にっぽん刃物語「革工場最後の手道具」~猪皮の有効活用を実現させた昔ながらの脂削り~ | 刃物・マルチツール 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2019.04.24

    にっぽん刃物語「革工場最後の手道具」~猪皮の有効活用を実現させた昔ながらの脂削り~

    刃物の持ち主
    皮革製造
    山口産業株式会社
    重金属のクロムを使わないラセッテーなめし(植物タンニンなめし)にこだわる皮革製造工場。創業1938年。工場見学会など普及啓発活動にも力を入れる。
    ※ 所属や肩書は取材当時のものです。

    機械化が始まる昭和30〜40年代まで活躍したのが刃銑。山口さんがこの刃物を探したとき、革の街・墨田区の金物店には、たった2本しか残っていなかったという。

    狩猟や駆除で失われる野生動物の命。その責任の取り方は「おいしく食べる」以外にもある。皮もきちんと活用することだ。1本の古めかしい刃物が、命に新たな鼓動を呼び起こす。

    刃銑を使った面取り作業に取り組む佐々木豊さん(37歳)。靴職人から転身して10年目。「塩で水分が抜けているので、けっこう固いです。削るときの感覚は1頭ずつ異なりますが、それが面白い。勉強になりますよ」

    「180日で出荷されるブタは大きさが揃っていますし、食肉処理場の皮はぎ技術は均一ですから、なめす前の脂削り処理が機械でできます。しかし、猟師さんが獲ってくる野生のイノシシはサイズがばらばら。皮をはいだ人の技量もまちまちなので、利用は簡単じゃないんですよ」

    こう語るのは、東京の墨田区で70年以上にわたり皮なめしを手がけてきた、山口産業3代目の山口明宏さん(48歳)だ。

    野生動物による農作物や植生への被害が問題視され、個体数調整の必要性が叫ばれる近年。その肉を商品化すれば地域おこしにもつながるとして、解体加工所を設置する動きが広がる。

    だが、皮の部分は捨てられるまま。その現実に心を痛めた山口さんが、イノシシやシカの皮を1枚からでも革に加工して産地へ戻す活動を始めたのは7年前だ。取り組みはやがてNPOや大学などと連携した「MATAGIプロジェクト」に発展。今では年間1000枚、のべ90以上の地域から野生動物の皮なめしの依頼を受けている。

    「はいだ皮は腐らないよう塩をまぶして送ってもらっています。下処理の脂削りは近くの業者さんにお願いするのですが、イノシシは勘弁してほしいといわれましてね。大きさが不揃いだし、肉がついたままの部分があったりして機械に通しにくい。ある程度均質化したものを持ってきてほしいと。よい解決方法がないものかと考えたときに思い出したのが、昔の工場で使っていた刃銑でした」

    銑とは両側に持ち手がついた片刃の刃物だ。鉋のようにものを削る道具で、鍛冶や桶づくりの現場にも専用の銑がある。刃銑は脂を削り落とす機械がなかった時代の皮なめし用刃物だ。

    「刃銑で1枚ずつ脂を削り取る作業を面取りといいます。親父に聞くと、昔の皮工場では面取り職人がいちばん稼いだそうです。かまぼこ板と呼ぶ斜めの台に皮をのせ、皮下脂肪層に当てた刃を下側へ押し、表面を削って均していきます。時間はかかりますね。1頭で15分。皮のはぎ方の悪いものだと30分近くかかります。けれど、これしかイノシシの皮を生かす方法がありませんでした」

    取り組みの社会的意義が理解され、今は下処理業者も1日50枚までを条件にそのまま受け入れてくれるように。地方のハンターも、解体時に皮をていねいにはいでくれるようになった。刃銑の出番は再びなくなりつつあるが、山口さんは、ひと昔前のこの道具に教えられたことは多いという。

    「腐りやすい生皮を安定的で丈夫な革に変えるなめしの原理と労力。昔ながらの面取りは、それらを理解してもらうとき、いちばん伝えやすい作業です」

    野生動物の皮の活用にはまだまだ課題が多い。たとえば往復の送料。山口さんは、各地に小さななめしの拠点を設置する地産地消型の革プロジェクトなど、さらなる展開を構想中だ。

    文/かくまつとむ 写真/大槗 弘

    ※ BE-PAL 2015年7月号 掲載『 フィールドナイフ列伝 12 革工場最後の手道具 』より。

    現在、BE-PAL本誌では新企画『 にっぽん刃物語 』が連載中です!フィールドナイフ列伝でお馴染みの『 かくまつとむ&大槗弘 』のタッグでお届けしております!

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