて片道5時間が、近所……。

関:そんな険しい道でも、子供たちはひょいひょい歩いていって、竹のある場所に着いたら自分たちの短剣を使ってカンカン手際よく竹を切って、1人につき2、30本も竹を担いで、下り坂を走って降りるんですよ。あれは本当にすごかった。僕も負けじと走って追いかけたんですが、途中で転んじゃって、勝つのはあきらめました。

——確かにそれは相当タフですね。

関:サッカーをやってても違いますよ。グラウンドがボコボコなので、ボールもイレギュラーにバウンドするし、僕がやると足を取られてすぐに転んじゃうんですけど、彼らはそんなボコボコのグラウンドでも全速力で走れます。あれくらいボコボコのグラウンドだったら、もしかすると、サッカーのブータン代表も日本代表といい試合をするんじゃないかな。

谷からの風を使ってお米を撰り分ける。農作業は村人が集まって行う。

谷からの風を使ってお米を撰り分ける。農作業は村人が集まって行う。

——ブータン国内ではどこでもみんな、そんなにたくましいんですか?

関:首都のティンプー以外は。ティンプーの子供たちは、もうすっかりおしゃれになっちゃいましたね。彼らは韓国のカルチャーやファッションに憧れを持っているんです。

——どうして韓国が人気なんですか?

関:ブータンでは、アリラン・ワールドという韓国の英語テレビ放送が放映されているんですが、そのチャンネルでは、韓国のファッショナブルな若者たちがポップな話題を発信しているんです。ブータンの若い子たちはみんな、それを見てファッションやスタイルを吸収しているんですよ。

——テレビや携帯電話、インターネットがブータンで普及するようになったのは割と最近だと聞いてますが、それによって、いろんなことが急激に変化しているみたいですね。

関:ブータンでは国の政策として、すべての地域に電気と電波が届くようにすることを目指しています。携帯電話の電波も、今では地方でも結構入ります。携帯電話はブータンに革命的な変化をもたらしたと思いますね。というのもブータンでは、何か情報を伝えたり物を買いに行ったりするのに、山を越えて何日も歩いていくのが普通だったんです。でも、携帯電話が使えるようになって、そうした情報のやりとりは一瞬でできるようになりました。

祈りの旗(ダル)と星空。

祈りの旗(ダル)と星空。

——そういう変化によって新しい情報やモノが手に入るようになると、便利になる反面、これまでのブータンの人たちの生活では考えられなかった状況も出てきそうですね。

関:ブータンでは基本的に、みんな同じであることが当たり前だったんです。みんな同じだから仲良くできるし、助け合いもできる。そんな中で、誰か1人だけが恵まれた状況になると、他の人も同じ思いをしたくなる。嫉妬みたいな感情も生まれてきます。ブータンの人たちの嫉妬深さはすごいです。「嫉妬の国」なんじゃないかと思うこともあります。

——誰か1人がいい思いをしてると、我慢できなくなっちゃうんですね。

関:タシヤンツェである時、1人の教員が韓国のヒュンダイ製の車をパッと買ったら、その周りの人たちもすぐに、ババババッと車を買いましたからね。ルピー・クライシス(外貨であるインドルピーがブータンの国庫に不足するようになった状況)の影響でローンが組めなくなってしまった時があったんですが、そうなる前の駆け込み需要はすごかったです。

——でも、ブータンの人たちの平均収入はそんなに高くはないですよね? 周りにつられてイキオイでローンで車とか買っちゃっても大丈夫なんですか?

関:そこがね、ブータンの人たちってある意味すごいなあと思うんですけど、「まあ大丈夫でしょ」という精神があるんです。僕が借金しちゃったら「やばいよ、どうしよう、将来不安だよ」ってなりますけど、彼らは全然そうならない。僕はそういう自分の内面まではブータン化できなかったです。すごく楽天家なんですよ。見方を変えればバカなところもあるのかもしれませんが、そこがブータンの人たちの欠点でもあり、いいところでもあると思います。

次回のインタビュー後半では、ブータンの人たちの人間関係のリアルな実態や、関さんが写真家としてブータンに惹きつけられる理由などについて、引き続きお話を伺います。

関健作 Kensaku Seki
1983年千葉県生まれ。写真家。2006年、順天堂大学・スポーツ健康科学部を卒業。2007年から3年間、体育教師としてブータンの小中学校で教鞭をとる。現在、写真家の道を選び、ブータンやチベット文化圏をはじめ世界各国の人々を撮影している。また、ブータンの価値観を伝えるべく、講演会や執筆活動も行っている。 日本で唯一のブータン語(ゾンカ語)翻訳、コーディネーター。著書に『ブータンの笑顔  新米教師が、ブータンの子どもたちと過ごした3年間』(径書房)『祭りのとき、祈りのとき』(私家版)など。
http://www.kensakuseki-photoworks.com


『ブータンの笑顔  新米教師が、ブータンの子どもたちと過ごした3年間』(径書房)
https://www.amazon.co.jp/dp/4770502168


『祭りのとき、祈りのとき』(私家版)
http://www.kensakuseki-photoworks.com


関健作 写真展「祭りのとき、祈りのとき」
2016年9月27日(火)〜10月7日(金)
会場:コニカミノルタプラザ
http://www.konicaminolta.jp/plaza/

聞き手:山本高樹 Takaki Yamamoto
著述家・編集者・写真家。インド北部のラダック地方の取材がライフワーク。2016年3月下旬に著書『ラダックの風息 空の果てで暮らした日々[新装版]』を雷鳥社より刊行。
http://ymtk.jp/ladakh/

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