
リキュールは蒸留酒にハーブや薬草、果実などを漬けたお酒。初夏の里山には、リキュールになる植物がたくさんあります。自然は宝箱だ!
里山の植物でリキュール作り!見た目にも香りも楽しめる
アルコールを友として40年あまり。酒税に限れば自分はかなりの高額納税者だと豪語するライター・鹿熊だが、体力の衰えを実感する近年は少しずつ健康志向に。そんな今ハマっているのが、里山の植物でつくるリキュールだ。自慢げに持ってきた色とりどりのボトルを見た担当編集・ハラボーが感心する。
「へえ~、きれい。まるで植物標本とかアートみたいですね」
ハラボー、今日はなかなか冴えているじゃないか。そう、里山リキュールは飲む標本であり、香りを楽しむアートなのだ。
「風味にしっかりした個性があるものや、薬効があるとされ昔からお茶として利用されてきたような植物が向いているね。これは個人的な見解だけど、毒さえなけりゃ片っ端から酒に漬けてみたらいいと思うんだ。発見というのはだいたいそんなチャレンジから生まれるわけだし。
漬けたばかりは無色透明だけど、3か月、半年、1年と経つうちに植物のエキスが蒸留酒に溶け込み、琥珀色に変わっていく様子も楽しいね。
漬けてすぐは必ずしもおいしいわけじゃない。けれど、1年後に飲んでみたらすばらしい味に化けていたりするのが面白いんだよなあ。3年、5年と熟成させた古酒がまた最高で……」
熱弁の止まらない鹿熊に、ハラボーが冷たく水を差した。
「はい、すごく素敵です。ぜひつくりましょう! でもひとつ謝っておかないといけないことがあるんです。私、じつはお酒が得意じゃなくて……」
まあたしかに、世の中は自分のようなアルコール好きばかりではない。そんな方のために、飲みやすいカクテルのレシピも併せて紹介します。
今回のリキュールベース
梅酒でおなじみ
甲類焼酎

蒸留酒は好みでよいが、色合いと植物本来の持ち味を楽しむなら無色のホワイトリカー(アルコール35度の甲類焼酎)がおすすめ。

果実酒用の広口びんより、容量200㎖程度のスリムボトルのほうが多種類をたくさん陳列できる。甘い仕上がりが好みなら氷砂糖を少し加える。
漬けたて

左から、ウワミズザクラの実、スイカズラの花、スギの新芽。漬けて1~2か月は素材の色を目で楽しめる。
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1年後

植物のエキスがアルコールに溶け出し、熟成も十分に進んでいる。味や香りの印象も、最初よりかなりまろやか。
ほかにもあるよ!リキュールになる野の植物
ヤマボウシ
(実)

ヤマモモ
(実)

マツ
(新芽・若い球果)

サンショウ
(葉・実)

クワ
(実・葉・根)

カクテルを作ってみた!
ウワミズザクラの桃缶ソーダ割り

絶妙ペアリング
桃シロップ煮の上品な甘さとウワミズザクラの芳香が絶妙なペアリング効果を発揮。サンショウの若葉を添えてみると、これまた美味!

ウワミズザクラ酒の特徴はパンチの効いた香り。イタリアには同様の風味のアマレットという酒がある。

ウワミズザクラの実の種子には、杏仁豆腐や桜餅の香り成分と同じクマリンが含まれる。

ウワミズザクラはさくらんぼや桃に近い。そこで桃缶(シロップ煮)と合わせてみた。桃は5ミリ角に切る。
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氷を入れたグラスにウワミズザクラのリキュール、角切り桃とシロップを入れ、炭酸水を注ぐ。
スギ新芽 のジントニック風

今年のスギの新芽を上にのせると見た目にも爽やかさが増す。大きめの草や木の葉をコースター代わりに敷けば、より涼しげに。

ジンは針葉樹の一種の球果で風味を付けた酒。スギの新芽にもどこか似た風味がある。

氷を7分目まで入れたグラスに、1年熟成させたスギ新芽のリキュールを入れる。濃さは好みで。
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上から炭酸水を静かに注ぐ。グラスいっぱいになったらマドラーを使ってごく軽くかき混ぜる。
スイカズラ のモスコーミュール

忍冬酒です
モスコーミュールはウォッカをジンジャーエールで割り、柑橘を絞ったカクテル。ウォッカの代わりにスイカズラのリキュールでつくってみた。

スイカズラはジャスミンに似た甘く強い香りで夜行性のガを呼び、受粉をさせる。
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白い花は数日すると黄色に変わる。昔から酒に漬けて愛飲され忍冬酒の名で知られる。

クセになる!
漬けたばかりは香りが強いが、1年焼酎に漬けると風味の角が取れ甘みも増してくる。
※構成/鹿熊 勤 撮影/藤田修平 写真提供/鹿熊 勤(ヤマモモ・ヤマボウシ)
(BE-PAL 2025年8月号より)