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第16回 BE-PAL里山WONDER通信
First Mission
野生キノコの識別はなかなかハードルが高いが、自分で育てたシイタケなら誤食の心配はなし。栽培といっても、自然度はかなり高いぞ!
本題に入る前に……今月の里山クイズ!
シイタケの原木にはえるカワラタケはシイタケの敵? それとも味方?

正解はこの記事の一番下にあります。
シイタケの原木栽培はひたすら忍耐!

シイタケに
育つのか~。
燻製、グリーンウッドワーク、薪ストーブ……。雑木を活かした日本のソト遊びにはいろいろあるが、初冬から早春に絶好のタイミングを迎える遊びがシイタケの原木栽培だ。
「木に何かをトントンと打ち込んで置くやつですね。ビーパルに来たからには一度は挑戦してみたいと思っていましたよ! 腕が鳴るなぁ」
ウキウキ顔の編集・ハラボーだが、シイタケ栽培の原理はまだわかっていないようだ。
「木にトントン打ち込む何か」というのは、種駒と呼ばれるキノコの素のこと。キノコはカビと同じ菌類。塊状の組織を形成する菌のグループがあり、その子実体の部分をキノコと呼ぶ。
キノコの主体は、どちらかといえば子実体より、その下に網の目状に張り巡らされた菌糸にある。種駒は木の切片にこの菌糸を移植したもの。日本酒作りでいえば種麹のような存在だ。
シイタケと競合する雑菌の活動が鈍る気温の低い時季に種駒を打ち込んでおき、シイタケファーストな環境を保ち続けることで菌糸が原木全体にいち早く広がるようにする。これが原木栽培の基本的なしくみだ。
「なるほど~。で、その子実体とやらのキノコってどれくらい待てば出てくるんですか? え、2年後? まさか……」
そう。シイタケの原木栽培はひたすら忍耐なのである。早い場合はひと夏越した秋や春にも出るが、本格的な収穫ができるのはふた夏後の秋。時間はかかるが、うまく菌糸が回っていれば以後2、3年は続けて楽しめる。
「売っているシイタケにも原木栽培とそうでないものがありますよね。原木シイタケって高いなと思っていましたけど、出荷までそんなに年数がかかっているんですね。納得です~」
とはいえ、2年は長い。じっと待っているとハラボーに異動の辞令が来てしまうかもしれないので、料理番組風にショートカットしつつお届けします。

栽培シイタケは品種改良が進んでおり、地域の気候特性に合わせたもの、発生時期や色形に特徴のあるものなど、さまざまな品種がある。
シイタケ栽培に向く原木
特によく出る ◎
- コナラ
- クヌギ
よく出る ⚪︎
- カシ・シイ・カシワ
- シデ・ミズナラ
出る △
- アベマキ・クリ・サクラ
- タブノキ・ハンノキ
ステップ1 穴あけ
原木は晩秋から早春に伐採したものが理想。

木が乾きすぎないうちに種駒の直径に合わせた丸ノミ(ハンマー状の専用道具)を打ち込んで穴をあける。電動ドリルに装着する専用錐もある。

丸ノミ先端の突起は円筒状で木屑が押し出される構造になっている。

垂直に打ち込むと、種駒がしっかり入る深い穴になる。穴の間隔は縦方向が20㎝程度。横方向は5㎝程度。チドリ状にあける。正確でなくてもよい。
シイタケはなぜシイタケなのか?

シイタケにはいくつか語源説があるが、漢字では椎茸と書く。シイの枯れ木に生えていたことから名付けられたとされる。シイが多い奄美地方では明治期には干しシイタケが特産品だった。本州でもシイの枯れ木に大発生することがある。
ステップ2 植菌

種駒は市販されている。固まっている場合はほぐす。

原木の穴に差し込む。このとき種駒を土に落とすと雑菌が入る可能性があるので注意。

打ち込みます
丸ノミのヘッド側で種駒をしっかり打ち込む。

菌糸は木の道管が走る方向に早く伸びるので、縦の穴の間隔はまばらに。横方向の間隔は密にするとバランスよく菌糸が回る。
ステップ3 仮伏せ

植菌が済んだら日陰を選んで横に重ねる。雑菌が付着しないよう、ブロックなどでやや浮かす。上からジョウロで散水しシートで被う。

育ちますように
時折シートを広げて原木が乾いていないかを確認する。乾いていたら散水する。高温に注意し、梅雨前までこの状態を維持する。
ステップ4 本伏せ

道は遠い…
梅雨に入ったら原木を移動。直射日光が当たらず比較的湿度のある場所を選び、原木を重ねるように立てかける。水分は必要だが、過湿は雑菌を呼ぶ原因になる。「6乾4湿」を目安に管理。
ウソのようなホントの話 叩くと発生がよくなる!

出ないと承知せん!
シイタケの発生時期が近づいたら、原木を棒で叩いてみよう。雷が鳴るとシイタケが豊作になることが昔から知られている。動かす、叩くなどの振動が子実体形成の刺激になることは、多くの実験で確かめられている。
ステップ5 収穫

出てくれてありがとう
ここからは2年前に植菌を済ませておいたモデル原木でお届け。秋らしい気温が続いて雨が降ると、一気に生え始める。成長が速いので、収穫のタイミングを逃さないように。

採れたてのシイタケは、まずは炭火焼きで。傘の裏を上に向け、しんなりとしたら醤油と日本酒をひと回し。
Complete!

原木栽培のシイタケは、うまみがひときわ濃厚。香りにも野性味がある。「こんなぜいたくな遊び、なかなかないです!」
2年も待てない人には手軽な菌床栽培キット!

キクラゲ版も!
栽培場所や原木、2年待つ根気もないぞという人におすすめなのが、室内で楽しめる菌床栽培キット。おがくずなどの基材に菌を混ぜたもので、数週間のうちにキノコが出る。
里山クイズの答え
答えは敵。シイタケの原木にはいろんな菌類の胞子がやってくる。栽培で一番の秘訣は、シイタケ菌が好む環境を維持し、雑菌類に先がけ原木の隅々まで菌糸を行き渡らせることだ。
雑菌がシイタケ原木に及ぼす悪影響は種類によってさまざまだが、写真のようなカワラタケの仲間はシイタケの生育を大きく妨げることで知られている。
※構成/鹿熊 勤 撮影/藤田修平
(BE-PAL 2025年12月号より)







