伝統に則った焼畑で里山再生を! 田舎賢人・京都先端科学大学教授 鈴木玲治さんの活動とは?
  • OUTDOOR
  • NEWS
  • SUSTAINABLE
  • CAR
  • CAMP
  • GEAR
  • COOKING
  • OUTDOOR
  • NEWS
  • SUSTAINABLE
  • CAR
  • CAMP
  • GEAR
  • COOKING
  • ナチュラルライフ

    2023.07.16

    伝統に則った焼畑で里山再生を! 田舎賢人・京都先端科学大学教授 鈴木玲治さんの活動とは?

    すずき・れいじ 1971年、福岡県北九州市出身。京都大学農学部大学院修了後、環境コンサルタント会社へ。その後、京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程で東南アジアの焼畑を研究。近年は日本の山村を訪問し焼畑を活かした里山再生の可能性を探る。博士(地域研究)。

    森林破壊の元凶といわれることもある焼畑だが、伝統に則った焼畑は生物多様性の維持にも貢献してきた。さらに焼畑は中山間地域に人を集める力さえも秘めているのだ! 今回は京都先端科学大学 バイオ環境学部教授 の鈴木玲治さんにお話をうかがった。

    焼畑が今なお継承されている理由。それは火が楽しい存在だから。キャンプの焚き火と同じです

    資本力のある企業が、地方のバイパス沿いに続々と進出して新たな商業圏を作る。結果として地元に昔からあった個人商店が廃業へと追い込まれる。
     
    こうしたビジネスモデルは焼畑商業とも呼ばれる。熱帯雨林を破壊しながら展開されてきたプランテーション型農業になぞらえた言葉である。
     
    熱帯雨林を大規模な農地に作り替えるときに行なわれるのが火入れで、世界的にはこの光景が焼畑のイメージになっている。だが、本来の焼畑とはこのような破壊的な技術ではない。持続的で無理がなく、むしろこれからの農業や地域政策のヒントに満ちていると語るのが鈴木玲治さん(51歳)だ。

    ──最初に研究したのは東南アジアの焼畑だったそうですね。

    「私が若いころ、焼畑という言葉はかなりネガティブなものでした。日本の場合、焼畑はほとんどの地域で途絶えていたこともあり、海外の環境報道を元にした悪玉のイメージが社会の中に刷り込まれていました。
     
    広大な森林をプランテーション型の農地に作り替えようとするとき、最も手っ取り早いのは火で焼き尽くす方法です。短期間で土地造成ができるわけです。このような行為が焼畑と混同されていたため、その誤解を解きたかったのですが、当時大学院生だった私も焼畑の実情を知りません。そこでミャンマーやラオスの焼畑村へ入りました。土壌、植生、聞き取りと衛星画像やGIS(地理情報システム)の調査を組み合わせ、伝統的な焼畑が環境に与える影響をさまざまな角度から研究したのです」

    ──悪玉論は濡れ衣でしたか?

    「実際はイエスでもありノーでもあるのですが、伝統的なやり方を守っている限りは自然のポテンシャルを低下させないということがわかりました」

    空気が乾燥する時期は山火事の危険があるため、草木の葉はよく繁るが湿潤な夏に火入れを行なう地域が多い。焼畑にする土地は雑木林、茅場、スギ植林地の跡地などさまざま。

    自然と共存するための知恵。その象徴が焼畑の在来知だ

    ──そもそも焼畑とはどんなものなのでしょう。

    「火の力で植生環境をリセットして農作物を育てる。そこだけを見ればプランテーション型農業と大差ないのですが、伝統的な焼畑は数年作付けをしたらしばらく土地を休ませ、植生を回復させます。つまり農地を自然に返す。ここが違いです。うまく回せば数年〜数十年後には元の生態系が回復し、植物体や土壌に有機物やミネラルが蓄えられます。その蓄積を待って再び火を入れると、土壌に含まれる有機態窒素が熱で作物の吸収しやすい無機態窒素に変わります。灰にはミネラルも豊富に含まれます。結果として肥料を投入しなくても作物がよく育つのです。
     
    火を入れたときの熱で表土付近の雑草の種は死んでしまうため、除草剤も使う必要がありません。非常に持続的であり合理的な農業技法で、究極の有機農業という言葉もあるほどです。しかし、収奪的な土地造成のための火入れと混同され、負の農業技術というレッテルが貼られてしまったのです」

    ──焼畑悪玉論はまだ根強くあるのではないですか。

    「大学ではきちんと教えるようにしていますが、世界的には森林破壊の元凶と思っている人はまだ多いでしょう。焼畑への誤ったイメージを払拭するには、我々研究者がもう少しわかりやすく社会に向け情報発信していくことが大切だと思います」

    ──世界的にはどのあたりで行なわれている技術なのですか。

    「主にアフリカ、東南アジア、南アメリカです。温帯地域で今もかろうじて残っているのが日本です。焼畑の技術がどう広がっていったのかは分かっていないことも多いのですが、森や藪を手っ取り早く畑に開墾するには火を入れるのが最も楽な手段だったのでしょう。そこから今いったような火入れのさまざまなメリットに気づき、地域の特性に応じた技術や知恵が継承されてきたのだと思います」

    ──昔は日本でも一般的だったのでしょうか。

    「縄文時代にはすでに行なわれていたと考えてよいでしょう。ただ、主に山地斜面での耕作手段であり、日本全国のどこででも行なわれていたわけではありません。1950 年時点では約11万もの世帯が焼畑を営んでいましたが、高度経済成長期に衰退していきました」

    ──焼畑は日本ではどれくらいの地域に残っていますか。

    「近年復活した地域、一度は復活したものの後継者がなく途絶えてしまった地域も含めると20地域ちょっとでしょうか。東北は日本海側に多く、次いで北陸、山陰。東日本では南アルプスの麓、そして四国、九州です」

    火入れの前にはかならず祝詞をあげる。作業の安全と豊作祈願のほか、森を焼く行為に許しを請う意味などが含まれている。

    区画の植物はチェーンソーや鉈、鎌、鋸などであらかじめ切っておく。余呉町では延焼防止の防火帯にイノシシ除けのトタン板を流用。

    ──近年はご自身も焼畑を実践していらっしゃるそうですが。

    「滋賀県北部の長浜市余呉町に、近年まで焼畑をやっていた集落があります。地元の人たちによる焼畑は途絶えたのですが、火野山ひろばという市民団体が復活させました。そこに学生たちと参加しています。
     
    じつは聞き取り調査だけではわからないことが多いんですよ。技術の細かな秘訣のようなところになると、研究者自身が焼畑の経験を持つ人のレベルに近づかないと引き出せないのです。
     
    アウトドアにも同じようなことがあると思うんです。釣りやキノコ採りをしたことのない人が、奥義を知りたいと名人の門戸を叩いたところで習得は無理ですよね。焼畑という技術の全体像を把握するには、自分自身も焼畑をやってみるしかないという結論に達したのです」

    ──学びはありましたか。

    「たとえば〈火入れはお盆前にする〉という口伝があります。お盆は何かと忙しいので、その前に済ませておけという農事暦的な理由と理解していました。そう考えていたので、少しくらいは遅れても問題ないだろうと、8月末に火を入れてカブの種をまいた年がありました。
     
    ところが、その年にはコオロギが大発生し芽が出た端から食べられてしまいました。ほぼ全滅です。自然というのはさまざまな関係性の中で複雑につながっており、いつも一定ではありません。仮に害虫が大発生しても、すでに苗が大きくなっていれば食害のダメージが減らせます。そうしたリスク回避の知恵が〈火入れはお盆前〉という口伝だったことに気づいたのです」

    余呉町の焼畑で育てられているヤマカブラ。主に漬物として利用されてきた。焼畑で育てたカブはおいしいといわれる。理由ははっきりわからないが、窒素過多や水分過多になりにくいことが一因ではないかと鈴木さんはみる。

    地域の環境に適応した、育てやすくて味の良いカブを残すための作業が種採りだ。

    カブは夏に種をまき晩秋に収穫。大きくなったものから収穫し、小さなものは雪が降る前まで畑に置き育てる。

    ──なるほど、深いですね。

    「昔の人もたくさんの失敗を繰り返してそうした最適解を見つけたのだと思います。このような知恵は在来知と呼ばれますが、私が注目しているのはその意味です。焼畑の在来知の多くは、じつは収量を最大化するためのものではないのです。リスクの最小化、つまり失敗をしない、守りのための知恵なのです」

    ──プラスを目指す前にマイナスを防ぐことを考える。これも深いですね。ほかにはどんな在来知がありますか。

    「火の入れ方もそうなんです。火は斜面の上から下に向かって燃えていくように入れます。炎は上昇するので下から火を入れると一気に燃え上がり、コントロールできなくなる危険があります。穏やかに燃え続けるよう上から火を入れるわけですが、そこにはもうひとつ隠れた大きな意味があったのです。
     
    下から火を入れると見た目は勢いよく燃えるのですが、消えていくのも早いので表土の温度がそれほど上がらないのです。上から火を入れるとゆっくり下に燃えていき、土にもしっかり火が入り植物の養分となる窒素が多量に出てきます。雑草の種にもしっかり熱が入ります」

    ──うーん、ますます深い!

    「種採りにも面白い在来知があるんですよ。余呉町の焼畑で主に育てられてきたのはヤマカブラという在来カブですが、色や形、堅さに個体差があります。漫然と種採りをすると翌年良いものが育たなくなるので、理想的な形や色のものを選び出しています」

    ──母本選抜ですね。

    「余呉町では種採り用のカブを選別する際、カブの下半分程度を切り落とします。カブが属するアブラナ科野菜は交雑しやすいことで知られますが、下切りをすると交雑しないと教わりました。教えてくださった方は〈下切りするとカブが浮気をせんのや〉とおっしゃっていましたが、いい得て妙の表現です」

    ──面白いですね。

    「しかし、この下切りにはもう一つ重要な役割があったのです。包丁を入れたときの感触で堅すぎておいしくないものを種採り用から外しているのです」

    ──包丁が遺伝特性を調べるセンサーになっているのですね。

    「また我々の実験により、下切りがカブの開花時期を早めることが分かりました。ほかのアブラナ科野菜より早く開花するため、交雑を防げるのです」

    ──農業技術には理由がわからないまま継承されていることもあると思いますが、科学的な裏付けがとれているのですね。

    「下切りと呼ばれているこの在来知は、じつは余呉地方固有のものではないんですよ。江戸前期の農業書『百姓伝記』の中にも記述されています。広く共有されていた知恵だったのです。
     
    在来知探求の醍醐味は意外性です。通りいっぺんの問いかけでは返ってこない。自分もやってみたけれどうまくいかなかったのはなぜでしょうと尋ねてみる。すると、そんなことも知らんかったんかいな。そういうときはこうするんやと、今までと別な知識の引き出しを開けて見せてくれる瞬間があるんです。聞き手であるこちらが想定していなかった新しい在来知を発見できたときは興奮しますね」

    楽しいこと、面白いことこそ人を集めコトを起こす力になる

    自分でも経験すると疑問が次々に出てくる。「やってみないとわからない秘訣がたくさんあります。それが在来知です」

    ──現代に生きる私たちが焼畑に象徴される在来知を知ることの意義はなんでしょうか。

    「最初、焼畑は今なお誤解されているといいましたが、今の日本で問題になっているのは自然の使いすぎではなく、自然を使わず放置し続けたことで起きている新たな環境問題です。
     
    里山の新陳代謝は薪炭生産のための伐採だけでなく、焼畑によっても図られてきました。森に定期的に火が入ることで植生がパッチ状に変化し続け、多くの種類の生き物が暮らせる多様な環境が維持されます。こうした焼畑の潜在的な役割をどう評価するのか。社会の知性が問われているような気がします」

    余呉町をフィールドに焼畑の実践研究を始めて10年以上。毎年動画で記録している。

    『焼畑が地域を豊かにする』(共著・実生社刊)。全国の焼畑実践地情報も多数掲載されている。

    ──それでも焼畑はたいへんな作業だと思います。続けてきた人たち、復活させた人たちの原動力はなんでしょう。

    「そこは理屈じゃないんですね。私もやってみてよくわかったのですが、面白いんですよ、火を扱うことは(笑)。キャンプの焚き火と同じです。だから皆さん楽しそうに焼畑をやっています。面白いから、楽しいからという動機はシンプルですが、じつはとても大事だと思っています。
     
    面白いこと、楽しいことはイベント化するので人が自然と集まるようになります。焼畑の実践地はどこも中山間地、つまり人が減って困っている地域です。焼畑に興味を覚えてやってくる人たちの中には、農業や林業に関心が高い若い人も少なくありません。焼畑に参加したことが縁で地域おこし協力隊員になり、中には移住する人もいます。するとその人が核になり、同じ志向を持つ新しい人たちが集まってきます」

    ──焼畑を通じネットワークが生まれるわけですね。

    「焼畑実践地ではブランド作物ができたり、都会の飲食店ともつながりを持ち始めたりしていますが、それも楽しい、面白いというところから生まれたネットワークがきっかけです。
     
    焼畑の直接的な効果は森林再生や農業再生ですが、火をきっかけに人の輪がつながっていく地域活性効果も、焼畑が秘めている大きな可能性です」

    太いけれど木材にならない樹木はウッドロケットストーブに!

    休閑期間が長い森は養分の蓄積量が高い。しかし育ちすぎた木は燃え残りやすく焼畑ではかえって支障となるため、太い木の幹は火入れ前の伐採時に除外しておくのが一般的だ。ただ、そうした場所の木は木材的な価値はあまり高くない。そこで鈴木さんが推奨するのが、玉切りして燃料として活用することだ。

    玉切り材の燃料といえばチェーンソーで放射状の切り込みを入れたスウェーデントーチが知られているが、鈴木研究室ではウッドロケットストーブに加工している。作り方は簡単。丸太の上面中央に直径3㎝のドリルで垂直に穴をあける。次にその穴に合流するように側面やや下側からドリルを入れ、木の中にL字型の穴を通す。使うときはL字の穴の奥で火をおこす。着火まで少し時間がかかるものの、一度燃えだすと空気の吸い上げ効果が生まれ、強い力で燃え続ける。

    燃焼時間はスウェーデントーチよりも長く経済的。燃焼途中で崩れにくいので湯沸かしや調理器具としても優秀だ。

    3方向からカスガイを打ち込んでおくと五徳になる。火がクッカーの底によく回るため調理効果が増す。

    原理は金属製のロケットストーブと同じだが、本体自体が燃料になり、L字の穴から外に向かって燃え広がる。焼け崩れが遅いので経済的だ。

    鈴木玲治流・焼畑に関わりたい人への3つのアドバイス

    1 まずは焼畑実践地域を訪ね、見学会や体験会に参加する

    百聞は一見にしかず。焼畑に興味を持ったらまずは実践している地域を訪ね、見学会や体験会に参加して火のパワーを体感する。

    2 自分の地域でやってみたければ、地域での人脈づくりから

    個人レベルで新たに焼畑をすることはかなり難しい。地域の理解と合意が不可欠だからだ。まずは地元での人脈を築こう。

    3 焼畑を応援する側に回る……という関わり方もある

    焼畑で育てた農産物や加工品を買うことも地域文化に対する立派な応援。SNSで魅力を発信するだけでも焼畑への理解は広まるはず。

     

    ※構成/鹿熊 勤 撮影/藤田修平 写真提供/鈴木玲治

    (BE-PAL 2023年6月号より)

    NEW ARTICLES

    『 ナチュラルライフ 』新着編集部記事

    浜に打ち上げられた海藻を有効活用してみよう!

    2024.11.26

    ゲストハウスが舞台の心優しい群像劇。映画『ココでのはなし』のこささりょうま監督に直撃!

    2024.11.15

    「レモングラス」を自家栽培してみた!収穫と越冬準備、使い方、香りを活かす保存法も

    2024.11.03

    ナポリピッツァの伝道師、サルバトーレ・クオモ氏が取り組む新プロジェクトの中身とは

    2024.10.28

    具材もつつむ葉っぱも自然からいただいちゃおう!「里山おにぎり」食べてみませんか?

    2024.10.20

    「プリスティン」「ナナミカ」がタッグを組んだ天然繊維100%のフリースとは

    2024.10.18

    自宅の部屋でアウトドア気分を!おしゃれなインテリアやレイアウトを紹介

    2024.10.15

    命を自然界に返す「やさしいノグソのしかた」を教えてください!

    2024.09.26