シモコシは今や毒キノコ!?幻の『シモコシ』を求めてクロマツ林をさまよった冬の日。
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    2018.12.21

    シモコシは今や毒キノコ!?幻の『シモコシ』を求めてクロマツ林をさまよった冬の日。

    キノコを採って&撮って30年!マッシュ柳澤の知れば知るほど深みはハマる野生菌ワールドへようこそ!

    もう十数年ほど前の初冬、山に霜が降りる頃。外房の海岸の防風林に、海辺のキノコの観察がてらシモコシを採りに行った。今はフランスで発生した近縁種の「キシメジ」による食中毒死亡事故を受けて、シモコシは有毒種として扱われている。しかし、まだ当時は毒性が疑われておらず食用とされていた。

    日本で一番海から遠い山間の私の故郷では、海抜2000mほどの森林限界近くで、夏の終わりから発生が始まり、季節が進むにつれて標高を下げ、木枯らしが吹く前に里の松林まで下りてくる。標高差があるため、シモコシは長期間にわたって楽しめるキノコだった。

    雨あがりに顔を出した『シモコシ【注意 毒】』の幼菌。注)各地で食用とされるが、有毒とされる。生食、過食は厳禁。

    我が家ではたいていの場合、炊き込みご飯にして食べていたが、特にマツタケと一緒に炊き込むと、マツタケの香りにシモコシの旨みが加わって、おかずを食べずに飯だけを食べ続けたいという衝動に駆られるほど、別格に美味いきのこ飯になった。シモコシを混ぜるのは、実は貴重なマツタケの節約のためでもあったのだが。馴染み深いキノコではあるのだが、その一方で、いつも脇役できのこ狩りの本命にはならないシモコシはそういうものだったように思う。

    海辺に出かけたのは、山での旬が過ぎたからだけではない。雑キノコ扱いの故郷に比べ、シモコシが海に隣接する地方で珍重されることが多いからだ。和名の「シモコシ」は、もともと北陸地方の呼び名だという。関東から東北地方では「キンタケ」「キタケ」などと呼ばれ、海沿いの地域の広い範囲で食文化の中にどっしりと根を下ろして愛されてきた。

    特に石川県の加賀地方の、鴨の肉と特産の生麩や里芋などを煮込む伝統料理『治部煮』では、秋の鴨猟と同じ時期に採れるシモコシを使用するのが本格だという。そういえば、以前に能登を訪ねた時、輪島の朝市でシモコシが売られていたことが思い出される。

    加賀料理の『治部煮』。ワサビが添えられるのが特徴だ。この写真ではシイタケが使われているようだが…。じぶ煮の名の由来は諸説あるが、面白いところでは鴨肉を使うところから、キリシタン大名の高山右近が伝えたフランス料理の野生鳥獣肉を指す言葉「ジビエ」がなまったから?という説もある。(C)石川県観光連盟

    昔の図鑑では海岸の「クロマツ林に発生する」と明記して、山のものを苦みがあり食味の劣るキシメジとして区別していた。研究の進んだ現在は砂地の松林なら海岸にも山地にも発生すると記されている。山間部では長い間シモコシとキシメジは混同されていたようだ。山間でシモコシの影が薄いのは、それも原因の一つだったのかもしれない。

    全国各地で食用とされていたキノコではあるが、やはり文化的、伝統的なシモコシの本場は、海辺のクロマツの防風林だろうと思う。だから、一度、そこで群生する姿を見ておきたかったのだ。

    防風林の中はキノコがいっぱい!だがシモコシは…どこに?

    防風林の中を歩いてみると、潮のかかるような厳しい環境にもかかわらず、驚くほどキノコの種類が多い。林内では、マツ林のきのこ狩りで定番のアミタケや、松ぼっくりに生えるニセマツカサシメジ(可食)、砂浜で暮らす珍菌スナヤマチャワンタケ(食毒不明)。他にも名前の判らない数種類のきのこが採集できた。

    アミタケ(食べられるきのこ)

    学名:Suillus bovinus
    マツ林の代表的な食用菌の一つ。

    【カサ】

    半球形から平に開く。表面、湿時、粘性があり、平滑。黄褐色。

    【管孔】

    やや垂生する。多角形でやや大型。オリーブ色から緑色がかった黄色。孔口も同色。

    【柄】

    表面平滑で、カサより淡色で中実。ツバは無い。

    【肉】

    カサ部厚く、類白色~淡橙黄色。加熱すると赤紫色に変色する。

    【注意】

    誤食されやすい『チチアワタケ【毒】』は変色しない。

    【食毒】

    収穫量も多く美味。一般に広く食用とされる。

    キノコの観察としては充実した時間を過ごせたのだが…。

    キノコ狩りの本命『シモコシ』は、いっこうに見つからない。いい加減にあきらめかけたころ。ビニール袋を持った地元のおばさんに出会った。手には潮干狩りなどに使う熊手を持っている。

    ああそうか、と合点がいった。シモコシは厚く積もった松葉の下に隠れているのだと。そういえば、ところどころでイノシシが漁ったように林床の松葉が荒らされていた。あれはシモコシを採った跡だったのか。

    ガサガサと熊手で松葉を掻いて、隠れたキノコを一網打尽にする。歩きながらキノコを見つけて、一本一本摘んでいく山のきのこ狩りとはだいぶ様子が違う。きのこ狩りも場所が変わるとずいぶん作法が違うものだ。

    日が傾くまで、あちこち素手で掘りまくって、その日のきのこ狩りの収穫は…? それは…、情けないのでここには書かない。それでも負け惜しみではなく、心地よい波の音と潮風を感じながらのきのこ狩りは、山のそれとはまた違う楽しさがあった。

    あの日、散策した海岸も2011年の東日本大震災の津波の被害にあった。波高4mを超えたという。あのクロマツの林は今も変わりはないだろうか。

    シモコシ(有毒といわれ注意が必要なきのこ)

    学名:Tricholoma auratum
    地方名:キンタケ、キタケなど。

    ※注意※現在は有毒とされる。生食、過食をせず、利用は慎重に!

    *注意*シモコシ近縁種の食中毒事故に関して。

    近縁の『キシメジ【毒】』によるものと思われる食中毒死亡事故が、複数件フランスで発生。生食の習慣と過剰摂取が原因と言われるが、『シモコシ』も同様の毒成分を含む疑いがあり、最近では【有毒】とされている。『キシメジ【毒】』とは外見的特徴での見分けは困難。違いはキシメジの肉には苦みがあること。なお日本では今のところ『シモコシ』による中毒の報告は無いといわれる。

    【カサ】

    饅頭型から平に開くが、カサ中央に中丘を表すものもある。表面平滑で湿時、弱粘性。硫黄色からレモン色。中央部は帯褐色、時に片鱗に覆われる。

    【ヒダ】

    硫黄色で、湾生から離生しやや密、またはやや疎。

    【柄】

    下方が太く中実、または一部中空。表面硫黄色で上部は淡色。

    【肉】

    緻密で無味無臭。白色。表皮下、表面色を帯びる。

    【環境】

    海岸の砂地、山間の砂礫地帯の二針葉マツ林に発生する。

    【食毒】

    古くから食用とされてきたが、近縁種での死亡事故を受けて有毒の疑いが晴れない。

    『シモコシ』に間違いやすい毒キノコ

    カラキシメジ(※毒※)
    学名:Tricholoma aestuans

    シモコシ、キシメジより以前から有毒を疑われていた。アカマツ林に群生

    【カサ】

    円錐形から中央部が高い平に開き縁は長く内に巻く。表面、レモン黄色で湿時弱粘性、平滑。褐色鱗片が中央ほど密に覆う。

    【ヒダ】

    湾生しやや密。カサと同色かやや淡い。

    【柄】

    下方が太く、中空。表面は条線があり、カサと同色かやや淡い。

    【肉】

    レモン黄色で、ひどく辛い。

    【変色性】

    カサと柄、ヒダは傷つくと赤変する。

    【食毒】

    辛くて食用に不向き。有毒。

     

    文・写真/柳澤まきよし
    参考/「日本のキノコ262」(自著・文一総合出版)
    「北陸のきのこ図鑑」(池田良幸著・橋本確文堂)
    内閣府 食品安全委員会 食品安全情報システム

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