【b*pライブ探検部#7】
前編では、王舟さんのライブレポートを。後編では、編集部の住川との「旅トーク」。王舟さんのルーツから、初めてのイタリア旅行までご紹介いたします!
旅行だと思ったら、日本に住むことになって!
b*p:まずは、王舟(おう・しゅう)さんのことを教えてください。HPにプロフィールが書かれていますが、知られていないことがあると思うので。1984年生まれということは、いま、32歳ですよね。生まれは中国の上海。8歳のときに、日本に来られたんでんですよね。
王舟:そうです。お父さんの知り合いの家族と一緒に。
b*p:夏休みに日本に来て、そのまま住むことに?
王舟:そうです。
b*p:そのあと、栃木県で学生時代を過ごし、18歳で上京。初めて日本に来られたときの光景とか覚えていますか? その時は、中国語を話されていたんですよね?
王舟:最初、両親からは「旅行だよ」って言われて来たんですよ。夏休みに日本にいる親戚に会いに行くのはどうだ? と。でも、いざ日本に着いたら「旅行じゃないんだよね」って言われて、そのまま住むことになりました。成田から栃木までは、けっこう田舎のほうを通って向かったんですけど、すごい空気が新鮮だったことを覚えています。まだ旅行だと思っていたし、すごいリラックスしてて。しかも、こんなに風景がきれいなのに、自動ドアとか人工的な自動販売機とかあるし!(笑) 僕、そのときに初めて自動販売機を見て、ビックリして。田舎らしい風景と人工的な機械のギャップを感じて、すごい国だなって思いました。
b*p:上海では、都市部に住んでいらしたんですか?
王舟:中心部に住んではいたんですけど、日本とは別格。今は上海も発展しているけど、昔は住むところもけっこう古い家で。活気はあるけど、街は汚い。混沌としていた状態でした。通学路で使っていた市場があるんですけど、ある日「警察が来た」って騒ぎになって、店じまいを始めてて。そのときはじめて、その場所が“もぐりの市場”だったんだって知りました。でも、そんなことにビックリもしない感じ。上海は本当に混沌としていたんですよね。それに比べると、日本は、どこに行ってもきれいで、スッキリしているし、印象がよかったです。
b*p:18歳で上京するわけですが、そこから音楽家にはどうやってなったのですか?
王舟:実は、とくに東京来るつもりもなかったんですよ。バンドがやりたいけど、地元だと組めなくて、じゃあ東京ならバンド組めるかなって。それで、東京で実際組んだんですけど、そもそもギターしか弾けないけど、ベースしか空いてないから、ベース担当として始めたバンドでした。5年ぐらいやっていたけど、実際はあんまり楽しくなくて。その中で、東京駅の近くの八丁堀にあるアートスペース「七針」に出会ったんです。そこでフォークソングやっている人たちとか、友達が急にできて。それを見ていたら、自分もアコギで歌おうかなって思いはじめたんですよね。
b*p:王舟さんの話をうかがって初めて知ったんですが「七針」は、どのような場所なんですか?
王舟:非常に小さいくて、狭いところです(笑)。雰囲気がわりと自由というか。ドリンクも持ち込みOKだったり。あんまりルールがなくて、そこに惹かれたんです。いろんなミュージシャンが活動していますが、チケットのノルマもないんですよ。
b*p:調べたら、若手のミュージシャンが出ている伝説的な場所なんですね。しかも東京駅のすぐ側! 王舟さんは、それから「Roji」や「なぎ食堂」など、ミュージシャンが集まる場所に行かれるようになるんですね。
王舟:どちらも飲食店なんですけど、「なぎ食堂」ではバイトをしていて。トクマルシューゴさんとかサケロック、二階堂和美さんとかもCDを出していたレーベルを仕切る小田晶房さんという方がオーナーのビーガンのお店。そこで働くようになったのと、阿佐ヶ谷に住んでいたときにceroの高城(晶平)くんが経営している「Roji」にも顔を出していて、ceroや片思いのメンバーと繋がりができまして。
b*p:ミュージシャンのお友達がどんどん増えていったんですね。そして2014年にデビュー。
王舟:『Wang』というアルバムを出させていただきました。
b*p:で、今年の1月には2枚目のアルバムの『PICTURE』をリリース。さきほどもその収録曲を演奏されていましたね。
王舟:はい。今日も売っているので、ぜひ見てってください(笑)。
イタリアは「食事ファースト」
b*p:王舟さんのルーツがわかったところで、旅の話に移りたいと思います。今年、イタリアに、旅行とライブツアーを兼ねて行かれたんですよね?
王舟:4月の始めから2週間ほど行ってきました。ボローニャという街の近辺からちょっと南を回って、ペルージャにも行きました。フィレンツェとかには行ってなくて。田舎街ばかりですね。
b*p:印象に残っていることは?
王舟:とにかく、昼間は天国みたいな国。景色がきれいなのと、建物も古くて、歴史を感じました。見た目もかっこいいですしね。あと、ごはんもおいしかった! 実はそんなに観光には興味なかったんですよ。ふだんから風景とかも見ないほうでしたが、イタリアは自然の風景がすごくて! 外の景色を見ることが好きになるぐらいに美しかった。日本に戻ってきてから、ツアーでいろんなところ回っているときも風景が気になるようになって。それぐらい衝撃的でした。
b*p:見せていただいた旅の写真には、すごく気持ちのいい庭でごはんを食べていらっしゃいましたね。
王舟:日曜日は、ごはん屋さんやっていなくて、友達の友人宅に行って、ランチパーティーに参加したんです。山の頂上じゃないけど、すごい風景きれいなところにポツンと広い庭のある一軒家があって。そこで初めて会うイタリア人たちとランチを楽しみました。
b*p:料理がおいしそう!
王舟:全部おいしかったですよ。旅行中、日曜日が2回あったんですが、両日ともこんな感じで。初めて行く人の家でごはんを食べるって、なんか変な感じですけどね(笑)。
b*p:イタリアの音楽家は、どういう人が多いんですか?
王舟:ポストロックをやっている人が多いイメージ。フォーク系はあまりいないのかもしれないです。イタリアの人って、自然の景色がよすぎて、オーガニックな音楽をあんまり聞かないみたいなんですよ。
今回は、ホームパーティーに招待されて、そこでライブをする機会もありました。家にミュージシャンを呼んで、お金を払ってホームパーティーをするというのは、イタリアではけっこうあることみたいですね。
b*p:(写真を見ながら)こちらのお店でライブをされたそうですが、王舟さんの紹介欄に「FOLK→JAP」、その下には「SUSHI」「YAKITORI」「TSUKEMONO」と書いてありますね。
王舟:レストランでのライブだったんですけど、日本からミュージシャンが来るからということで、日本食が提供されていました。それが、イタリア人が初めて日本料理を作りました! って感じで(笑)。米も固いし、寿司として見ると……。創作料理として食べると、おもしろいかな?って感じです(笑)。やきとりはおいしかったけど、漬物はピクルスでした。
b*p:ライブしながら食事っていうと、ディナーショーみたいな感じですか?
王舟:そういうところもありました。みんな、とにかくしゃべるのが好きだから、ずっとしゃべっていて、曲が終わると、拍手がおきて。何を聞いていたんだろっていう(笑)。イタリア人って、とにかく食事を大事にするんですよ。食事がメインで、音楽が鳴っていて、終わったら一応拍手でもしようかな、って感じな気がしました。
b*p:田舎の町とかでも、ライブをやるレストランやカフェが多いんですか。
王舟:どうなんですかね。でも、どこでも機材がちゃんとしてて、けっこう定期的にやっているのかな、と思いました。出演者に合わせて、料理も変わるようで、その料理が目当てでお客さんがやってくるみたいでしたよ。
イタリア人って、時間にもルーズで(笑)。食事が大事というのもあるんですけど、20時スタートと言われて、集まると、まずは「食事に行くぞ!」って言われて(笑)。普通、日本だったら、ライブが終わってから、ミュージシャンとスタッフとかで打合上げをやったりするんですけど、あっちは打合上げを先にやるんですよ。先にみんなでワイワイやってから、「ライブお願いします」って感じで! しかも、ライブハウスの周りに何もないから、20分~30分かけて、山の上にあるおしゃれな街まで行ったんですよ。すでにスタート予定時間から1時間半ぐらい遅れているんだけど、お客さんも、なぜかまだ来ていない(笑)。じゃあ、タイムテーブルは何なんだろう?って感じ。
でも、ライブ前の食事ではみんな同じもの食べていたりして。あとで聞いたら「これがいちばん早い」って(笑)。一応早く食べようってことは意識しているけど、食事を我慢しようという概念はないみたいですね。「食事ファースト」なんですよ。
ドラムンベースとゲートボール
b*p:イタリアのライブハウスって、どんなところなんですか?
王舟:山の小さい丘の上に、古い街とかが急にあるんですよ。そこにポッとライブハウスもあって。外に出ると、自然が広がっているんですね。
僕が行ったところでは、2階ではドラムンベースが爆音で流れていて、1階ではノイズのバンドがやっているんだけど、庭には老人たちがゲートボールしてるんですよ(笑)。その庭からは、景色がすごいきれいで! そのギャップがすごいなぁって。しかも、その爆音で流れている音楽とかを、ゲートボールの老人たちは気にしないで楽しんでるんですよね(笑)。
b*p:なかなかカオスな感じですね。
王舟:けっこうみんな適当っていうか。ライブするときもDJがいるんですけど、DJがみんなYouTubeの音源だったりして(笑)。ビックリしましたよね。
いろんな曲が流れていたけど、イタリアは、ビートルズだったり、エリザベス・コットン、ジュディ・シルとか60年代、70年代のフォークやロックなどの古い音楽がしっくりくる気がしました。
夜中の1時になっても出番にならなくて…
b*p:旅の失敗談とかあれば、教えてください。
王舟:失敗談ではないんですけど、ライブに出演するために楽屋でずっと待っていたんですよ。それがけっこう遅くなっても「やってくれ」って言われなくて。でも、イタリアだから時間がルーズなのかなって思っていたら、結局、最後まで呼ばれなかったことがありました(笑)。18時にライブハウスに入って、ちゃんとリハをやったんですよ。だけど、夜中の1時になっても何も言われないから「いつやるの?」って聞いたら、「もう店じまいだから」って言われて! 「なんで勝手にやらなかったんだ?」って、言われたんですよ。
そもそも、その店長がイベントをやる気なかったみたいで。それに怒った僕の友達が、ケンカじゃないんだけど、ずっと店長としゃべっていて。結局、3時ぐらいまでしゃべってたけど、途中、店長、泣いて落ち込んだりしてるし。なんか、最後は、話がどうなったかわからないけど、抱き合ってました(笑)。店長が俺らにも笑顔で握手してくるんだけど、何があったか、全然わからなくて。ただ、ライブやらなかったってことだけはわかりました(笑)。
イタリア人って、明るい感じで別れたいというのがあるらしく、うまく和解したんですかね。よくわからないことがありました。
b*p:仰天エピソードですね(笑)。食事はどうでしたか?
王舟:食事は、だいたいおいしかったですね。イタリア人は、食事の素材に詳しいという印象です。「塩は、どこ産のやつと、どこ産を混ぜるとおいしい」とか、「どこ産の肉」って書いてあったら、その産地の特徴を言いあって会話が始まるって感じで。食事に対してみんな真剣。大事にしているなって感じがしました。
あ、でも、一度チーズのフルコースを出されたときは辛かったですね。15個ぐらい出てて、順番に食べていくと、だんだんニオイとかがきつくなっていくんですよ。10個くらいまでは食べていておいしかったけど、だんだんきつくなって、ヤギのチーズが出たときにギブアアップしました。ライブのディナーがヤギのチーズのリゾットが出たときも、食べれなかったですね。
王舟さんのアウトドア体験
b*p:僕らの雑誌『b*p』は、旅や生活といったテーマ以外に、母体が『BE-PAL』なのでアウトドア要素もあるんですが、王舟さんはアウトドアはされますか?
王舟:一昨年ぐらいに筑波山登ったことがあります。山は、登りたいって思いつつ、実行する時間、機会がなくて……。そのときは、登山に詳しい友達と行ったけど、何も装備とか必要ないよ、という感じで言われて、向こうは筑波山ぐらいなら大丈夫だろうと思ったんでしょうね。それで僕、「ヒートテック」を着ていったんですよ。冬だったので。そしたら、めちゃくちゃ暑くなって、汗かかくんですけど、それが逃げないから、汗が引くと体が冷えちゃう。筑波山の頂上にきたときは、逆にめちゃくちゃ寒くて。そのとき友達は、ちゃんとした山用のウェアを着ていたんですよ。ヒートテックは汗でべちゃべちゃなのに、友達の山用のウェアはさらっと乾いている。おいおい全然話と違うじゃないかと。俺には何着てもいいって言っておいて! という思い出があります。でも、ちゃんと装備とか整えて、山登りしたいなって思いますね。
b*p:ぜひ、その際は一緒に!
王舟:ご指導おねがいします!
b*p:最後にみなさんからご質問をおねがいしたいと思います。
来場者Aさん:「ひとり旅」とかはしますか?
王舟:ひとり旅は、する機会がないというか、したことがないです。もし、僕がひとり旅するなら、言葉が通じるところがいいですね。海外には行かないかも。でも、イタリアはおすすめします。イタリアしか行ったことがないんで。あとは日本。僕にとっては、日本も旅で来ているみたいなものなので。
来場者Bさん:さきほどジュディ・シルやビートルズの話をされていましたが、王舟さんのルーツになっている日本のミュージシャンは誰ですか?
王舟:子供のときにスピッツの「チェリー」を買いたいって、親に頼んだ思い出があります。B’zとかも好きでした。中学校のころは、日本のポップミュージックが好きでしたよ。ヒットチャートに上がっているものとか。その中では、スピッツがけっこう好きでした。
王舟さん、2時間にも及ぶ、ライブ&トークショーありがとうございました!
【b*pライブ探検部#7】
・b*p湘南音楽会
・とき:2016年10月23日(日)
・ところ:湘南T-SITE
・出演:王舟
◎この日の探検部キャプテン&文=中山夏美 撮影=高橋郁子