自生しているクレソンをいつの間にか摘んでいた八幡さんに「そっか」を始めた経緯を尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「自分の暮らしを知って欲しいんです。だから住んでいる土地で遊ぶ。子どもが自力で帰ってこられる半径2kmぐらいの範囲で。そして、何か決まった遊びをするのではなく、それぞれが好きなように遊ぶ。そこから学ぶことっていろいろあると思います。逗子で3年間、ただひたすら子どもと遊んでみて、確実に彼らが変わっていくのを感じました。親も変わります。現代は知恵を増やす機会は多いけれど、自分が主体的に楽しみながら何かを得ることって……、そうそうないですよね」
「あと“食べること”と“水”を大事にしたいと思っています。どちらも、人間にとって不可欠なものだから」
今回の「滑川じゃぶじゃぶ」では、水がどこからきてどこへ行くのかを追っている。川の中の様子を知り、水源を見つけ、ああ自分たちの生活ってこの上で成り立っているのか、という実感を得る旅、でもある。なるほど、海も川も、つながっている。
八幡さんが、「見て! 鎌倉駅の近くにこんなキレイな風景が残っているんだよ」と指を差した先には、その区間だけ護岸工事がされていない、自然のままの姿を留めた場所だった。
耳を澄ますと、せせらぎと鳥の声しか聞こえない。一瞬にして山奥に迷い込んだかのような風景に出会えたのも、川の中をじゃぶじゃぶ歩いてきたからこそ。
やっとのことで、待ち合わせポイントの東勝寺橋が見えてきた。約2時間半、ほぼ歩き通しで(しかも歩き慣れない水の中を)、さすがに足がくたびれたけれど、思わず「やったー!」とガッツポーズ。
橋の脇からワイルドな階段を上ると、もうひとりの「そっか」共同代表、小野寺愛さんが「お疲れさまー!」と笑顔で迎えてくれた。最後尾チームが全員陸上に戻ったところで、記念撮影。皆、本当にいい顔をしている。
さて、先頭チームを率いているはずの永井さんたちは、どこへ? どうやら、先に水源地を目指して出かけたらしい。私たちも追って……と言いたいところだが、息子、体が濡れて冷えたのとあまりの空腹に耐えかねて、ここで終わりにしたいと言う。無理せず、やりたいところで各自帰ってもいい、というのはありがたい。 その後、八幡さんは遅れを取り戻すべく、地上を歩いて川の近くまで向かい、永井さんとも合流し、16時過ぎに無事に水源スポットに到達したとのこと。その中には小学3年生の子もいたというのだから、いやはや、すごい。
「滑川じゃぶじゃぶ」を通してこんなことを学びました!と即答することは難しい。でも、我が街の足下に広がる世界を知り、息子といっしょにくたくたになるまで動き、久々に膝を擦りむいて痛い思いをし……。ああ、子どもの頃、こんな風に、毎日一生懸命遊んでいたなあということを、おぼろげながら思い出した。
本気の遊びは、最高に楽しい。
◎取材協力/
一般社団法人「そっか」
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◎文=旅音(たびおと)
カメラマン(林澄里)、ライター(林加奈子)のふたりによる、旅にまつわるさまざまな仕事を手がける夫婦ユニット。単行本や雑誌の撮影・執筆、トークイベント出演など、活動は多岐にわたる。近年は息子といっしょに海外へ出かけるのが恒例行事に。著書に『インドホリック』(SPACE SHOWER BOOKS)、『中南米スイッチ』(新紀元社)。
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