子供に踏まれて爆発するだけが能じゃ無い!ホコリタケのしたたかな胞子散布の戦略。 | キノコ・ハンティング 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2019.01.11

    子供に踏まれて爆発するだけが能じゃ無い!ホコリタケのしたたかな胞子散布の戦略。

    成熟した「ホコリタケ」。表皮は薄く柔らかく、ちょっと触るだけで頭部の中心に空いた穴から胞子を飛散させる。

    キノコを採って&撮って30年! マッシュ柳澤の知れば知るほど深みはハマる野生菌ワールドへようこそ!

    ずっと昔、子供の頃。雑木林から畑に続く小路を、ガキ大将に連れられて走っていく。小柄な私はしんがりをやっとの思いで付いて行った。すぐ前を走る仲間の足元から、突然、小さな爆発のように白く濃い煙が立ちあがった。私は両手で耳を塞いで煙の中を走りぬけた。

    ホコリタケの煙が耳に入ると耳が聞こえなくなるという迷信を信じていたからだ。

    森だけではなく、道端や校庭の隅など、どこにでも在るキノコだから、小学校の理科の課外授業の題材にされることも多かったように思う。キツネやタヌキなどの動物に踏まれることで、胞子を飛ばし仲間を増やすと教えられ、固くそれを信じていた。

    ホコリタケを見ると踏んで爆発させたい、という衝動に逆らえない習性があり、ホコリタケにマインド・コントロールされているかもしれない子供の一人としては、相当に現実味のある説だったのだ。

    児童公園のクヌギの木の下に群生する「ホコリタケ」。どこにでも在る、最も身近なキノコの一つだ。

    しかし、大人になった今考えてみると、実際のところ動物に踏まれるホコリタケはそれほど多くは無いように感じる。雑木林の中でキノコを観察しながら歩いても、踏まれたと思しきペシャンコのホコリタケはそう多くは見かけない。第一、それでは偶然に頼りすぎで確率が低く、生物の種の拡散戦略としては、お粗末すぎるような気がする。

    森でよく見かけるのは、ペシャンコとまでは行かないが、頭がベコっと潰されたホコリタケだ。たいていコナラなど、木の実が成る樹の下に生えている。群生していることも多く、ほぼ全ての個体がこういう状態になっていることも少なくない。これは、ドングリの直撃を受けたためだ。

    コナラの森でよく見かける、頭の潰された「ホコリタケ」。

    ドングリの直撃によって、胞子を飛散するホコリタケの様子を再現してみた。

    台風の翌日のコナラ樹下。台風が無くても、秋の間にこれだけの密度でドングリが落ちる。「ホコリタケ」にドングリが当たる確率は極めて高い。

    また、ホコリタケは雨に打たれて胞子を飛ばすことも知られている。少々の雨では無理だが、ゲリラ豪雨のような激しい雨や、樹木の枝や葉から落ちる大きな雫に当たって胞子を飛ばすことは多いようだ。

    しかし胞子を飛ばすのに必要な刺激を一つに限定する必要は無いだろう。木枯らしに飛ばされた木の葉に触れたり、落ち枝が当たったり、時には虫がとまった衝撃で胞子を飛ばすかもしれない。

    ここで不思議に思うことがある。胞子を一度で大量に飛ばしたいだけだったら、袋の中に胞子を詰め、頭頂部に小穴を開けただけの、あの形状が合理的だとはとても思えないのだ。

    あの形では、それこそ子供に踏んで遊ばれたり、ドングリの直撃を受けたりするような強い刺激でないと、そうそう全ての胞子を排出することはできないだろうと思う。私には、むしろホコリタケは沢山の胞子を一度に出したくないのでは?と思えて仕方がない。

    少しずつ長い時間をかけて、落ち葉の上、土の上、風に乗せて、雨に流されて、乾いたところ、湿ったところ等々、様々な環境に胞子をばらまくことで、ホコリタケの菌糸が成長するのに適した環境に辿り着き、胞子の発芽率を上げ、効率よく自分の子孫を残していく。それがホコリタケの繁殖戦略ではないのだろうか。

    翌春、あちこちベコベコになっていても、秋のままの姿を保ったホコリタケが地面に転がっている事がある。袋を割いてみると、だいぶ減ってはいるが胞子は残っていることが多い。冬の間に菌糸から切り離され、風に吹かれて落ち葉と一緒に転がってきたのだろう。秋から冬を越して春まで少しずつ胞子を散布し続けていたのだ。

    ホコリタケは踏みつけにされても、雨に打たれても、ドングリに衝突されてボロボロになっても逞しく生きていく、したたかなキノコなのだ。

    ●ホコリタケ(食べられるキノコ)

    学名:Lycoperdon perlatum Pers.
    ※注意※食用になるのは、内部が純白の若いものだけ。肉が黄褐色を帯びたものは異臭が強く食用に不適。

    ホコリタケ【食】の若い個体。胞子で耳が聞こえなくなるというのはもちろん迷信。「キツネのチャブクロ」の別名がある。

    【形状】

    シャンパンの栓のような形で、丸い擬宝珠のような頭部と太短い柄(無性基部)からなる。【頭部】
    丸く、中丘(中央の膨らみ)がある。淡黄褐色から木褐色で中丘部は濃色。微細な長短の円錐状の棘状突起に覆われ、長い突起の先端は暗色。頭部の下部には緩いシワがある。老成すると頭頂に穴が開き胞子を飛散させる。

    【柄】

    表面は頭部と同色か、やや淡色。中央がくびれ、基部は丸い。

    【肉】

    初め白色でマシュマロ様。無味、無臭。頭部の肉(胞子を作る部分、「グレバ」という)は、やがて暗褐色の粉上の胞子塊になり、頭頂の開口部から飛散する。柄部は成熟するとスポンジ状。灰褐色。

    【食毒】

    若く内部が白いものの皮と柄を取り除いて食用にする。

    『ホコリタケ』に間違いやすい毒キノコ

    ●コニセショウロ(※有毒※)

    学名:Scleroderma reae Guzmán

    形は似ていても、ハラタケ目に属するホコリタケに対して、コニセショウロはイグチ目。例えが良いか悪いか判らないが、ネコとウマぐらい種としては隔たっていることが、遺伝子を使った分子系統学による分類によって判明した。

    【形状】

    類球形で基部に白色の根状の菌糸がある。柄はほとんど見受けられない。表面は褐色から暗褐色。若い時は平滑。のちに細かくひび割れ、黄褐色の地肌がのぞき、粒状または小鱗片に覆われる。成熟すると頭頂部に穴が開き、胞子を飛散させる。

    【肉】

    皮の部分は白色。内部のグレバは白色からやがて黒色。変色性は無い。

    【毒性】

    消化器系と神経系の中毒をおこす。

    文・写真/柳澤まきよし
    参考/「日本のキノコ262」(自著 文一総合出版)

     

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