注目のノンフィクション『獲る 食べる 生きる』著者にインタビュー! | ナチュラルライフ 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2023.10.11

    注目のノンフィクション『獲る 食べる 生きる』著者にインタビュー!

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    「NHKを辞めて猟師になった僕が伝えたいこと」

    NHKディレクターがカナダ先住民と出会い猟師になるまでを綴ったノンフィクションが注目を集めている。著者が狩猟と先住民から学んだこととは?

    猟師 黒田未来雄さん

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    1972年、東京生まれ。2006年からユーコンに通い狩猟体験を積み、その10年後、北海道転勤を機に自らも狩猟を始める。

    人間は大地の一部、水の一部

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    前職NHK『ダーウィンが来た!』ディレクター、現職猟師が上梓した、『獲る 食べる 生きる』が話題を集めている。「生きものの命を自分の手で絶ち、きちんといただきたい」と書く著者の黒田未来雄さんが伝えたいこととは何か、直撃した。

    ―どのような経緯で狩猟を始めたのですか。
     
    僕は東京生まれで、中高はブラスバンド部、大学ではオーケストラに入ってコントラバスを弾いていました。最初に就職したのも、世界をまたにかけるビジネスマンに憧れて三菱商事。このようにアウトドアとは離れたところで大人になったのですが、社会人になったころに写真家・星野道夫さんの著作と出会い、北の自然への憧れが膨らんでいきました。その後、NHKに転職した僕は、代々木公園で開催されたアースデイのイベントでカナダの先住民クリンギット族の〝師〟と知り合い、毎年有給休暇に彼の住むユーコンを訪ねるようになったんです。そして狩猟に同行させてもらい、命と対峙する経験を積ませてもらいました。

    ―ご自身で狩猟をするようになったのは、北海道への転勤がきっかけだったそうですね。
     
    東京勤務の間は、狩猟を体験するにはカナダに行くしかないと思い込んでいました。狩猟免許を取れば東京でもできなくはなかったのですが、そういう発想に至らなかった。それが、上司に「北海道で働かないか」と打診されて一転。「北海道だったら週末に行ける。これからは自分でできる」と二つ返事で転勤に応じました。

    ―なぜ狩猟をするのですか。

    食べるためです。生きるためには食べなくてはなりません。動物として生まれた以上、食う食われるは必然です。それならば、彼らの強さ、美しさを目に焼き付け、自らの手で息の根を止め、それをいただいて生きていたいんです。

    ―「私の眼を覗き込んできた。(中略)妙に悲しそうな面をしている。自ら屠っておきながら悲しむとは、なんと愚かな」と鹿の視点に立った描写など、本書では獲物への畏敬の念を強く感じます。

    本書は、もともとブログに書いていた文章がベースです。今日の鹿がどのようにがんばって生きようとしていたかとか、どんな目をしていたかとか、山に入るたびにものすごい感動や学びがあるので、無我夢中で書いていたんです。それをまとめて、『小学館ノンフィクション大賞』に応募したのですが、最終候補作に残ったものの撃沈しました。「主観的すぎる。これはノンフィクションではない」と酷評されまして(笑)。

    ―応募作を構成し直して上梓したのが本書ですが、何をもっとも伝えたいですか。

    「人間は大地の一部、水の一部」という言葉です。これは、クリンギット族の師・キースが教えてくれた人間の存在を表わす先住民の言葉です。2006年、これを初めて聞いたとき、なんて美しく詩的で、人間のあるべき姿を端的に表わす言葉なのだろうと感動しました。その後、彼と多くの時間を一緒に過ごし、自分でも狩猟をするようになり、死にそうな体験をしたり目の前で息絶えてゆく動物の姿を見てきた中で、「大地の一部、水の一部」がより実感として熟成され、ようやく今自分の言葉になってきたと感じています。だからこそ、この言葉を広く知ってもらい、人間がもっと謙虚に自然とつながり、自然を大事にし、自然の上に立つことなくその中でどうやって生きていくことができるのかを考えてほしいと思っています。

    ―8月にNHKを退職されたそうですが、今後はどのような活動をしていくのですか
     

    50代になり残り時間を意識するようになった今、本当にやりたいことをやるなら体力・気力が充実しているうちにやるしかないと考えて早期退職しました。まさに新しい人生のスタートラインに立ったところです。生活拠点を北海道に移し、エゾジカの猟期である冬の間は北海道で獣を追い、夏はユーコンに行って、先住民の神話や世界観をより深く学ぼうと思っています。同時に、〝伝える〟活動を続けていきます。カナダの先住民にはトーキングスティックと呼ばれる杖があります。大切なことを決めるとき、トーキングスティックが人びとの手から手へと回され、杖を持った者は思いのすべてを語りつくすというしきたりがあるのです。僕は、本書を書き進むにつれ、トーキングスティックを握らされているのではないかと感じるようになりました。僕が体験したこと、学んだことを文字にして世の中に語りかけていきたいと思います。

    『獲る 食べる 生きる
    狩猟と先住民から学ぶ"いのち"の巡り』

    黒田未来雄著 小学館 ¥1,870

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    カナダ先住民との交流、北海道で対峙したエゾジカやヒグマ……。猟師という生き方に転じた黒田さんの実体験ノンフィクション。

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    ユーコン訪問8回目、500㎏のヘラジカを仕留めたキース(写真右)と著者。キースからは獲物との向き合い方、解体の仕方などを学んだ。

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    初めてユーコンを訪問した2006年、黒田さんはトーキングスティックを作った。流木にビーバーの尾を模したデザインを彫り込んだ。

     

    生きるために食べる。食べるために獲る

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    エゾジカの猟期は10月から3月。黒田さんはひとりで山に入って獲物を歩いて探す「単独忍び猟」を行なう。

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    絶命した直後、瞳孔が開いた鹿の目に陽光が差し込むと、一時的にエメラルドに輝く。

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    2021年10月、初めてヒグマを仕留めた。毛は思ったより柔らかく、体に触れると熱かった。

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    広大な山林の中で観察力と想像力を駆使して鹿の居場所を推し量る。

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    仕留めた鹿はその場で解体し、可食部分を背負って持ち帰る。

    ※構成/鍋田吉郎 撮影/小倉雄一郎、黒田未来雄、大川原敬明

    (BE-PAL 2023年10月号より)

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