星空のランデブー| 天体観測史に残る「木星・土星の大接近」の目撃者になれ | 自然観察・昆虫 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2020.12.17

    星空のランデブー| 天体観測史に残る「木星・土星の大接近」の目撃者になれ

    私が書きました!
    星空案内人 
    廣瀬匠
    天文系ライター。株式会社アストロアーツで天文ニュースの編集などに携わる。天文学の歴史も研究していて、パリ第7大学で古代インドの天文学を 扱った論文で博士号を取得。星のソムリエ®の資格を持つ案内人でもある。アストロアーツから来年の星空と天文現象を解説する『アストロガイド星空年鑑 2021』を発売中。観察のための基礎知識も満載で、これをきっかけに星を眺めた いと思った方にオススメの一冊です!

    1221日、800年ぶりの大接近が起きる

    私は宇宙と人間の織りなす物語に興味を惹かれ、天文学史を研究してきました。夜空を眺めるとき、その天体や天体現象をめぐってどんなドラマが繰り広げられてきたのかがわかると、星空はもっと楽しく、賑やかになると思います。そんな星空の楽しみを、今回からご案内していきます。 

    今年の冬至、1221日に、木星と土星の大接近という、非常にめずらしい天文現象が起こります。今年はずっと木星と土星がつかず離れずの関係で、夜空を回っていましたが、このごろはその距離が詰まっていて、21日から22日にかけて最接近となります。最接近自体は、22日午前317分なので、日本で見えるタイミングで一番近いのは、21日の夕方。2つの惑星が6分(約0.1度)まで近づき、ほぼくっついて見える超大接近です。

    800年ぶりの大接近!

    満月の見かけ直径はだいたい30分で、1度の半分です。満月は思いの外、小さいものです。目安として、5円玉を持って月に向かって腕を伸ばすと、満月は5円玉の穴の中にすっぽり収まります。1221日、木星と土星の距離は、その約5分の1ということになります。

    どれほど貴重な現象なのかご説明します。

    天文シミュレーションソフト「ステラナビゲータ」で、西暦1年から3000年までの木星と土星の距離を計算してみました。すると、これほど大接近することは3000年の間で10回くらいです。直近の大接近は約400年前の1623年でした。ただし、このときは木星と土星に太陽が近く、観測は難しかったと思われます。 

    その前は1563年の8月26日です。接近距離は、今回よりちょっとだけ離れて7分でした。今回の接近距離6分よりも近いのは、その前、1226年まで遡らなくてはなりません。約800年前です。世紀の大接近どころか8世紀ぶりの大接近&観測チャンスということです。

    なぜこれほどレアなのでしょうか。それは公転周期と、惑星の軌道の傾きにあります。まず、太陽を回る公転周期は、木星が12年、土星は30年です。内側を回る木星のほうが早く回り、20年に一度、木星が土星を追い越すように接近します。つまり、木星と土星が接近すること自体が、20年に一度しか見られない現象です。 

    20年前の2000年にも木星は土星を追い抜きましたが、今回ほどは接近しませんでした。理由は、両者の軌道の傾きです。太陽系の惑星は地球も含めて、だいたい同じ面上を回っていますが、それぞれの軌道はわずかながら傾いています。そのため、20年に一度近づきはしますが、いつも微妙にズレています。そのズレが今回はとても小さいので、非常に近づいて見えるのです。

    観測は南西の方角が開けた場所で

    木星と土星の大接近は21日の前から楽しめます。17日の日没後、西の空に、木星と土星に加えて三日月が大接近しています。

    12月17日の日没1時間後、17時半の東京の空。木星と土星と三日月が大接近。(StellaNavigator/AstroArts)

    月は地球に近いので、毎晩、出る時間も沈む時間も違い、星の間を動いていくのがよくわかります。17日〜21日の間でも、月が西に沈む時間はどんどん遅くなって、木星と土星から離れていくのがわかるでしょう。

    一方、惑星はそこまで動きが速くありません。星々の間を動いていることは、長い目で観察しないと、なかなかわかりません。しかし今回の木星と土星のように接近していると、日々、両者の距離が縮まっていくのがはっきりわかります。惑星が動いていることが実感できる意味でも、貴重な大接近と言えます。

     観測場所の選び方のポイントは、西〜南西の方角が開けていること。西の方向に建物や街灯など明るいものがない場所が理想です。遠出しなくても、たとえば西の方向が開けているグラウンドや公園でもいいでしょう。

    高度は日没後1時間(札幌17時ごろ、東京17時半ごろ、福岡1815分ごろ)で15度くらいです。目安として、腕を真っ直ぐ伸ばして握りこぶしを作り、縦に向けたら小指と親指の距離が約10度、そのまま手を開いてパーにしたら小指と親指の間が約15度です。みなさんが想像する以上に低いと思います。十分に開けた場所を探してください。暗さより、開けていることが重要です。

    双眼鏡があれば楽しみが広がります。三脚があればなおよしです。性能にもよりますが、ある程度暗い場所で、天候のコンディションがよければ、木星の周りにガリレオ衛星と呼ばれる4つの衛星が見られるかもしれません。望遠鏡なら、土星のリングが見えるでしょう。ガリレオ衛星と土星のリングが一度に見られるなんて、こんな贅沢なことは滅多にあることではありません。それを見るチャンスが私たちにあるのです。

    12月21日、夕方の木星と土星を望遠鏡で見た図。木星のガリレオ衛星と土星の輪も。

    見えたらスマホで撮影してみよう

    最接近時の木星と土星を肉眼で見たとき、1つに見えるか、2つに見えるかは、その日、その時にならないとわからないというのが本当のところです。なぜなら、今生きている人の中で、こんな大接近を見た人はいないので、予測がつかないのです。視力などの個人差も影響するでしょう。 

    12月21日、日没1時間後、17時半の東京の空。どんなふうに見えるかはその日にならないとわからない。(StellaNavigator/AstroArts)

    この日、木星の光度はマイナス2.0度、土星はその十分の一ぐらいの0.6度です。見かけ上接近するだけで、光を強め合うわけではないので、仮に1つの星に見えたとしても、その明るさは単純に木星と土星を足し合わせた程度と考えられます。

    カメラ好きにとっては絶好の撮影チャンスです。低空であることを逆手に取り、地上の風景を入れるなど、構図の工夫もオススメです。カメラ機材がなくても、スマホで撮っておくことをオススメします。最近のスマホのカメラの性能は素晴らしく向上しています。 

    読者のみなさんもぜひ、西の方角の開けた場所を探して、天体観測史上に残る大接近の目撃者になっていただきたいと思います。その際、防寒対策を忘れずに。また、観測地では三密にならないようお気をつけください。気になるのはただ1つ、天候です。好天を願いましょう。

    構成/佐藤恵菜

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