ビアジャーナリストが妻の実家へ移住!京都与謝野町のホップ畑でつかまえて | BE-PAL

ビアジャーナリストが妻の実家へ移住!京都与謝野町のホップ畑でつかまえて

2021.05.31

京都与謝野酒造のフラッグシップ「ハレバレゴールデン」。一般的なビールの10倍以上のホップを使用し、濃いインパクトあり。缶の表も裏も藤原ヒロユキさんのイラスト。

地域に根づいたクラフトブルワリーを紹介するシリーズ第12回は京都与謝野酒造。まだブルワリーはないがホップ畑はある。ビアジャーナリストでありイラストレーターでもある代表の藤原ヒロユキさんに話をうかがった。

「これは何ですか?」から始まったホップ栽培

京都与謝野酒造のある与謝野町は、京都の山間地から日本海へわたり、対岸には有名な天橋立がある。

 2012年に藤原ヒロユキさんは、ここでホップを植えてみた。与謝野町は妻の実家のある町。山も海も広い農地もある町が気に入り、盆暮れに帰省しているうちにたまたま手に入ったホップの苗を趣味的に植えたところ、2年目に毬花(房)が実った。

毬花をつけたホップを見た地元農家の人から、「これは何ですか?」とたずねられた。

日本のホップ栽培地は北海道や岩手、山形などの東北が知られる。家庭菜園は別として、関西でホップ畑を見かけることはない。農家の人は興味津々にホップを見て言った。「町の農林課に持っていっていいですか?」

まもなく「ホップを与謝野町ブランドのひとつにしたい」という話に発展していく。自然の豊かな土地である。稲作をメインに農業を生業とする町だ。一方で、人口2万人少々。減少がつづき、まちづくりには苦労している。農家人口も減る一方だから農地は余っている。ホップ栽培を提案すると、1軒の農家と、1つの農業法人が手を挙げた。

関西でホップ栽培をする農家はいない。だが、藤原さんは世界のホップ栽培地が緯度35〜55度にあることに着目。与謝野町は北緯35度33分の地点。寒冷地より収穫期間を長く取れるアドバンテージもある。藤原さんは栽培アドバイザーとして参画することになり、やがて東京から移住した。

摘み取り中の藤原ヒロユキさん。一般社団法人日本ビアジャーナリスト協会代表でもあり、国際的ビアジャッジも務める。

与謝野町にビールの醸造所があるわけではない。収穫したホップは、ビール造りに定評のあるブルワリーを選りすぐって卸した。

「いいホップができても、おいしいビールに仕上がらなくちゃ、ホップの評価につながらない」からだ。「与謝野ホップ」というブランドを確立するには、腕のいいブリュワーの協力が絶対に必要だ。納品先は京都府内ではキリンビール系列のスプリングバレーブルワリー京都や京都醸造、東京のT.Y.HARBOR、神奈川の湘南ビール、常陸野ネストビールで有名な茨城の木内酒造など、そうそうたるブルワリーである。ちなみにフラッグシップの「ハレバレゴールデン」の醸造は木内酒造に委託している。

ビアジャーナリストが与謝野でホップをつくるワケ

それにしても、なぜ藤原さんは移住してまでホップ栽培を始めたのか。

「海外のビール醸造家やビール評論家から、“日本のクラフトビールの特徴は?”と聞かれたときに、“これ!”と答えられるものがないんですよ。それがやっぱり悔しいというかね」

日本で「地ビール」が解禁されたのは1994年。それから四半世紀が経つが、いまだに海外における日本のクラフトビールの認知度は低い。ビアジャーナリスト歴20年以上の藤原さんは、そのことに忸怩たる思いを抱きつづけていた。

副原料に柚子やハッサクなどの柑橘類、山椒や梅など日本らしい食材を使ったビールはある。しかし、ビールの味の骨格を成す原料はモルトと酵母とホップだ。自前の主原料を使って初めて、“日本のビールはこれだ”と言えるのではないか。そういうビールがないと、本当の意味で日本のビールが評価されることはないのではないか……。そう考えた結果がホップ栽培だ。

「主原料の中で、ホップなら国産でできる。農業として成り立つ」

自前のホップをつくりたかった理由がもうひとつある。生のホップのおいしさだ。

「乾燥させていないホップ、火を入れていないホップ。こればっかりは国内でつくらないことには手に入らない。自分で摘むようになって、あらためて実感しました。生のホップはぜんぜん違う」

ホップの毬花。この中にビールの苦みや香味の元になるルプリンと呼ばれる粒々が入っている。

与謝野ではホップをすべて手摘み。蔓は切らずに実だけを摘んでいく。収穫の最盛期に、手慣れた人が1時間詰み続けても、収量は3キロが限度という。その日のうちに真空パックして、マイナス15度Cの冷凍庫に入れる。真空状態の凍結ホップにするのだ。

品種は栽培当初、アメリカとヨーロッパから20種ほど仕入れた。5年が経った今、ここの気候や土壌に合う品種が10種ほどに絞られてきているという。

5月現在、京都与謝野ホップ生産組合で販売されている品種はカスケード、コロンバス、チヌーク、イブキ、ザーツ、センテニアル、マグナムなどなど(イブキは日本品種)。すでに与謝野のテロワールが現れ始めているという。

「アメリカ産やヨーロッパ産と比べると、風味がちょっと上品な感じがするという評判です。アメリカ産のように派手じゃないしケバケバしくない。言うなれば、京都らしい」

カベルネソーヴィニヨンのワインがボルドーとチリでは違う性格が出るように、海外産のホップが京都で育つとはんなりとするようだ。これがあるから醸造家は地元産の原料でビールを造りたいと思うし、飲み手は飲みたくなる。

醸造家が鍛えられるGYMのようなブルワリーを

京都与謝野酒造は来年の夏をメドに、いよいよ自前のブルワリーを持つ予定だ。

「ブリュワーが集まってお互いに鍛えられるような、GYMのようなブルワリーにしたい」と藤原さんは語る。今や日本全国、クラフトブルワリーは400を超える。うまいビールを造るブルワリーも数多い。

「いろんな醸造家とコラボしたいと思っています。与謝野ホップを使ってもらって、それぞれ与謝野のイメージに合ったビールを造ってもらえたら。お互いに技を競ってオリジナルのビールが生まれるといいですね。さらには、地元の若者がここに来て手伝いながら醸造を学んでいける場になれば」

町への経済効果という点では、「正直まだまだ」らしい。けれどGYMのような、ラボのような、道場のようなブルワリーが一軒あったら素晴らしい。日本のブリュワーの腕が上がる、海外からも醸造家の卵が訪れる……。そんな醸造コンペのような場を期待したい。

手摘み体験ができる「ホップレンジャー」募集中

手摘みで収穫中のYOSANOホップレンジャー。農作業の後のビールはますますうまい!

与謝野町では農作業を手伝う「YOSANOホップレンジャー」を募集している。3月から9月の栽培期間、事前申し込みは必要だが(https://yosano-kankou.net/hoprangers/)、いつでも受け入れている。時期にもよるが、ホップの手摘みが体験できる畑はそうはない。ビール好きなら生のホップの香りにクラクラすることだろう。収穫期に訪れれば、とれたてホップのビールが味わえることだろう。

作付面積はまだやっと1ヘクタール少々。土地はある。畑を増やしていきたいと藤原さんは思っている。

「最近はビール以外にもホップが使われているんですよ」

神戸の有名なパティシエが藤原さんの畑まで来て買い付けて行ったという。食品や化粧品など、ビール業界外からも注目され始めている。ホップの香りを活かしたスイーツやフレグランス、ビール酵母で発酵させたパン……。ホップの可能性も広がっている。

与謝野の山に抱かれたホップ畑。与謝野町は天橋立が一望できる大内峠や、大江山登山口に位置する双峰公園などキャンプ場も充実している。 

住所:京都府与謝郡与謝野町字与謝855
https://yosanobeer.myshopify.com

 

私が書きました!
ライター
佐藤恵菜
ビール好きライター。日本全国ブルワリー巡りをするのが夢。ビーパルネットでは天文記事にも関わる。@ダイムやSuits womanでも仕事中。
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