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“ラダックならではの体験”ができる店とは?
インド北部、ヒマラヤの西はずれに位置するチベット文化圏、ラダック地方。一帯の平均標高は3500メートルに達し、周囲とは高山で隔てられていることから、長らく秘境の地とみなされてきました。けれど近年は、飛行機の増便や新しい道路の開通により、開発や観光化が急速に進められています。
ラダックの中心地レーの街も、ほんの10年ほどのうちに、街の中心にあったメインバザールが歩行者専用のモールとなり、きらびやかなショーウインドウの商店や、西欧風のしつらえとメニューのカフェやレストランなどが一気に増えました。ただ、そうした新しい店で、ラダックならではの体験や味わいを堪能できるかというと、必ずしもそうではない店も少なくないようです。そこでこの記事では、レーの街でラダックらしさを満喫できるレストランとカフェをご紹介します。
澄んだスープのトゥクパが絶品! ヤクボーイ・レストラン

レーのメインバザールの目抜き通りから細い路地を入ったところに、ヤクボーイ・レストラン(Yak Boy Restaurant)という人気の食堂があります。外観はそっけないしつらえの安食堂ですが、地元のお客さんでいつも混み合っています。

お店の中はかなり狭いので、人数次第で相席になるのは、ほぼ当たり前。混雑時にはしばらく待たされることも。席が空いたら、お店の人に指示に従って坐り、食べたいものを注文します。基本的にこの店では、チョウメン(焼きそばのような料理)とトゥクパ(チベット風の汁麺)とモモ(チベット風の蒸し餃子)の中から選びますが、おすすめは、ミックス・トゥクパ。トゥクパの上にモモがトッピングされている、インド北部のチベット文化圏で時折見かけるスタイルのトゥクパです。フルサイズだとかなり量が多いので、おひるに軽めに食べたい場合は、ハーフサイズで、と注文するといいでしょう。

ハーフサイズのミックス・トゥクパ。澄んだスープに浸った少し柔らかめの麺に、羊肉を包んだモモと、骨付きの羊肉が載っています。レーにある他のレストランのトゥクパと比べてもかなりシンプルなのですが、このスープが、何とも旨味たっぷりで。モモを少しかじって、スープに浸し、麺と一緒に頬張ると……最高なのです。
注意点としては、ラダックの食堂やレストランでは満月にあたる日を「ドライ・デー」として酒や肉を出さない習慣があり、その日はヤクボーイ・レストランもベジメニューのみになるため、羊肉を使ったミックス・トゥクパは味わえなくなります。この店への訪問を計画する際には事前に確認しておくとよいかも。
レー旧市街の古民家の雰囲気を味わえる、ララズ・カフェ

レ-の街には、ラダック王国のかつての王宮、レー・パレスの麓に、旧市街と呼ばれる一帯があり、迷路のように入り組んだ区画に、古くからの建物が建ち並んでいます。そうした中に、古い建物を修繕・改装して営業している、ララズ・カフェ(Lala’s Cafe)という古民家カフェがあります。

屈まないと頭をぶつけそうなほど小さな入口をくぐり、細い階段を登ると、ひっそりと静かな店内に入ります。窓が小さいのは、ガラスが普及していなかった時代に暖房効率を重視して建てられた、ラダックの古い建物ならではの特徴です。この建物は、チベット文化圏で古い建築物の修復活動を行っている団体、チベット・ヘリテイジ・ファンドによって運営されているのですが、ラダックの古民家特有のディテールをそのまま活かした内装に、同団体ならではのこだわりが感じられます。

壁際にしつらえられたチベット風のソファと小さなテーブルの席に坐り、ふう、と息をつくと、思いがけないほどリラックスできます。このララズ・カフェでは、ラダックで穫れるアンズやリンゴ、シーバックソーン(非常に栄養価の高いオレンジ色の小さな果実)などで作ったジュースをはじめ、オーソドックスなコーヒーやお茶、ちょっとしたスイーツなどもいただけます。旧市街の散策の途中で休憩するにはうってつけのカフェです。
ラダックの伝統工法で建てられた瀟洒なレストラン、ボナペティ

レーの表通りから少し路地を分け入ったところの広々とした敷地に、この街でも随一の人気のレストラン、ボナペティ(Bon Appetit)があります。夏の観光シーズン中のディナーは予約必須ですが、お昼時であれば、比較的ゆったりとランチを楽しむことができます。

このレストランの建物は、チベット・ヘリテイジ・ファンドの創設者の一人である建築家、アンドレ・アレクサンダーさんが、ラダックの伝統工法を活用する形で設計したものだそうです。南に面した部分に大きなガラス戸を配したモダンなデザインと、壁や柱や天井に用いられた伝統工法が融合していて、開放感と居心地のよさが同居した雰囲気を醸し出しています。アレクサンダーさんは2012年に心臓発作で急逝してしまったのですが、このボナペティのほか、レー市街にあるセントラル・アジアン・ミュージアムなど、彼が設計を手がけた建物は今も各所で目にすることができます。

ボナペティのメニューは、サラダやパスタ、釜焼きのビザなど、西欧風に寄せたものが多いのですが、チョコレート・モモなどの謎デザートのほか、「カオソーイ」と名付けられた謎の麺料理もあります。米の麺を使っているという点では、タイではなくラオスのカオソーイにやや近いかもしれませんが、それ以外の仕様はラオスのものともかなりかけ離れているので、これはもう、ボナペティのカオソーイ、としか言いようがありません(笑)。それでも味はなかなかおいしいので、筆者は一人でのランチ時によく注文しています。
スパイ映画のワンシーンを追体験できる茶店、ワシマ・バット

2025年に公開されたインド映画で第1位となる135億830万ルピー(日本円で約221億円)の興行収入を記録し、2026年には日本でも劇場公開されたスパイアクション大作『ドゥランダル作戦』。この映画の主な舞台は、パキスタン南部の都市カラチとその周辺という設定なのですが、インドの撮影チームがパキスタン国内に入るのは困難なため、インド国内の複数の場所で撮影が行われました。そうした撮影場所の一つがラダックだったのですが、作品の序盤に登場する印象的な場面が撮影された茶店が、レーの旧市街、前出のララズ・カフェのすぐ近くにあります。もともとは違う店名だったそうですが、映画の撮影で有名になってからは、ワシマ・バット(Washma Butt)、あるいはドゥランダル・カフェと呼ばれています。

『ドゥランダル作戦』では、ランヴィール・シンが演じる主人公のハムザが、彼が働くジュース店の店主であるアラムと、近所の茶店でチャイ(ミルクティー)を飲みながら腹を割って話し合う場面があります。その場面が撮影されたのが、このワシマ・バットの店内。壁には大小のポスターのほか、彼らが劇中で身につけていたものに似た丈の長いシャツが掛けられています。

映画の聖地巡礼が目的のインド人のお客さんたちは、このワンシーンが撮影された席に向き合って坐って、映画と同じようにガラスのコップに入れられたチャイをすすり、その場面を、連れか店員さんに頼んで撮影してもらうそうです。ファンなら確かに盛り上がりそうですね……。

『ドゥランダル作戦』に出てくるこの店のチャイは、とある理由で、しょっぱい味がするという設定なのですが、実際に注文して飲んでみたところ、ごく普通に甘い味のするチャイでした。味までどっぷり映画の気分に浸ってみたいという方は、オーダーする時に「塩を入れてください!」と、ダメもとで頼んでみるのも一興かも。
この『ドゥランダル作戦』に限らず、ラダックでは以前から映画の撮影がよく行われていて、日本でも話題になった『きっと、うまくいく』や『落下の王国』などの印象的な場面は、ラダック東部の高地にある湖、パンゴン・ツォで撮影されています。今後も、また新たな作品によって、パンゴン・ツォやワシマ・バットのようなスポットが増えるかもしれません。




