よつば保育園との出会い
僕が最初に南相馬の「よつば保育園」のことを知ったのは、3.11が起こった年のある日、鎌倉の海でサーフィンをしていた時のことでした。知り合いのサーファーが言うには、事故を起こした原発から近いために避難区域となっているその保育園は、園舎を離れて公民館のような場所で保育を継続されているということだったのです。
ちょうどその頃、東日本大震災の被災地のためのチャリティーを募りつつのライブツアーをやっていた僕は、集めたお金はなにかしら東北の子どもたちのために役に立てられたらと考えていましたので、すぐにそのよつば保育園に全額寄付しました。
それからしばらく経ったその年のクリスマスに、同保育園にクリスマスプレゼントをたくさん持って行きました。寄付を送った子どもたちに会ってみたかったのです。毎年年末に横浜のライブハウスでライブをやっているのですが、会場に来てくれるお客さんに、「子どもたちが喜びそうなもの」というテーマでプレゼントによさそうな物を持って来てもらいました。
そしてワゴン車に積み切らないぐらいのたくさんのおもちゃ、お菓子、洋服などが集まりました。ライブ終演後、そのまま福島に向けて高速道路を走ったのを覚えています。その頃には避難区域は段階的に解除され始めていたので、本来の園舎を訪れることが出来ました。
子どもたちの笑顔が見たい……
プレゼントはとても喜んでくれたのですが、実感として本当に必要なのはやはり食料なんだなと思いました。当時同園にとっては、そこからずっと離れた地域で作られた食料が必要だったからです。
そしてさらにショックを受けたのは、子どもたちがなんとなく明るさを失っているということ。多くの子どもたちが持っているあの弾けるような元気が、当時のよつば保育園の子どもたちからは感じることが出来なかったのです。それには本当に胸が痛みました。
園庭は除染が済んでいて遊ぶことができるのですが、園の真横を流れる小さな川には、まだ近づくことが出来ない。子どもたちはさまざまな制約の中で暮らしていたのです。僕にも同じように保育園に通う子どもがいましたから、いたたまれない気持ちになりました。
子どもたちは、大人が作り出す社会の鏡だと表現されることがありますが、地震に加えて原発の事故も重なり、彼らの親や身の回りの大人たちも、当時は非常に不安を抱えて元気をなくしてしまっていたんだろうと思います。その訪問からしばらくして自宅に届いた子どもたち集合写真からは、笑顔を探し出すことができませんでした。その写真がもしかしたら僕を突き動かしたのかもしれません。
熊本から福島へ野菜や果物を送る
福島からは遠く離れた九州に住む僕でさえ、このように縁ができるし、そこに暮らす人たちのことを少しでも知ることで何かが変わることもあるだろうし、もしかしたら見えている世界が変わるかもしれない。そう思って「Change The World」という活動を始めたのです。
最初の数年は、熊本から不定期で野菜や果物を送っていました。活動資金は基本的にライブ会場で販売する500円のステッカーのみ。野菜や果物を購入して送ることもありますが、大半の生産者さんには、それらを寄付していただきました。あるいは相当割り引いていただいたりもしました。
市場の方と連携して大量のみかんを送ったこともあります。醤油の会社を経営なさっている方が、たくさんの醤油と味噌を寄付してくださったこともありました。余剰分の野菜などを快く寄付してくださった方などにおいては、これまでどれくらいの生産者さんがいらっしゃったことでしょうか。
とにかく始めてからの5年間くらいは、毎月のように熊本からよつば保育園に届け物をしていたように思います。
突然舞い込んだ田んぼの話
しかし時間が経つほどに、人々の関心は少しづつ薄れてゆくものです。もしかしたら僕自身も、最初の熱量は失ってきていたかもしれません。活動を継続するにはどうしたら良いかと思案し始めた頃、ちょうど、ある田んぼの話が舞い込んできたのです。
それまで仲間と一反ほどの田んぼを借りて米作りをしていたのですが、たまたま近くで離農される方がいらっしゃって、さらにもう一反ほどやらないかというお話を頂いたのです。
そこで思いついたのが「Rice Field Fes」のアイディアでした。広がったぶんの田んぼを「よつば保育園の田んぼ」にして、みんなでワークショップ形式で運営するのはどうだろうと。
これまではChange The Worldの活動の一環で、毎年お米を購入してよつば保育園に送っていましたが、買うのではなく、自分たちで作ってしまおうと考えたのです。
このアイディアを思いついたときは、熊本にあの保育園の子どもたちの田んぼができるぞ!と少し興奮したものです。
そして自分のサポーター企業である「KEEN JAPAN」や、地元の農業法人の「のはら農研塾」に話を持っていきました。このように考えていますが、一緒にやってくれませんかと。社会貢献活動などへの取り組みについては、両者とも常に積極的な姿勢で知られています。つまりは彼らの存在がなければ、とても立ち上げることは出来なかったでしょう。
今では「Rice Field Fes」は、ほとんど口コミで広がって、たくさんの方々に参加していただいています。特に幼児や小学生くらいの子どもたちや、その親の姿が多いようです。
よつば保育園の子どもたちが食べるお米を、熊本の子どもたちとその親らが植えたり刈り取ったりしている姿は感動すら覚えます。
熊本も地震で被災しましたから、お互いさまの気持ちがよく理解できますし、田んぼで作業をしている時は、日本人の根っこにある「思いやりの心」を再認識せずにはいられません。おかげで2024年は300kgを超えるお米を届けることができました。
元気づけるつもりが元気をもらっている
田植えと稲刈りのみならず、KEEN JAPANの皆さんとは、毎年よつば保育園に直接出向いてお米を渡しています。子どもたちとの贈呈式では、僕はギターを弾いて歌遊びをしています。体を動かして歌う「あんたがたどこさ」のゲームは大ウケの鉄板ネタですが、訪れる度に子どもたちの元気が増しているのには驚かされます。南相馬にはすっかり子どもたちの笑顔が帰ってきているようです。
そしてKEENからは子どもたちが楽しめるワークショップと小物などがプレゼントされます。今年はコーンホールという遊びや、カラフルなスタンプを使ってのオリジナルのエコバック作りなどを楽しんでもらいました。
東京の果物店「フタバフルーツ」も毎年のように駆けつけてくれて、子どもたちへの果物のプレゼントで花を添えてくれます。このふれあいの時間は、子どもたちというより僕らの方こそ元気をもらっているのではないでしょうか。
お互いさまの気持ちをいつも大切に
今年は年初に能登半島でも大きな災害が起こりました。南相馬から熊本に帰ってほどなく、被災した輪島の友人に、ストックしていた分の僕らのお米から150kgを送りました。様子を見聞きする限り、その復興には長い道のりが要されることでしょう。
微力ながら今年から南相馬の子どもたちに加えて、輪島の子どもたちにもお米を作りたいと考えています。僕はこの活動を、必要とされなくなるまで細く長く続けられたらと思っていますが、それはたくさんの人たちとの温かみのある繋がりがなければなしえないことだと痛感しています。
他者を労る心や感謝の気持ちを忘れては何事も叶わないと、改めて気づかされた今日この頃です。
Change The World の活動で一番変わったのは、もしかしたら僕自身なのかもしれません。
Change The World
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