現在、日本の新車販売台数の約4割を軽自動車が占め、その先頭を走り続けているのがホンダのスーパーハイトワゴン、N-BOXです。それがこの夏、6年ぶりのフルモデルチェンジによって第3世代へと進化。軽自動車ユーザーにとって待望の1台ともいえるニューモデルですが、一部には「あまり変わっていないような……」と、いう意見もちらほら。
確かに見た目にはドラスティックな変化が少ないかもしれません。しかしそれでも新型は、夏以降も首位をキープしています。その人気の秘密は? そして外遊びにどんな可能性を与えてくれるのでしょうか?
N-BOXってどんなクルマ?
2011年12月、初代N-BOXが登場すると時を置かずに、それまで新車販売の王座に君臨してきたトヨタ・カローラを抜き去り、大きな話題になりました。人気の最大の理由は、ホンダ独自の「センタータンクレイアウト」というコンセプトで実現した広い室内空間。通常はリアシートや荷室の下に置かれる燃料タンクを、前輪と後輪の間(前席の下)にレイアウトするというアイデアで、軽自動車の中でも圧倒的に広い室内空間と実用性の高さを実現できたのです。
2ℓクラスのミニバン並みともいわれる前後シートの間隔は、大人4人が乗ってもゆとりたっぷり。この広さという利点は2代目、そして3代目の新型にも受け継がれ、その上で質感の高い外観と走りが加わり、高い人気を得ています。初代登場から約10年で累計販売台数200万台に達し、現在もその記録は更新されています。
センタータンクレイアウトはやっぱりいい!
現在の軽自動車は全長3.4m、全幅1.48m、全高2.0mというサイズ内で開発されます。小さいながらも居住空間を確保し、安全性を向上させるために、全長と全幅においてはすでにギリギリまで拡大されています。残る手段は全高を上げて、さらに居住空間を広げること。
そこで軽自動車はどんどん背が高くなってきました。それでも重心が高くなり過ぎたり、横風などの影響を考えると、高さを上げるにもやはり限度があります。そうした状況を踏まえ、明確な基準ではありませんが、全高が1.7m以上を「スーパーハイトワゴン」、それ以下を「ハイトワゴン」と分けて呼ぶのが一般的です。
N-BOXが属しているスーパーハイトワゴンは「軽自動車のミニバン」と呼ばれ、居住空間において最大級の広さを確保したモデルが揃います。中でもN-BOXは、センタータンクレイアウトという画期的な技術によってフロアを低くでき、積載面でも居住面でも一歩リードできました。当然ですが3代目にもしっかりとその利点は進化を加えながら受け継がれています。
軽規格のサイズ枠の中で「積んで乗ること」にこだわった
たとえばリアシートの座面を跳ね上げると、身長140cmほどの子供であれば立ったまま着替えたり、観葉植物などの背の高い荷物、さらにはベビーカーを折りたたむことなく楽に積み込めます。座面の跳ね上げは左右別々に行えますから、外遊びのギアの大きさに合わせた対応も可能というワケです。
また、リアシートを前方に倒しながら折りたたむと、27インチの自転車を1台積載できるほど。床が低いため積み込みのときに自転車を大きく持ち上げる必要もなく、積載性はかなりいい方です。こうして自転車を積み込んでもまだゆとりがあるので、MTBのほかに折りたたみのテーブルやチェアなどをたっぷりと積み込むといった使い方をしても、ストレスはありません。
N-BOXのホイールベースは2,520mmとハイトワゴンの中でも最長クラス。これが前後にゆとりのある居住性を確保できたもうひとつの理由です。助手席の背もたれを後方に倒しフラットにすると、180cmを越える長物が無理なく積み込めます。
これに加えてリアシートは最大19cmの前後スライドが可能です。大人4人の場合、トランクに積む荷物がなければ、リアシートを一番後ろまでスライドさせると、後席には広々としたくつろぎの空間が生まれます。こうした高い居住性と積載性の良さがN-BOX最大の魅力です。
もはや限界と思われた室内空間はわずかに拡大
こうした室内空間の拡大は、まさに重箱の隅をつつくようにして行われています。ドライブのために乗り込んで見ると、旧型よりさらに楽な感じがしました。数値を調べてみる室内高を+5mm、後席の乗員がシートに座った状態におけるショルダールーム(肩の部分とリアウインドーの間の寸法)を+55mmも拡大していました。
旧型でも「もはや限界では」と言われていた空間の拡大を、またしても実現していたわけです。ゆとりある居住性が実現出来たのは、前後長だけでなく、左右幅の拡大によっても、大人4人が互いに肩も触れることなく座れる空間確保に役立っていたわけです。
四角い車体はフィールドでも取り回し良し
ところで、ホイールベースが長いことで、走りだしたら回転半径が大きくならないか? 軽自動車としての小回り性に影響しないか? と気になる人は多いでしょう。ドライブを始めると、それは杞憂だとすぐに気づきます。最小回転半径はわずか4.5m。混み合った市街地での取り扱いでストレスを感じることはなく、アウトドアフィールドの細道で苦労することも少ないと思います。
ボクシーで見切りのいいボディも取り回しの良さに役立っています。凹凸の少ないスッキリとしたデザインは狭めの道路やブッシュが迫る山道でも見切りが良く、ボディパネルをこするリスクも軽減されます。
ボディ剛性の高さと足回りの高い完成度がもたらす軽快な運転感覚
さらに運転していて感心するのは、ボディ剛性の高さによる快適な運転フィールの良さ。エンジンをスタートさせた瞬間、振動の少なさ、騒音の低さによって骨格がガッチリしていることをまず感じます。シャシーやボディ骨格などは従来型から踏襲しているというものの、細かな部分での剛性アップが施されつつ、進化したことを証明するかのように静粛なのです。これは本当の驚きであると同時に、乗員の疲労を低減することにも貢献することは間違いありません。
そして走り出せば、そうした驚きはさらに大きくなります。前後のサスペンションはソフトにしてしなやか。単に柔らかいのではなく、十分にストロークを感じさせながら路面のうねりをしなやかにいなして走る感じです。その乗り味をより輝かせているのが、改良を加えられた電動パワーステアリングの動き。しっかりとした手応えを感じさせつつ軽快な運転感覚です。こうした味つけによってドライビングの楽しさ、操作の楽しさを感じながら運転できるため、退屈を感じることが少ないのです。外遊びで疲れたお父さんには実にありがたいです。
先進運転支援システム「ホンダセンシング」もアップデート
良質な乗り味の実現には、ルーフライニングの構成変更や遮音層フィルムを追加したというフロアカーペットといった細かな工夫も貢献しています。もちろんホンダ自慢の先進運転支援システム(ADAS)である「ホンダセンシング」にもさらに磨きがかかっています。
これまでも操作性や、その自然な制御の味つけには好感が持てましたが、今回はさらに使いやすく、快適な走りに仕上がっています。前方の車両がいなくなった際の自然な加速感とか、レーンキープアシストの正確さ、そして衝突軽減ブレーキなどの制御は実に自然。新たに「近距離衝突軽減ブレーキ」やペダルの踏み間違いなどで速度が急に上がらない「急アクセル抑制機能」も追加され、安全性はさらに高まりました。
ただ少し残念なのは、急アクセル抑制機能がディーラーオプションだったこと。これは軽自動車が抱える二律背反的な議論のひとつですが、リーズナブルな軽自動車ほど、ADASを充実させて欲しいと思います。
都内の混雑路から高速に乗り込み、さらに郊外モードで走って、燃費は19.6km/l。カタログ燃費も今回は改善され、自然吸気モデルの旧型は21.2km/lから21.5km/l(カスタムのWLTCモード)へと向上しましたが、それに近い数値を達成できたことになります。
一部にあった「見た目の変化が少ない」への回答は、一度触れてみればすぐに出てくるわけです。そして一日過ごしてみると町でもアウトドアフィールドでも「もう立派なファーストカー」と納得させられるのです。
【ホンダN-BOXカスタム】
- 全長×全幅×全高=3,395×1,475×1,790mm
- ホイールベース:2,520mm
- 最小回転半径:4.5m
- 最低地上高:145mm
- 車重:920kg
- トランスミッション:CVT
- 駆動方式:前輪駆動
- エンジン:658cc水冷直列3気筒DOHC
- 最高出力:43kW(58PS)/7,300rpm
- 最大トルク:65N・m/4,800rpm
- リア燃料消費率:21.5km/l(WLTCモード)
- 車両本体価格:¥1,849,100(税込み)
問い合わせ先
TEL:0120-112010