にっぽん刃物語「ガキ大将養成ナイフ」~30泊もキャンプをすれば“手” は昔の子の水準に戻る~ | BE-PAL

にっぽん刃物語「ガキ大将養成ナイフ」~30泊もキャンプをすれば“手” は昔の子の水準に戻る~

2019.03.27

刃物の持ち主
ハローウッズ 森のプロデューサー
㟢野隆一郎さん
さきの・りゅういちろう 鹿児島県生まれ。然別湖ネイチャーセンター(北海道)を経て2000年より栃木県茂木町のハローウッズで活動。
※ 所属や肩書は取材当時のものです。

30泊キャンプの初日、㟢野さんから子供たち全員にプレゼントされるナイフは芦刃物製作所のLOG。ステンレス鋼製で握りは天然木。収納用の革鞘がつく。「研ぎもさせます」(㟢野さん)。

誰もがポケットの中に肥後守を入れ、自然の中で遊びまわっていた時代は遠い昔のこと。子供の指先が不器用になったといわれだして久しいが、原因は大人が作り上げた社会の側にある。ガキ大将はほんとうに絶滅したのか?

「子供に刃物をちゃんと使わせたかったら、ほんとうは親がかっこいいところを見せるのがいちばん」(㟢野さん)。でも、現実にはそれさえも難しい。自然体験施設の存在意義は高まるばかりだ。

轟音を立ててクルマが走るサーキットのすぐ外側は、子供たちが生き物を追いかける里山。㟢野隆一郎さんがプロデューサーを務める『ハローウッズ』は、ちょっと不思議な自然体験空間だ。運営するのは自動車メーカーのホンダである。

「面白いだろ。クルマは現代文明。森は自然。ここではその対立的なシンボルが同居しているんだ。矛盾だという人もいるよ。でも人間のしてきたことはそもそも矛盾だらけ。自然が大切であることにはやっと気付いたけど、文明も捨てられない。ハローウッズの里山は、そんな矛盾や現実を知り、新しい解を考えてもらう場でもあるんだ」

ガキ大将が大人になったようなエネルギッシュな人である。物心ついたときからポケットには肥後守が入っていた。鳥を見れば石を投げ、マムシを捕まえると皮をむき焼いて食べた。

人生で大事なことはすべて自然から学んだという㟢野さんがずっと力を入れてきたのが、子供たちの野生力回復だ。ハローウッズの夏の名物に「30泊31日キャンプ」というサバイバル的なプログラムがある。最初に与えられるのは1本のナイフ。そして古代式の火おこし道具だ。

「以前は炭素鋼の折りたたみ式ナイフを持たせていたんだけど、毎日料理や作業に使うので、握りがしっかりしていて手入れが簡単なシース(鞘)式のステンレス・ナイフにしたんだ。火は最初、マッチで練習させます。要領がわかったら錐揉み式の火おこし。火をおこせない班は飯抜きです。泣こうがわめこうが食わせない。4日間水と栄養ドリンクしか飲めなかった子たちもいるけど、最後は執念だね。ちゃんとおこした。人間、死に物狂いになればなんだってできる。それを実感してもらうためのキャンプなんだよね」

当然ながら今の子はナイフ使いがおぼつかない。魚の三枚おろしをさせると、手の熱で魚が白くなるほど握り続けたあげく、ぼろぼろにしてしまう。

「でも、それでいい。子供にとっていちばん大事な経験は失敗だから。たしかに今は、刃物の扱いだけでなく、身体感覚や空間把握力もおかしな子が多いよ。電子機器ばかりで遊んでいる弊害だと思うね。けど、そう案ずることもない。子供の本質って昔も今もそう変わらないよ」

その本質とは吸収の速さだという。30泊もキャンプ生活をさせれば、ナイフを持つ手は昔のガキ大将と同じ水準になる。

「死に物狂いも技術を上達させるけど、上達の秘訣ってもうひとつあるんだよね。それは大人がかっこよく振る舞うこと。たとえば、果物の皮をつながったままきれいに剥く。たったそれだけで子供の目って輝くんだ」

子供は社会の合わせ鏡。今、30泊キャンプで死に物狂いの体験をすべきは、高見から嘆いているだけの大人かもしれない。

刃物の持ち主
ハローウッズ 森のプロデューサー
㟢野隆一郎さん
さきの・りゅういちろう 鹿児島県生まれ。然別湖ネイチャーセンター(北海道)を経て2000年より栃木県茂木町のハローウッズで活動。
https://www.twinring.jp/hellowoods/
※ 所属や肩書は取材当時のものです。

文/かくまつとむ 写真/大橋 弘

※ BE-PAL 2015年5月号 掲載『 フィールドナイフ列伝 10 ガキ大将養成ナイフ 』より。

現在、BE-PAL本誌では新企画『 にっぽん刃物語 』が連載中です!フィールドナイフ列伝でお馴染みの『 かくまつとむ&大槗弘 』のタッグでお届けしております!

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