
ヒガンバナの英名はRed spider lily
ヒガンバナ科の多年草。単子葉植物は約860種が主に熱帯・亜熱帯に分布する。秋の彼岸のころ、高さ約30センチの花茎を伸ばし、長い雄しべ、雌しべをもつ赤い6弁花を数個輪状につける。花の後、線形の葉が出て越冬する。有毒植物だが、鱗茎を外用薬とする。
黄金色に実った秋の田んぼの畦に、ヒガンバナが朱色の美しい帯を作る。だが、花時にはまったく葉のない不思議な花だ。
ヒガンバナは、ヒガンバナ科の多年草で、原産地は中国。マンジュシャゲとも呼ばれるが、墓花や死人花、葬式花などとも呼ばれ、なぜか嫌う人が多い。
関東地方での満開は9月23日、秋分の日ごろ。体内時計は驚くほど正確だ。ところが、この花は開花時にはまったく葉がなく、葉は花が終わってから伸びてくる。こんな様子が「葉見ず花見ず」などとも呼ばれるのだ。
ヒガンバナはなぜか種ができず、地下の大きな鱗茎が分球して増えるのだが、結果的に大きなかたまりになって冬を越す。土手や田んぼの畦などに多いのは、有毒な球根でモグラなどから畦を守るためだが、春の山菜のノビルの球根と間違える事故がまれにある。
ヒガンバナは全草にリコリン、ガランタミン、クリニンなどの有毒成分があり、誤食すると激しい下痢や嘔吐、けいれん、呼吸麻痺などになり、ときには死に至ることもある。
ところが球根に含まれるアルカロイドを水で流してしまえば、多量に含まれるでんぷんを食用にできるのだ。ヒガンバナの球根は、漢方では薬名を石蒜と呼んで薬用にされる。
植物には発芽や開花の時期を記憶した体内時計があることが知られているが、埼玉県田島ケ原のサクラソウの開花は、4月25日ごろだったが、近年は10日ほど早かったり、遅かったりする。これは温暖化のせいなのだろうか。
冬の間は元気なヒガンバナの葉も、5月ごろは枯れてしまい、9月の中ごろに太い花茎が立ち上がるまでは、ヒガンバナは地上から消えてしまう。
体内時計はないと思うが、腹時計なら私にもあるような気がする。

まったく葉が見えない花時のヒガンバナ。

花が終わると株本から葉が伸びてくる。

分球して増える大きな株。

右がノビル、左がヒガンバナ。
イラスト・写真・文 おくやまひさし
おくやまひさし プロフィール
画家・写真家・ナチュラリスト。
1937年、秋田県横手市生まれ。自然や植物に親しむ幼少期を過ごす。写真技術を独学で学んだのち、日本各地で撮影や自然の観察を開始。以降、イラストレーター、写真家として図鑑や写真集、書籍を数多く出版。