一見相反する『透湿』『防水』という機能性が兼ねそなわるのはなぜか、分からない人もいるのではないでしょうか。透湿防水(防水透湿)素材の仕組みや加工方法を解説します。各メーカーの透湿防水素材も紹介するので、アウトドア用品をそろえている人は参考にしましょう。
透湿防水とはどんな仕組み?
透湿防水とは、いったいどのような仕組みになっているのでしょうか。詳しい仕組みや、防水とはっ水の違いも解説します。
湿気は逃がしつつ水の浸入を防止するもの
透湿防水とは、外からの水の侵入は防ぎつつ、内からの湿気は逃がす繊維素材の加工技術のことです。具体的には水の液体分子よりも小さく、かつ気体分子よりは大きい孔を空けることで、透湿と防水の両方を実現しています。
水の気体分子の大きさが約0.0004μm(マイクロメートル=1000分の1㎜)であるのに対し、液体分子は100~3,000μmであり、この差を利用しているのです。
防水機能だけをそなえた衣服の場合、水も通さない代わりに湿気も通しません。汗をかくと、服の中が蒸れて不快感が生まれてしまいます。また、結露した水分が体を冷やし、山や寒冷地では生死に関わることもあります。そこで、着用中の不快感や汗冷えを和らげるために、透湿防水加工が開発されました。
▶参考記事「高機能素材「ゴアテックス」とは?優れた機能性とおすすめウェアを合わせて紹介」
防水とはっ水の違い
アウトドアウェアを見ていると、『防水機能』と『はっ水機能』についての表示を目にすることがあるでしょう。両者の違いは、目的と加工方法にあります。
はっ水は水を弾く技術であり、生地が濡れるのを防いだり拭き取りやすくしたりするのが目的です。しかし、長時間水分にさらされると水が染みてきてしまいます。なぜなら生地にはすきまが空いており、水の侵入を完全に防ぐことはできないためです。
水の侵入を防ぐためには、はっ水性能だけでなく防水性能が欠かせません。
透湿防水性能の加工方法や性能
透湿防水性能の加工方法や性能を詳しく解説します。加工方法の違いや性能について理解することで、より自分の求めるウェアを手に入れやすくなります。
透湿防水の加工方法
透湿防水の加工方法は、コーティングとラミネートの2種類です。
コーティングは生地の裏にポリウレタンなどの樹脂を塗る方法。一方、ラミネートは生地と生地の間、または生地そのものに防水透湿の膜(フィルム)を貼る方法です。多孔質のコーティング層や、多孔質フィルムによって、透湿加工が実現します。
有名なゴアテックスは、多孔質の防水透湿メンブレン(膜)をラミネートする透湿防水技術です。
▶参考記事:ゴアテックス公式サイト「GORE-TEX メンブレン」
メーカーや製品によって、どちらの加工方法も用いられますが、加工方法によって機能と風合いが変わります。ラミネートのほうが生地が厚く、防水性が高いのが特徴です。
生地の薄さでいうと、フィルムを貼らない分、コーティングのほうが薄くなりますが、樹脂をベタ塗りするぶん、生地の風合いは少し劣るでしょう。
透湿防水性能は「耐水圧」と「透湿性」に注目
透湿防水性能を測るときは、耐水圧と透湿性に注目しましょう。耐水圧とは、防水性を表す単位のことです。生地に1cm四方の筒を立て、どのくらいの高さの水の量に耐えられるかを表します。
耐水圧
耐水圧の基準は以下の通りです。
- 300mm:小雨
- 2,000mm:中雨
- 1万mm:大雨
- 2万mm:嵐
アウトドア用のレインウェアは、耐水圧1万mm以上になっているのが一般的です。登山などの厳しい環境に身を置くときには、2万mm以上あると安心でしょう。
透湿性
透湿性とは、24時間に何gの水分を逃がすかを表わす数値です。
目安として、軽い運動を1時間行なったときの発汗量は500g(24時間で1万2,000g)といわれています。
蒸れにくいレインウェアを選ぶときは、5,000~8,000gの透湿性を基準にするとよいでしょう。
メーカーごとの透湿防水加工素材
透湿防水素材は、メーカーが独自に開発しているケースも多くなっています。有名なものをいくつか見ていきましょう。
ゴアテックス
代表的な透湿防水技術で、アウターや靴をはじめさまざまなアイテムに採用されています。ゴアテックスメンブレンという特殊な素材を使っていることが特徴です。
ゴアテックスのメンブレンには1インチ四方あたりに約90億個の孔が空いており、防水透湿とともに防風性能も兼ね備えています。ゴアテックスの基本はメンブレンの両面に生地を貼る3層タイプで、丈夫さと裏地による肌触りのよさを両立しています。
ほかに裏地を貼らない2層タイプもあり、3層に比べて生地が柔らかく、動きやすさを高めているのが特徴です。
▶参考記事:ゴアテックス公式サイト
TYPHON 50000
ミレーが開発している透湿防水技術です。業界トップクラスの透湿性に加え、ストレッチ素材を使うことで動きやすさも高めていることが特徴です。
耐水圧2万mmと高い耐水性を誇り、これは嵐の中でも耐えられる水準となっています。さらに透湿性は一般的なレインウェアの約2倍(5万g/平方m/24時間)です。暑い季節や湿気の多い日でも、快適に運動をサポートします。
主にジャケットやパンツに採用されており、各シーズン用のモデルが販売されています。裏地にはニットを採用することで、肌触りも向上させているのもポイントです。
▶参考記事:ミレー公式サイト
フューチャーライト
ザ・ノース・フェイスが2019年に開発した透湿防水素材です。1番の売りは、着用したままでも動きやすいことです。ミクロ単位の小さな孔が無数に空いているナノフィルムを採用することで、内部の湿度をきめ細かくコントロールします。
ナノフィルム自体が伸縮性に優れているだけでなく、表地と裏地を製品によって自由に選べるので、着心地や動きやすさを重視する人におすすめです。
強風時には肌寒く感じてしまう可能性があるほど通気性に優れているため、強風時や豪雨時といった極端な悪天候下では、風・水に強い生地と使い分けるのがよいでしょう。
▶参考記事:GOLDWIN公式サイト
ドライテック
モンベルが開発する透湿防水素材です。防水性を高めるほど透湿性は下がるという、ポリウレタンの特徴ともいえる弱点を克服した技術です。
耐水圧は2万mm以上、透湿性は8,000~2万g/平方m/24時間と高いレベルでの防水性と透湿性を両立しています。レイヤーは裏生地がある3層と裏生地がない2層に分かれており、肌触りや生地の厚さによってモデルを選ぶことが可能です。
ほかにも、ドライテックの性能に加えて、高い伸縮性を実現した『ストレッチ ドライテック』という技術もあります。
参考:モンベル公式サイト
ブリザテック
東レコーテックスのポリマー技術を採用した素材です。防水性能に加えて、はっ水性能も搭載しているのが特徴です。水滴が付着しても拭き取りやすく、水系の汚れを素早くきれいにできます。
耐水圧は1万mm、透湿性は7,500g、はっ水度は最高ランクである5級を誇ります。アウトドアウェアだけでなく、椅子張り生地などにも使用されている万能素材です。
▶参考記事:東レコーテックス公式サイト
H2NOパフォーマンス・スタンダード
パタゴニアが開発した、透湿性・防水性・耐久性の観点から行うテストのプロセスです。具体的な耐水圧や透湿性は公表されていないものの、4段階にわたる厳しい環境におけるテストをクリアした商品には、H2NOのロゴを表示することが許されます。
つまりH2NOが表示されている商品は、パタゴニアが高い防水性と透湿性を認める商品であるということです。厳密には素材ではなく規格の名称になりますが、パタゴニアの透湿防水性能を有したウェアにはほとんど付いていることから、パタゴニアの透湿防水技術としても知られています。
▶参考記事:パタゴニア公式サイト
まとめ
透湿防水とは、水分子を通さず、気体分子は通る大きさの孔を空けることで、一見相反する性能を両立させる技術です。雨による濡れは防ぎつつ、発汗による内側から発生する湿気を逃がすことで、ウェア内を快適に保ってくれます。
透湿防水の加工方法にはいくつか種類があり、メーカーも独自の技術を開発してしのぎを削っています。透湿防水の仕組みや性能を理解し、ウェア選びに役立てましょう。