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ラダックの知られざる聖地、ポカル・ゾンを目指して

ラダック連邦直轄領(Union Territory of Ladakh)は、広大なインドの中でももっとも北に位置する地域で、平均標高が3500メートルにも達する、険しい山岳地帯です。ラダックには古くからチベット仏教を信仰するラダック人が多く住んでいますが、西の地域ではイスラーム教徒の住民の方が多く、異なる宗教と文化が入り混じって共存する土地でもあります。
ラダックには、その存在がまだあまり知られていない聖地が、いくつか残されています。今回取材することになったポカル・ゾンも、そのうちの一つです。現在は住民の大半がイスラーム教徒となっているラダック西部の只中で、険しい山々の奥にひっそりと存在する、古来からの仏教僧の瞑想の場とされています。
ラダックの中心地であるレーの街から、ポカル・ゾンの手前にある村、ムルベクまでは、距離にして200キロ弱。車で幹線道路を移動して、約5〜6時間の距離です。今回は、ラダックでも一番安い料金設定の車を1台チャーターし、レーから1泊2日の計画で往復してくることにしました。
上の写真が、今回の取材で車に同乗したメンバー。左の男性は、車のオーナーでドライバーのスタンジン・ツェワンさん。中央の男性は、ムルベク出身のタシ・ナムギャルさんで、ポカル・ゾンまでの道案内をしてくれることになりました(彼の奥さんが、僕のザンスカール人の友人の親戚で、そのご縁で道案内をしてもらえることになったのです)。右の女性は、タシさんの妹のスタンジン・チョモさん。ダライ・ラマ法王14世の法話を聞きにレーに来ていたので、ムルベクまで一緒に乗っていくことになりました。
“月世界”と呼ばれる地に建つ僧院、ラマユル・ゴンパ

レーから幹線道路を西に125キロほど進むと、ラマユルという村のあたりで、ドロドロに溶けたのがまた冷えて固まったかのような、黄褐色の岩が連なる場所が現れます。その異様な形状から、“月世界(ムーンランド)”とも呼ばれている地帯です。

“月世界”と呼ばれる地形の只中にある、ラマユル・ゴンパ。チベット仏教ディクン・カギュ派に属する僧院です。200名ほどの僧侶がこの僧院に所属していますが、常駐している僧侶は数十名程度だそうです。
この僧院にまつわる正確な歴史は定かではありませんが、現地の言い伝えによると、太古の昔、この場所にはルー(水の精霊)が住む湖があり、ある聖者がルーに供物を捧げた後、湖岸を杖で叩いて決壊させたところ、今のラマユルの地が現れたとされています。聖者がルーに供物として捧げた麦粒が卍(ユンドゥン)の形に並んでいたという伝承から、この地はユンドゥンとも呼ばれています。
16世紀頃、ディクン・カギュ派の高僧によってこの地に僧院が建設され、このゴンパの正式な名称でもあるユンドゥン・タンパリンという名が与えられました。ただ、19世紀のドグラ軍のラダック侵攻の際、これらの建物は徹底的に破壊されてしまい、僧院の歴史を記録した古文書も焼失してしまったそうです。現在あるラマユル・ゴンパの建物の大半は、その後に再建されたものなのだとか。

ラマユルからさらに西に進んでいくと、フォトゥ・ラとナミカ・ラという、標高4000メートル前後の峠を2つ越えることになります。峠の頂上には、この土地で道路の敷設と整備を担っている組織、BRO(Border Roads Organisation)の作った記念碑や看板が建てられています。

こんな撮影スポットを作っても、はたして写真を撮る人はいるのかな……と思っていたのですが、インド人の旅行者には大人気でした。

レーの街から西に約175キロ移動し、ムルベクの村に到着しました。村の少し手前で、家に戻るタシさんの妹のチョモさんと別れ、以降は3人で行動することになりました。
ムルベクには、幹線道路沿いの高さ十数メートルの巨大な岩に彫刻されたチャンバ(弥勒菩薩)の摩崖仏があり、多くの人々が参拝に訪れます。7、8世紀頃に作られたものという説もあるようですが、詳しいことはわかっていません。摩崖仏の麓には、チベット仏教ドゥクパ・カギュ派に属する小さなお堂がありました。
早朝にレーを出発し、昼頃にようやくムルベクまでやってきた僕たちは、いよいよ、ここからほど近い場所にある聖地、ポカル・ゾンを目指します。








