ブータンの「石風呂」「ピュアハニー」「バターマッサージ」に癒やされる!

2019.11.14

私が書きました!
イラストエッセイスト
松鳥むう
離島とゲストハウスと滋賀県内の民俗行事をめぐる旅がライフワーク。今までに訪れたゲストハウスは100軒以上、訪れた日本の島は102島。その土地の日常のくらしに、ちょこっとお邪魔させてもらうコトが好き。著書に『島旅ひとりっぷ』(小学館)、『ちょこ旅沖縄+離島かいてーばん』『ちょこ旅小笠原&伊豆諸島かいてーばん』(スタンダーズ)、『ちょこ旅瀬戸内』(アスペクト)、『日本てくてくゲストハウスめぐり』(ダイヤモンド社)、『あちこち島ごはん』(芳文社)、『おばあちゃんとわたし』(方丈社)、『島好き最後の聖地 トカラ列島 秘境さんぽ』(西日本出版社)。最新刊は初監修本『初めてのひとり旅』(エイ出版社)。 http://muu-m.com/

ブータンの石風呂・ドツォ

突然だが、私は常に背中が張っている。たぶん、職業病。同じ姿勢で長時間過ごしたり、硬い床やマットで寝ると必ずと言っていいほど、背中と頭が痛すぎて、数日間、食欲も減退して動けなくなる。(ちなみに、柔らかすぎるマットもNG物件)

それが……やって来てしまった。まさかのまさか、20年来楽しみにしていたブータンのこの地で。

民泊3日目の夕方。みんなが、きゃっきゃワイワイと楽しそうに晩ごはんを食べている隣の部屋で、ひたすら痛みと対局中の私。圧倒的に劣勢だ。時折、ツアーメンバーやガイドさんが心配して声をかけに来てくれる。が、それに返答するのも、自分の声が頭の中に響きまくって辛い(みなさん、申し訳ない…)。

実はこの日、夕食後に私がとても楽しみにしていたモノがあった。それは“ドツォ”。ブータンの石風呂だ。ブータンの人は、毎日お風呂に入る習慣はない。この石風呂も、本来は遠方へ巡礼旅に行って帰って来た人の疲れを癒すために行われる超レアなモノなのだ。「ブータンを知ってもらうために」と、今回、わざわざ用意してくださったとのコト。薪で火を起こし、数時間あつあつに熱した大きな石を水を溜めた湯舟にドボンッと入れる。すると、焼き石の熱で水がほかほかのお湯へと大変身を遂げるのだ。

はて? この光景、どこかで見た覚えがあるぞ……と、脳内の引き出しをあれやこれやと引っ張り開けてみる。そうだ! 新潟県の小さな離島・粟島の“わっぱ煮”や、秋田の“石焼鍋”の調理法と、とても似ているのだ。“わっぱ煮”も“石焼鍋”も魚などの具材と味噌と水を入れたわっぱの中に、あっつあつに熱した石を放り込むコトで温めて食べる。木の器しかなかった時代、それでも出先で温かいごはんを食べようと思った先人の知恵のなんと素晴らしいコトよ。そのお風呂バージョンが“ドツォ”だ。

ドツォの湯舟は、庭に建てらた小さな小屋の中にあった。屋根も壁もあるが、壁の下の方には隙間があり、入口は布のカーテンだけなので半露天風呂状態だ。民泊でお世話になっているこの3日間、シャワーも浴びてなかったので、ほっかほかの湯に入れるなんて、ありがたいコトこの上なし! しかも、なんと、ヨモギ入り! 腰痛、背部痛、頭痛と三拍子揃いぶみの私には、何にでも効能があるヨモギのマルチパワーにかなりの希望を託す。

痛みを堪えつつ、のっそりゆっくり服を脱いでいたら、家のちびっ子とその友人(ともに保育園児)が、きゃっきゃと入って来た。湯舟に手を浸けた後、近くにあったホースで水をジョロジョロと湯舟に入れ始めた。どうやら、湯の温度をみて、ご丁寧に冷ましてくださってるもよう。あ〜、いやいや、背中の痛いおばちゃんは、ほっかほかの湯に入りたいのだよ……気持ちは嬉しいけども(笑)。ふだん、水シャワーの彼らにとって、ドツォの湯は熱すぎるのだろうか?

「湯加減、どうですかー? 」ガイドのプブさんが小屋の向こうから声をかけてくれる。外では、家の男性陣と関さんとガイドさんたちが、何やら楽しげに話しをしながら、追加用の石を薪で焼いてくれている。タンチェ村の夜は8月下旬と言えどもフリースを羽織りたい肌寒さだ。足元の隙間から入って来る冷たい空気が、時々、肌で感じられる。でも、焼き石を突っ込んだ風呂の湯自体は、想像していたより温かかった。日本人は、なぜこんなにも湯の中に身を浸けるコトを好み、かつ、幸せを感じるのだろうか?
だが、しかし、ヨモギ湯に入ったからと言って、すぐに痛みがなくなるなどと言う夢のような魔法は、いくら神秘的な国・ブータンでも起こらなかった。

魔法の薬!? ブータンのピュアハニー

村の少し高い位置にあるこの家からは、夜の谷の景色がぼんやりと見える。灯りと言えば、各家の灯りがチラホラと見える程度だ。外のウッドデッキに置いてある椅子で、相変わらず死んでいる私に、ガイドさんが一杯の飲み物を持って来てくれた。「コレ飲んだら、楽になるから!」と。それは、たっぷりの蜂蜜を湯で溶かしたものだった。夜風にあたりつつ、ブランケットに包まりながら、ゆっくりと口に含む。「……んんっ!?」思わず、マグカップの中を覗きこんだ。私の知ってる蜂蜜の味じゃない! 身体が弱ってるから? はたまた丸一日何も食べてないからだろうか? 甘さよりも、なんとも香ばしくて深みのある味わいが口の中に広がっていく。

「めちゃくちゃ美味しい!!」

そう声に出したとたん、背中が少し軽くなったような気がした。死んでた自分の顔に魂が吹き込まれたかと思うほどのスイッチオン状態。すぐさま、2杯目を頂いてしまった。

この家では、庭で養蜂もやっていて、その蜂蜜なのだそう。庭の奥で、背丈の高い雑草に囲まれつつ、蕎麦の花がピンクの小さな花びらを風に揺らしながら咲いていた。その脇に並ぶいくつかの養蜂箱。そして、村の各家で使われている水は、山からポプジカ谷に流れ込む川からの水。蕎麦の花はもちろん、他の農作物にも農薬などは使われていない。変なモノが混じるコトもない。私が頂いたのは、自然界そのまんまの水と蜜でできたホット蜂蜜なのだ。

恐るべし! バターマッサージの威力!

それでも、頭痛までは完全に取り除けない。私は意を決して、ガイドさんと家のお父さんに懇願してみた。
「昨夜、お父さんが家族みんなにやってもらってたバターマッサージを私にもしてもらえませんか?」
昨晩、就寝前にチラッと見てしまったのだ。咳が止まらないお父さんが、上半身裸になって居間の中央に座り、奥さんや娘さんたち、はたまた孫たちが代わる代わるお父さんの背中をマッサージしている様子を。プブさんに「バターマッサージ」だと教えてもらった。バター? バターってマッサージに使えるものなの? 食べ物のイメージしかないのだけれど……。長年の背部痛のため、日本で色んなマッサージに首を突っ込んでは、毎度効かないなぁと落胆続きの私。初めて耳にするマッサージ名に、興味がむくむくと。また、後の旅程を考えると、道の悪い中での長距離車移動やトレッキングもあるので、少しでも痛みをなんとかしておきたいのである。藁にもすがる想いだ。

バターは、もちろん、家の牛たちのお乳から作られたモノ。牛が食べるモノにも、自然界にあるモノ以外入っていない。つまり、バターも純粋そのものなのだ。
部屋の奥からお母さんが持って来てくれたバターは石楠花の葉に包まれていた。この葉に包んでおくとバターが溶けないらしい。ブータンでは市場でもバターは石楠花の葉に包んで売ってあった。包みまで自然界のものだなんて、ムダもゴミもなく、万事素晴らしすぎる。

数日前、私たちがバターを頂いて、じゃがバターにして食べている時、酪農とジャガイモ農家をしていたら、じゃがバターは食べたりしないのかと聞いたら「バターは高級品だから、そんなに食べるコトはない」と言ってたお父さん。でも、バターマッサージは家族の誰かの具合が悪いとやるのだそう。「食材」ではなく「薬」としての役割が大きいよう。日本で言うトコロの馬油のような感覚だろうか? お父さんは、そんな大切なバターをたっぷり手に取り、大きな手のひらで溶かしはじめた。そして、恥ずかしさそっちのけで、上着の背中側をめくってスタンバイokな私。首から腰まで痛いと伝えると、背中全面くまなくマッサージをしてくれた。

特別なマッサージ方法でもなんでもなく、ただ何度も何度も、ゆっくりと力を少し込めつつ背中を撫でてくれる。小さな子どもがお腹が痛い時、母親に撫でてもらうようなそんな感じ(力はちょっぴり強め)。驚いたのは、お父さんの手の温かさだ。ホッカイロで撫でてもらってるのかと思うほど、撫でてもらう度にポカポカ度が増しに増し、痛い背中がどんどん温かくなっていく。バターもベタつくのかと思いきや、皮膚にスッと染み込んで、肌がサラサラのツルツルに。そして、更に驚愕すべきはマッサージ終了後。「はい、終わり」と、お父さんの手が私の背中を離れたとたん、あんなに酷かった背部痛と頭痛がどっかに消えてしまったのだ。「!!!??? 」色んなマッサージを体験して来たけれど、終わったとたんに、こんなに身体が軽くなったコトは初めてだ。なんたるゴッドハンド! 恐るべし、純粋バターの威力!!
「半分くらいの病気は、このバターマッサージで治ってしまうんですよ」と、お父さん。

お父さんのバターマッサージ開催中の情報を聞きつけたのか、お父さんの元へ家族が次々とやってくる。「指を痛めちゃった」「お腹が痛い」……etc.その度に、大きく温かなゴッドハンドで、ゆったりと丁寧にマッサージを施すお父さん。みんなたちまち治ってしまうから、本当にすごい。これこそ魔法かと思ってしまう。
きっと、バターの効果にプラスして、お父さんの人柄の良さと包容力も効力アップの要因のひとつかもしれない。

帰国後、相変わらず私の背中は痛い痛いと言っている。タンチェ村で買って来た蜂蜜を湯で溶かして飲みながら「バターマッサージ、してもらいたいなぁ〜」と、気持ちだけは常にブータンに飛んで行ってしまっている日々なのである。
あぁ……、バターマッサージが恋しい……。

データ

今回のブータンツアーの主催者
関健作 (カメラマン)
https://www.kensakuseki-photoworks.com/

GNHトラベル&サービス
https://gnhtravel.com/

写真一部提供/杉井清美

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