山菜を求めてマタギとともに東北のブナ林へ入った! - 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2025.05.12

    山菜を求めてマタギとともに東北のブナ林へ入った!

    山菜を求めてマタギとともに東北のブナ林へ入った!
    落葉広葉樹林では、高木が展葉する前、いち早く春の日差しを受けようと林床にスプリング・エフェメラル(春植物)が展開する。このなかに旨い種が豊富にあるのだ。照葉樹林帯で育った筆者は、子どもの頃から落葉広葉樹林の山菜採りが憧れだった。そして、遅い春を迎えた東北や甲信越の森へ。そこは伝統的狩猟集団であるマタギが活躍した地域であった!
    白神山地の中核を遠望する。青森県西目屋村にて。

    そろそろ東北地方にも遅い春が来る頃だろう。春の東北といえば、山菜採りである。西南日本の照葉樹林帯では、つくし(スギナの胞子茎)、ワラビ、ノビル、ヨモギ、タラノキ、コシアブラ、地域によってはイタドリなどの道脇や若い二次林に生える山菜が多く、森の奥深くまで山菜を採りに行くことはまずないといってよい。しかし、東北地方あるいは甲信越の落葉広葉樹林帯、典型的にはブナ林では成熟した森のなかに山菜を求めるのがふつうである。

    マザーツリーとよばれるブナの大木。胸高幹周り465cm、樹高30m、推定樹齢400年とされている。青森県西目屋村にて。

    落葉広葉樹林の林床に豊富なスプリング・エフェメラル!

    落葉広葉樹林では春先に雪が溶けた直後、高木が展葉する前に林床まで光が差し込む時期があり、その束の間にスプリング・エフェメラル(春植物)とよばれる草本が一斉に新葉を展開し、花を咲かせることが知られている。地上での出現期間が短く、食われることに対して化学的にあまり防衛されていない葉を持つ。

    いっぽうで、常緑広葉樹林である照葉樹林ではそのような植物がほとんどなく、どの草本も被食に対して化学的にじゅうぶん防衛されていることが、森のなかで食べられる山菜が少ないことと関係していると睨んでいる。

    ともあれ照葉樹林帯に育ったわたしにとって、ブナ林の山菜採りは子どもの頃から憧れであった。この歳になってからは、春になると東北や甲信越の山菜を求めて旅をすることが多い。

    山菜の豊かな東北・甲信越の奥山はマタギが活躍した地

    クマ猟に特化したマタギ集団。マタギ発祥の地とされる秋田県阿仁のマタギ資料館にて。

    この山菜を求めて分け入る東北と甲信越の奥山は、伝統的猟師集団であるマタギが活躍した地域と一致している。マタギとは、東北地方から中部地方にかけて、春クマ猟、つまり冬眠から醒めたクマを獲って肉や毛皮、胆嚢を得てきた猟師集団である。

    ツキノワグマの頭骨(鈴木松治氏蔵)。秋田県阿仁のマタギ資料館にて。

    基本的には農業を営みながら、季節を選んで山に入って狩猟、炭焼きなどの山仕事に従事してきた。とくにマタギ集落として有名なのは、青森県の西目屋や深浦、鯵ヶ沢、岩手県の沢内、秋田県の阿仁・根子・笑内・打当ほか多数、山形県の小国、新潟県の三面、新潟県から長野県にまたがる秋山などである。

    マタギが文書とオコゼを持って山に入ったのはなぜか?

    奥山と野生動物を知り尽くしたマタギは、近世後期からは火縄銃、明治になってからは村田銃という鉄砲の使用で、突出した技量を示すようになる。頭領(シカリ)の統制のもとで、伝統的な狩猟技術、信仰、儀礼を伝承し、資源保全的な狩猟をおこなってきたとされる。シカリの家には『山達根本之巻』などのマタギ文書が代々伝えられてきた。

    シカリの家に伝わる『山達根本之巻』(伊東仙一氏・柴田重男氏・鈴木松治氏蔵)。秋田県阿仁のマタギ資料館にて。

    マタギ文書はマタギの由来と権威を記した秘伝書で、昔は狩りで山に入るときは必ず身につけたという。これらはとても神聖なものであり、家族にも見せてはならなかったとされる。巻物は、峰から峰へと藩界越境の許可証となったとされるが、実際のところはその効力を認めるか否かは領主権力の判断に委ねられていたらしい。

    またマタギの信仰する「山の神」は嫉妬深い醜女であるとされ、より醜いオコゼを供えることで神が喜ぶそうだ。そのためマタギは猟の際にはオコゼの干物を懐に入れて持参したという。

    シカリの家に伝わるオコゼの干物(鈴木松治氏蔵)。秋田県阿仁のマタギ資料館にて。

    世界自然遺産の白神山地は人跡未踏の地ではない

    マタギ文化の伝承が意欲的にされている場所のひとつは、世界自然遺産で知られる白神山地の周辺である。白神山地は、青森県と秋田県にまたがるブナ林の天然林が広がる地帯である。ツキノワグマやカモシカの生息地であるとともに、大型キツツキであるクマゲラが住む本州で数少ない場所のひとつである。

    一般的に想像されているのとは違って、白神山地は人跡未踏の地ではない。おそらくは中世、少なくとも近世からは、青森県側では赤石川沿いの赤石マタギ、岩木川沿いの目屋マタギ、笹内川沿いの岩崎マタギ、追良瀬川沿いの深浦マタギ、秋田県側では藤琴川沿いの藤琴マタギといった人々の狩猟や山菜採りの場であったのだ。

    青森県で目屋マタギの伝承を継ぐ工藤光治さん。右にあるのは「こだし」という山用リュックサックで山菜採りの必携品。中型を「めしこだし」、大型を「おおこだし」という。これは「おおこだし」。左にあるのはホウノキの萌芽枝でつくった杖。青森県西目屋村にて。

    マタギの末裔と植物生態学者の案内で白神のブナ林へ

    白神マタギ舎の工藤光治さんと牧田肇さんのご案内で、青森県西目屋村を訪ねたのは、2007年6月であった。工藤さんは旧砂子瀬の生まれで、父・作太郎氏は目屋マタギの頭領であった。お父さんの指導で15才から狩猟、林木伐採、炭焼きなどの見習い修業を始めたという方である。

    牧田肇さんは長年、弘前大学で植生地理学と環境科学を教えてこられた。植物生態学の大先輩だ。丸一日、白神山地の世界自然遺産外側でおふたりにご同行をいただいて、マタギの山菜採りの知恵を教わった。

    湯本貴和さん

    1959年徳島県生まれ。日本モンキーセンター所長。京都大学名誉教授。理学博士。植物生態学を基礎に植物と動物の関係性を綿密に調査。アフリカ、東南アジア、南米の熱帯雨林を中心に探検調査は数知れず。総合地球環境学研究所教授、京都大学霊長類研究所教授・所長を務める。京大退官後も旅を続け、調査を続け、食への飽くなき追求を続けている。著書に『熱帯雨林』(岩波新書)、編著に『食卓から地球環境がみえる〜食と農の持続可能性』(昭和堂)などがある。日本初の“食と環境”を考える教育機関「日本フードスタディーズカレッジ 」の学長も務める。

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