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2025.01.29

ボノボの棲むアフリカ・コンゴのワンバ村では特別な日にブタを解体するのだ

ボノボの棲むアフリカ・コンゴのワンバ村では特別な日にブタを解体するのだ
2012年、湯本貴和さんは20年ぶりにコンゴを訪ねた。今度はゴリラではなくボノボの棲む村だ。ボノボはチンパンジーに似るがスレンダー。異なる進化を遂げて平和的なライフスタイルも特徴である。いまだ謎の多いこの大型類人猿の棲む森に近い村の人々は、年に数回もない特別な日にブタをつぶして不公平なく分配して分かち合うという。

※写真はすべて湯本貴和さんの撮影

ワンバ村は小型機を降りてバイクで4時間半

コンゴ盆地の熱帯雨林

セスナからみたコンゴ盆地の熱帯雨林。小河川が光ってみえる。

コンゴ民主共和国の首都キンシャサから、ボノボの調査地であるワンバに向かう。キンシャサの国内線専用ンドロ空港から、チャーター機のセスナキャラバンでおよそ1時間半。まず向かうのはバンドゥンドゥ州(2015年の行政区画改革でマイ=ンドンべ州となった)のセメンドアという町だ。

ここで一度着陸して給油したあとに延々とコンゴ盆地の熱帯林の上空を飛行する。2時間半ほどほとんど人工物の見えない森の上を飛ぶ。ときおり光るのは、小さな河川か湿地である。土色の道が一筋走っていて、村々が見えることもある。

熱帯雨林の村

セスナから見た熱帯雨林の村。一筋の道が熱帯雨林を横断する。

そのうちセスナの高度低下を知らせる警告音が鳴り響き、空港とは言い難い赤道州(2015年の行政区画改革後はチュアパ州)ジョルの離着陸場、いわゆるエアー・ストリップに着陸する。

このジョルの離着陸場で簡単な入域チェックを受け、そこから80kmの道のりを4時間半かけて、バイクの荷台に乗って移動する。

コンゴのバイク

ジョルからバイクの背に乗って出発。

1990年代以前にはプランテーション経営のためにトラックも通った道だったが、いまは自動車自体がジョルに1台しかないという。そのため移動手段は、歩きか自転車か、それともバイクかに限定される。途中、壊れた橋を修復しながら進む。

コンゴの橋の上

ジョルからワンバへの道は、いまはバイクや自転車が通るのみ。途中にあるいくつもの橋を注意して渡らなければならない。

点在する村を通過するたびに、子どもたちが「モンデレ!」と叫びながら手を振ってくれる。モンデレとは、リンガラ語で白人という意味だ。スワヒリ語圏では、同じ文脈で「ムズング!」あるいは複数形で「ワズング!」が使われる。この地域がリンガラ語圏であることを実感する。

チンパンジーと同じ属だが、ボノボはスレンダー

ボノボの集団

ボノボの集団。観察している集団と個体には、それぞれ研究者が名前をつけている。これはE1集団で、右上にジャッキー、真ん中がホシ、左がサラ、歩いているのがフク。

わたしたちの目的地はワンバという村である。ワンバは、1973年に加納隆至さんの広域調査によってボノボの調査地として見出された。

その後、ボノボの餌付けに成功し、内戦でザイールでの調査が全面的に中断されるまでボノボの野外研究が続けられていた。内戦終結後に調査が本格的に再開したのは2002年である。

ボノボはチンパンジーと同じ属の大型類人猿であり、コンゴ民主共和国だけに生息する。1929年にチンパンジーの新亜種として記載された。

チンパンジーの基準標本が記載されたのが1779年なので、遅れること150年である。姿はチンパンジーに似ているが、見慣れたひとなら間違うことはない。ボノボのほうが相対的に手足が長くて、全体としてスレンダーに見える。

ボノボの分布は熱帯雨林地帯であるコンゴ川左岸に限定されており、チンパンジーが4亜種に分かれてギニア湾岸北部、コンゴ盆地を経て大地溝帯の湖沼群沿岸にかけて、植生でいえば熱帯雨林からサバンナまで広域に分布しているのと大きな隔たりがある。

チンパンジーと同様に複数のオトナオスと複数のオトナメス、それにワカモノや子どもたちで構成される集団(パーティー)で生活し、状況によって柔軟に離合集散する特徴がある。

ボノボ2頭

ボノボのオスは生涯、生まれた群れから離れず、互いに強い絆で結ばれている。グルーミングをしているテン(右)とタワシ。

集団のオスたちには血縁関係があって、オスは一生涯、生まれた集団に留まるのに対して、オトナメスが集団間を移動する父系社会である。

社会関係でチンパンジーと大きく異なるのは、隣接集団との関係である。チンパンジーが隣接集団と常に対立し、ときに殺し合いに発展するほど敵対的であるのに対して、ボノボは隣接集団と融和的である。そのため、ボノボではときに隣接集団を含めた大きな集団が見られることがある。

特別な日、ワンバの村民はブタを公平に分け合う

わたしたちのワンバの村での日常食は、米、キャッサバ、調理用バナナ、サツマイモを主食に、葉物野菜であるキャッサバの葉の煮物、赤インゲン豆の煮豆、ニワトリやアヒルのシチューをメインにして、ときに川魚やキノコ、山菜などが混じるといったものだ。

ボノボ調査キャンプの日常食

ワンバでわたしたちが食べた日常の食事。上から時計回りにリンガラ語で、ベイヤ(クズウコン科Megaphrynium macrostachyumの新芽)、クワンガ(キャッサバ)、マデス(赤えんどう豆)、ロソ(米)、ソソ(鶏)、ンビシ(魚)、中央の緑がかったのがポンドゥ(キャッサバの葉の煮物)。赤いのはピリピリ(自家製の唐辛子ペースト)で、ムワシ・ンドキ(女性の邪術師)という物騒な名前がついている激辛トウガラシをニンニクと岩塩で練り上げた調味料だ。

調理には、男性を料理人として雇っている。クリスマスや送別会などの特別なときには、ブタを解体することもある。そのときは衆人監視のもとで、それぞれの役割やこれまでの経歴を考慮して、肉が不公平のないように分配される。

ブタの解体

ブタの解体は年に何回もない一大イベントである。差配する長老は別だが、さすがにオトナが出てくるのは物欲しげでカッコ悪いらしく、多くの家は子どもたちを肉の分配現場に派遣する。みんな真剣なまなざしだ。

湯本貴和さん

1959年徳島県生まれ。日本モンキーセンター所長。京都大学名誉教授。理学博士。植物生態学を基礎に植物と動物の関係性を綿密に調査。アフリカ、東南アジア、南米の熱帯雨林を中心に探検調査は数知れず。総合地球環境学研究所教授、京都大学霊長類研究所教授・所長を務める。京大退官後も旅を続け、調査を続け、食への飽くなき追求を続けている。著書に『熱帯雨林』(岩波新書)、編著に『食卓から地球環境がみえる〜食と農の持続可能性』(昭和堂)などがある。日本初の“食と環境”を考える教育機関「日本フードスタディーズカレッジ 」の学長も務める。

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