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自然の中で生きる犬の物語 『野性の呼び声』からガク写真集の話

2020.09.01 (閲覧数) 285

自然の中で生きる犬の物語が好きだ。
「であれば、あれしかない」
普段から本を整理していない私は、真夏の殺人的な暑さ、冷房のない部屋で、お目当ての本を探し始めた。汗まみれになったけど見つけた。

『野性の呼び声』ジャック・ロンドン 深町真理子訳 2007年(新訳)
『カヌー犬・ガク写真集 しあわせな日々』 野田知佑 1998年

まず感想文を書く前に自分と犬との関わりを少し書いてみたい。昭和31生まれ、調布市、東京都下とかと言われる郊外で育った。昭和30年代、この地での犬の飼い方はこんな感じだ。一戸建ての平屋の家、庭は広めで、手作りの犬小屋がある。餌は残飯。たまに食肉店などで豚や牛の骨を貰って食べさす。そして驚くことに、この辺りでは、散歩代わりに夜中に犬の首輪を外して放し飼いにしていた。

バイクで通勤していた私の父が、夜中、犬の群れが甲州街道を横切るのを何度も見ている。その当時、甲州街道を越えると人家は減り、深大寺、三鷹の天文台など森と闇の世界が広がっていた。そんな環境で首輪を外された犬たちは、野性の本能が呼び起こされ、群れを作ってさすらっていた。その生態は今やほとんど知られていない。

ようやく感想文となる。
『野性の呼び声』。1903年初版だから、明治36年。犬を擬人化した冒険小説。2020年ハリソン・フォード主演でディズニーが映画化をしている。飼い犬だったバックが、アラスカで橇犬になり、やがて野性を取り戻す物語である。文体は今で言うハードボイルド小説調で、自然の猛威も、犬の殺し合いも、人間からの虐待もインディアンの攻撃も、残虐なシーンも淡々と描かれている。

カリフォルニアの大きな屋敷で、家族の一員として飼われていた大型犬のバック。ある日、金に困った屋敷の庭師見習いの男に掠われて、売り飛ばされてしまう。売られた先はアラスカ、橇犬として使われるためだ。ゴールドラッシュに沸くアラスカにおいて、犬不足(橇犬とし酷使するため死ぬ)から大型犬が盗まれていた。そんな運命に翻弄され、アラスカの自然の猛威の中で、バックの冒険と野性への回帰の旅が始まる。

橇犬の業者は、棍棒で殴り、暴力によってバックを人間に服従させた。また橇犬どうしも弱肉強食の世界であり、一緒に連れてこられた犬が、服従のため腹を見せたとたん、古参の犬達にかみ殺された。そんな環境だったが、頭のいいバックは持ち前の反骨精神で徐々に野性の能力を取り戻していく。最終的に犬橇のリーダー犬との死闘で、相手を咬み殺し、リーダーを勝ち取るまでになる。

どんどんと野性化していくバックだが、巡り巡って最後の飼い主となったソーントン(映画ではハリソン・フォード)だけには、犬として忠誠と親愛を示した。またソーントンからも愛された。この辺りが、野田知佑さんとガクと付き合い方となんとなく重なってくる。

そのソーントンはインディアンの襲撃により殺されてしまうのだが、それを最後にバックは野性の犬となり、オオカミの群れに紛れ、敵とみなしたインディアンを殺す。その後インディアン達に恐れられる犬、ゴーストドッグとして伝説になる。

短い小説だけど、時代背景として動物愛護もない。環境保護もない。そんな中でも、アラスカのユーコンという厳しい自然環境で生きながらもバックはソーントンを愛し信頼する。犬好きのアメリカ人にとって、フロンティア精神の琴線にも触れるのだろう、今でも読み継がれ、何度も映画化されている。

ここから『カヌー犬・ガク写真集 しあわせな日々』の感想となる。
BE-PAL読者には、今更書く必要はないほどに知られている野田さんとガクとの物語。アラスカのユーコンの旅はしあわせな日々だったと思う。野田さんとガクとの関係はソーントンとバックと同じような古代から続く人間と犬との忠誠と愛の関係だったと思う。互いに自分の事は自分でやり遂げる相棒であり、でも親子のような愛情関係もある。写真集の中、感情を抑えた乾いた文章で、ガクとのしあわせな日々を淡々と切なく野田さんが表現している。

私は犬と人の関係の中にも幾らかの野性の一面があると思っている。最初に書いたように、飼い犬でも夜中に群れを作って森を彷徨する。それでも飼い主に寄り添ってくれる犬。それが犬の特質だと私は子供の頃から思っていた。そしてそれがガクと野田さんの世界だった。
 
さて、そんな犬との幸せな関係を求めて、いざ大人になって犬を飼ってみると、なんだか世のなか全く違っていた。昔は放し飼いしていた地元でも、庭での外飼いも出来ず、散歩でもリードなんか離せない。夜中の遠吠えにもクレームがくる。昔は普通だった犬の世界にクレームがつく、うるさい、臭い、汚い、危ない、禁止、禁止!となっている。

野田さんや椎名誠さんが言っていたように、日本は「犬と子供にとって最低の国」となっていた。寛容さと自己責任よる冒険と自由は消えていた。

父が国道で群れて走る犬たちを見た頃。それがまだ野性を残していた日本の飼い犬の最後の姿だったのだろう。そして、その群れを引っ張るボス犬、実は我が家の犬だった。名前はキング、日本犬とジャーマンシェパードの雑種で、ガクと姿形がよく似ていた。つまりガクと野田さんの写真集は私にとっての夢物語である。

Ikesannさん

色々と遊んでいます。

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