
土星の環が消える? 大丈夫、消えたように見えるだけです。今年は15年に一度の「土星の環の消失」の年。前回は2009年でしたが、その時は太陽と同じ方向にあったため観察がむずかしい状況でした。今年は11月25日、秋の夜空に輝く土星の環は、ほぼ消失状態です。滅多に見られない環のない土星を見届けましょう。
「環のない土星」を見るラストチャンス
土星の自転軸は約26.7度、傾いています。地球の自転軸の傾きは23.4度ですから、それよりもう少し傾いていますね。土星は傾きを保ったまま公転するので、地球から見る環の傾きは時期によって変わって見えます。
土星は約30年かけて太陽を一周します。そのため、およそ15年ごとに、地球から見える土星の環の角度がゼロになり、水平になったときに「環の消失」が起きます。
土星の環の幅は小型望遠鏡で観察できる明るい部分だけで約5万キロメートルもあります。地球が4つほど並ぶ広さです。一方、厚みはというと、わずか数10メートル程度と言われています。とてつもなく薄いため、真横から見ると大きな望遠鏡でも見えなくなるわけです。
また、太陽が環を真横から照らした場合も、光が当たる面が小さすぎて環が見えなくなります。このような現象は、環の角度が地球から見てゼロになるのとほぼ同じタイミングで15年に一度起こります。

実は今年はこれまでに「土星の環の消失」状態になったことが2回ありました。
正真正銘の「環の消失」は3月24日で、地球から見て土星の環が真横に見える位置に来ていました。しかし、この日は土星が太陽の向こう側にあったため、地球から観察することはできなかったのです。
3月24日に真横になった環は反転し、徐々に傾きを取り戻していきました。反転後しばらくの間は、太陽光が環の北側を照らしていましたが、地球からは環の南側(太陽光の当たらない側)が見えていたので、環の暗い状況が続いていました。
そして5月7日、今度は太陽がほぼ真横から土星の環を照らし「環の消失」が起きました。この日の土星は東京なら明け方、低い位置に昇っていたので、早起きして観察にトライした人も多いでしょう。しかし、かなりむずかしかったことと思います。
そして3度目のチャンスが11月25日前後です。厳密に言えば、環が完全に消えるわけではありませんが、傾きが限りなくゼロに近づくので、小型望遠鏡では消えたように見えるかもしれません。何と言っても、過去2回の消失では土星が見づらいところにいたのに対して、この日の土星は秋の夜空で、主役級に輝いています。

5月7日以降の環はどうなっていたかというと、太陽光が環の南側を照らし始めたので、環は少しずつ明るく、見やすくなってきました。ところがそのまま環が見やすくなるわけではなく、地球と土星の公転の複雑の関係から、またも一時的に傾きが小さくなっていき、11月25日にまた、ほぼ真横になるというわけです。

見えない環の楽しみは影にあり
土星は望遠鏡初心者にとっても視野に入れやすい、楽しい天体です。望遠鏡の性能によりますが、小さな望遠鏡でも星の両脇がちょっと出っ張って見えたり、あるいはラグビーボールのようにずんぐりと見えたり、明らかに他の星とは違って見えます。
そんな土星の環が見えない時の見どころは? というと、環の影です。ある程度の性能の高い望遠鏡を要しますが、環そのものは見えなくても、環の影が土星に落ちて1本の黒い線が見えるかもしれません。どのように見えるか、実際に望遠鏡を向けて確かめてみてください。
11月25日以降はまた傾きが回復して徐々に環が見やすくなっていきます。このように時期によって見え方が変わるのが土星観察の楽しみです。今年いっぱいは秋の星座とともに観察できます。年末ともなると、だいぶ環が見やすくなってくると思います。環の近くを回る衛星にも注目してください。次に環が消失するのは2039年です。
構成/佐藤恵菜







