秘境のゲストハウス「空音遊」に泊まる | 日本の旅 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2018.10.27

    秘境のゲストハウス「空音遊」に泊まる

    深緑の樹々と朝もやの薄いカーテンに包み込まれたような断崖絶壁の渓谷。一歩踏み外したら20m以上はありそうな谷へ真っ逆さまだ。そんな谷を見下ろすように10軒ほどの家がつづら折りの道に並ぶ。その小さな小さな集落に今回のゲストハウス「空音遊(くうねるあそぶ)」はある。ここは、日本三大秘境と呼ばれる徳島県大歩危祖谷。

    すべて自生のシラクチカズラを編み込んで作られている「かずら橋」や、

    超激流の吉野川を下るラフティングでも知られている(写真は、観光遊覧船)。が、「空音遊」のある集落からその場所には、車で数分かかる。決して観光地に近い場所でもない。なんで、また、こんな辺鄙な場所に宿を作ったのか? 今でこそ、辺鄙な田舎で地域おこしの一端を担うゲストハウスも増えたが「空音遊」がこの地に誕生した2004年頃、そんな流れは世の中にあまりなかった。もちろん、オーナーのノリさんも、地域おこしをという志を持って来たわけではない。当時、なんとなく始めたカヌー。その大会で、たまたま訪れたのがココ大歩危だった。その場に踏み入れた瞬間、直感的に「ココに移住しよう! 」と感じ即行動したそうだ。その後、あれよあれよと空家を紹介される。それが今の「空音遊」となる古民家だ。旅人や近所の人が自由にやって来て、一緒にお酒を呑んで語り合うという、ゆるゆるとした素泊まりのゲストハウスとしてスタートした。

    数年経ったある年、そこへ宿の未来を変える人物が現れる。カオリさん(写真、右から2番目)という小柄のかわいい女子。そう、女子! な~んにもない山奥の渓谷へやって来た彼女。実は、マクロビオティックの料理家さんだった。それを機に、ノリさん(写真、一番右)は、それまでのゲストハウスの概念をコロッと変えてしまう。“自然菜食料理が食べられる田舎暮らし古民家ゲストハウス”とし、「1泊2食付き10,800円~」という形も提供するコトにした。

    それまで「ゲストハウスと言えば「1泊素泊まり2000~3000円」という安価が売りのトコロが多かった。「空音遊」も例に漏れず。また、当時は食事を2食付けるゲストハウスはなかったコトもあり、周囲からは「そんなのゲストハウスじゃない」という声もあったそう。

    ちょっと高級ゲストハウスで、すべて個室ではあるけれど、食事は一緒のテーブルをみんなで囲むスタイルは変わらない。

    「ゲストハウスに限らず、必ずこうあるべきだってないと思うんですよ。どんどん変えていけばいいんです」。ノリさんは、そう語る。そのノリさんの感覚は「空音遊」を訪ねる人生に迷える子羊な旅人たちに光を見せた。“なんでもありで大丈夫。変化するコトは当たり前で、それを受け入れれば、自分が楽になる”「空音遊」に流れる時間は、そんなコトを肌で感じさせてくれるのだ。

    実際に、変化し続けているノリさんが目の前でニコニコと菩薩様のように座っているのを見ると、妙な安心感に包まれて納得してしまう。今まで、年下の学生さんたちはもちろん、人生の先輩である年配の方々までもココに来て、いろんな重荷を下ろして行ったのだとか。ノリさんは、まるで悟りの境地に達した大阿闍梨さんのようだ。

    ところで、“菜食料理”と聞くと肉好きな方々は一様にこう答えるだろう。「物足りない」と。「野菜=ヘルシー=腹に溜まらない」そんな公式で脳内にインプットされている人も多いはず。だが、ココ「空音遊」では、その公式は当てはまらない。一皿にてんこ盛り盛りと溢れんばかりに盛られたカラフルなおかずたち。肉がなくとも「お腹いっぱい! 」と言わしめてしまうボリューム! 写真は、私が宿泊した時の夕食だ。「車麩のフライ」「カボチャのサラダ」「タロ芋の海苔巻き」「具だくさん豆乳スープ」「柿のタルト」「ドライフルーツをギュッと混ぜたもの」「徳島県名産 半田そうめん」そこに玄米ごはんがつく。基本的に動物性のモノは使用せず、野菜や果物の甘さを活かすため、砂糖も使わないというこだわりだ。

    「はじめは宿のコトだけで、いっぱいいっぱいだったんですけど、自分から、近隣のあちこち気になる場所に出かけると、いろんな情報が入って来て、様々な人と出逢って、イベントをしたり……毎日が楽しくてしかたないです♪ 」そう語る料理担当のカオリさんの瞳は純粋無垢な子どものようにキラキラとまぶしい。

    深い深い山奥の秘境に佇む古民家ゲストハウス「空音遊」。人生に迷っている時も、そうでない時も。カヌーやラフティングをしたい人もそうでない人も。玄米菜食の人も、そうでない人も。ちょっと気になったら、ふらっと「空音遊」へ出かけてみては? あなたの人生が、ちょっぴり変わるかも!? (もちろん、事前予約はお忘れなく! )

    ●おまけ●
    あ、そうそう。カオリさんは、みなさんのご想像の通り、今、ノリさんの奥さまです♪

     

    【データ】
    空音遊
    住所:徳島県三好市西祖谷山村榎442
    TEL: 080-6282-3612
    料金:1泊夕食付き9,720円~
    アクセス:JR土讃線大歩危駅より徒歩約40分(15~18時の間、JR大歩危駅まで無料送迎あり。事前に連絡を)URL:http://www.k-n-a.com/

    イラスト・文・写真/松鳥むう(まつとり・むう)
    イラストエッセイスト
    離島とゲストハウスと滋賀県内の民俗行事をめぐる旅がライフワーク。今までに訪れたゲストハウスは100軒以上、訪れた日本の島は86島。その土地の日常のくらしに、ちょこっとお邪魔させてもらうコトが好き。著書に『島旅ひとりっぷ』(小学館)、『ちょこ旅沖縄+離島』『ちょこ旅小笠原&伊豆諸島』『ちょこ旅瀬戸内』(いずれも、アスペクト)、『日本てくてくゲストハウスめぐり』(ダイヤモンド社)、『あちこち島ごはん』(芳文社)、『おばあちゃんとわたし』(方丈社)等。最新刊は『島好き最後の聖地 トカラ列島 秘境さんぽ』(西日本出版社)。
    http://muu-m.com/

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