気軽に登れるのが低山の魅力だが、油断は大敵。毎年、不幸な事故は起きている。事前準備から装備まで、安全登山のポイントをプロに教えてもらいました!
教えてくれた人 羽根田 治さん
1961年、埼玉県生まれ。フリーライター。山岳遭難や登山技術に関する記事を登山雑誌や書籍で発表。アウトドアでの死亡事故の事例53とともに、安全知識について言及する『これで死ぬ アウトドアに行く前に知っておきたい危険の事例集』(山と渓谷社)が話題。
口頭だけだと忘れちゃう!? 家族にはメモで残そう
山やルートの情報収集、装備やウェアの決定、危険予測のイメトレなど、安全な登山は無理のない計画を立てるところからスタート。計画が決まったら、登山計画書(登山届)を地元の警察署に提出しよう。県によっては提出を義務付けているので、事前に確認を。アプリやネットで提出できる地域も増加中だ。提出できない場合は、登る山と通るルート、下山予定時刻をメモで家族や知人に渡すこと。紙に残すことで、山に詳しくない人でも迅速に救助要請ができる。
早発早着は基本のキ! 余裕をもったスケジュールを
低山ハイクでも、朝早く出発して、午後早くに目的地に到着するのが大原則。山の天気は変わりやすい。にわか雨や雷雨など、途中で足止めをくらうこともあるので、余裕をもって計画を立てよう。ガイド本などにコースタイムが記されているが、休憩時間は含まれていないので要注意。脚力に自信がない場合は、コースタイムの1.5倍ほどの時間をみておこう。
低山での遭難原因第1位。道迷いは全力で回避!
低山は樹林帯が多く、登山道以外に林業従事者の作業道などもある。もし道に迷ったら即座に来た道を引き返そう。「もう少し進んでみよう」は絶対ダメ! パーティの場合ははぐれないよう、ペースの遅い人に歩調を合わせること。登山地図などで休憩のたびに現在地を確認するのも鉄則だ。事前に「ヤマレコ」や「YAMAP」などの地図アプリをダウンロードするのもいい。地図やアプリは使いこなすのに慣れが必要なので、近所の低山で練習しておくと安心。
石橋を叩いて渡る!? 普段の1000倍足もとに注意!
転倒は、ケガはもちろん、下手をすると滑落事故につながる。とくに木製の階段や、岩や石が多かったり、木の根が露出している登山道は、雨のあとは非常に滑りやすくなる。足の置き場に注意しながら、一歩一歩、慎重に進むこと。トレッキングポールを使う手もあるが、岩に引っ掛けて転倒する場合もあるので、使い方をマスターしてから使用したい。
休憩は疲れる前に! 水分&高カロリー携行食でエネルギーチャージ
登山は激しい運動なので、携行食は"高カロリー食"が基本。装備が増えないよう、コンパクトで軽いエナジーバーやゼリー飲料がおすすめだ。羽根田さんはそれに加え、ナッツ類とドライフルーツをミックスしたものや、冬季はコンデンスミルクを持参するそう。塩飴など、塩分補給アイテムも必須だ。水分は出発前にまず500㎖の水を飲んでおくこと。道中は、体重60㎏の人の場合、1時間に300㎖の水分が必要(体重1㎏に対して1時間5㎖が原則)なので、計算して持っていこう。温度は冷たくても熱くてもOK。エネルギーや水分の補給は、疲れる前に摂り入れるほうが有効なことも忘れずに!
めまい、集中力低下……ちょっと変かも?はかなりキケン!
気温が高い日は熱中症に注意したい。脱水症状が引き金になるので、水分は積極的に補給しよう。初期症状は大量の汗、めまい、集中力低下など。症状が表われたら、涼しい場所へ移動し、首筋、脇の下、股の付け根に濡れタオルなどを当てて体を冷やす。その際、水分や塩分も必ず補給。症状が進むと素人では対処できなくなるので、体調不良は初期対処が要!
出遭わないほうが互いのため。クマよけの鈴をつけて歩くべし
クマはもともと臆病な動物だ。しかし、突然人間と至近距離で出くわすと、自分の身を守るために攻撃をしかけてくる。遭遇してしまった場合は、大声を出したり、慌てて逃げるのはNG。静かに後ずさりするのが良いとされるが、ケースバイケースなので正解はない。不幸な事故が起きないよう、熊鈴を身に付けて、人間の存在を知らせながら行動しよう。
いざというときに役に立つ! プラスアルファ装備
転ばぬ先の杖の装備としておすすめなのが、ツェルト&ロープ、ヘッドランプ、救急セット、エマージェンシーシート。救急セットには、ペットボトルのフタに穴をあけたものを入れておく。ケガをしたときは、飲料水のペットボトルのフタと入れ替え、傷を洗い流すことができる。傷口を保護するワセリンや、三角巾がわりに使える手ぬぐいもあると重宝する。エマージェンシーシートは防寒はもちろん、樹林帯で遭難したときに見つけてもらう目印にもなる。
※構成/松村由美子 漫画/キムコ玉川
(BE-PAL 2023年11月号より)