オランダの国立公園に日本の牡蠣が自生していた!? おいしい恵みをいただく特別な体験 | キノコ・ハンティング 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2023.01.08

    オランダの国立公園に日本の牡蠣が自生していた!? おいしい恵みをいただく特別な体験

    季節のおいしいものを採って食べるって最高に楽しいですよね。芋ほり遠足に始まり、果物狩り、たまご拾いと様々な収穫体験をしてきた私ですが、ここオランダでのおすすめは、なんといっても牡蠣狩り! しかも驚くことに、無料で楽しめる場所があるのです。

    そこはオランダ南西部ゼーランド州の「東スヘルデ国立公園」。アザラシやネズミイルカ、多くの海鳥が生息する自然豊かな地域で、マリンスポーツが楽しめる場所やキャンプ場も多く、オランダだけでなくドイツからも大勢夏の休暇に訪れます。

    下準備は抜かりなく!

    その東スヘルデ国立公園のwebサイトには、海産物の採集に関してこのような記述があります。

    • 採っていいのは牡蠣・ムール貝・ヨーロッパタマキビ(海藻類や甲殻類は採集禁止)
    • 1人一日10kgまで。個人で消費する場合のみ
    • 立入禁止区域や、干潟には入ってはいけない

    ですが、潮干狩り場のように整備された施設や、道具のレンタルがあるわけではありません。全て持参で自己責任。ということで、バケツ、マイナスドライバー、トンカチ、軍手・ゴム手袋、そしてクーラーボックスを車に積みこみ出発です。

    採るぞー!と思うものの……

    着いたのはゼーランドのとある海岸。岩場に無数の白い点々が見えます。まさに、その点々が全て牡蠣なのです。

    岩には何百という牡蠣が付着しています。

    「よーし、採るぞー!」とテンションが上がりますよね。

    でも近づいてみたら、きっと皆さんこう思うはず。

    「……これ、どこから手を付けたらいいんだ?」

    連なり、重なる牡蠣の山。

    なんといくつもの牡蠣が連なって岩に張り付いているのです。牡蠣は卵から孵った幼生時、岩などに付着しそこで一生を過ごしますが、もともとあった牡蠣にも付着して成長。それが繰り返されて「牡蠣の塊」状態になるのです。さすが、養殖ものとはわけが違う。

    でもご安心を。じっくり観察すると、「あ、ここは剥がせやすそうだな」とか、「この山は分解できるな」というのが、次第に見えてきます。マイナスドライバーを貝殻と岩の隙間に差し込み、カンカンとトンカチで叩いていきましょう。そうすると、ごろっと立派な牡蠣が採れます。

    とはいえ、自然の中で食べ物を採集するというのはやはり大変な作業。牡蠣殻はゴツゴツで痛いし、売り物と違っていびつな形の物ばかり。でも、「こんなにたくさんの牡蠣を好きなように採集できる」という、非日常な体験に、時間を忘れるほど夢中になりますよ。

    いざ、実食!!

    せっかくなので、採りたてを生でいただいてみましょう(もちろんこれも自己責任で。心配な場合は小型のバーベキューコンロを持参して、その場で焼き牡蠣というのもアリです)。 

    ナイフで殻をこじあけ貝柱を切り離し、つるりと口に入れると、濃厚なうまみと潮の香が口いっぱいに広がります。そのままでも自然の塩味が楽しめますが、調味料を何か一つ持っていくなら、おすすめは断然タバスコ! 酸味と辛さが磯臭さを消して、うまみがくっきりと際立ちます。

    ちなみに採集量110kgというのは目安で、量って申告する必要はありません。ただしwebサイトにも「食べられる量を」とあります。なので美味しく食べられるだけの量をありがたく持ち帰ります。

    我が家では蒸し牡蠣やカキフライにしましたが、オランダではチーズソースをかけて焼くグラタン風も人気。小さめ牡蠣はまとめてオリーブオイル漬けを作っておくと保存もきき、パスタやおつまみに使えて便利です。

    採れたての生牡蠣。殻を開けやすそうな形を選ぶのも大事。

    なぜ無料で採集してよいのか?

    しかし国立公園の中なのに、なぜこのような体験が許可されているのでしょうか。そこには意外な事実がありました。実はこれらの牡蠣は外来種、しかも日本からやってきたものだったのです。

    ゼーランドではかつてヨーロッパヒラガキの養殖が行われていましたが、1962年に発生した大寒波で約80%が死滅。そこで養殖が盛んなフランスから新たに持ち込んだところ、ついていた寄生虫による病気が大流行。いよいよ養殖業壊滅かという窮地に導入されたのが日本のマガキでした。

    当初は北海の冷たい水に長く耐えられないだろうと考えられていたのが、予想に反して環境に順応。ぐんぐん成長し、牡蠣養殖の主役となったのです。最新データである2020年のオランダ牡蠣養殖量は2400万個、そのうちヨーロッパヒラガキはたった8%だけ、残りは全てマガキです。(ワーヘニンゲン大学の報告より。)

    養殖場所の海から水揚げした牡蠣は、浄化のため一定期間陸上施設のプールに入れられます。ここは一般の見学も可能な施設。併設のレストランでも牡蠣を味わえます。

    ですが、強いマガキたちは養殖場外にも根付いていき、今では遠く離れたオランダ北部にも生息するようになりました。つまり牡蠣養殖の救世主である一方、増えすぎた外来種でもあったのです。

    牡蠣はムール貝より殻が堅くて鳥も食べないから、駆除した方が良いという意見もあります。ですが面白いことに最近の研究では、鳥も牡蠣の食べ方を学習していることがわかりました。例えばミヤコドリは、少し殻が開いている牡蠣を見つけ出し、くちばしをねじ込んで殻を開けます。カモメは、牡蠣を空中から地面に落として殻を割って食べる方法を学んでいました(ecomare =テッセル島自然博物館の報告による)。そのためマガキを駆除するかどうかは、今もまだ検討段階にあります。

    オランダの天気は変わりやすいです。最初はどんより曇っていましたが、最後はきれいな青空も見えました。

    東スヘルデ国立公園では、立ち入り禁止区域を設定することで他の生物を保護し、他では自由に牡蠣狩りをしてもいいという独自のルールを定めました。ちなみにオランダでは、自然の動植物を採って食べることは基本的には違法。なのでこの牡蠣狩りは、ここでだけ楽しめる特別な体験なのです。

     日本とオランダの意外な海のつながりにも思いを馳せながら、おいしい恵みをいただくゼーランドの牡蠣狩り。海好き・牡蠣好きの方にぜひおススメしたいアクティビティです。

     

     

    私が書きました!

    オランダ在住ライター 福成海央

    ライター&科学コミュニケーター。福井県立大学海洋生物資源学研究科修了。スノーケリング教室のインストラクターバイトをきっかけに環境教育の道へ。その後「自然環境を伝えるのには科学が重要!」と気づき、科学コミュニケーターとして科学館に勤務。現在はオランダの教育、自然、ミュージアム関連の執筆を行うほか、現地にて日本語で学べるサイエンスワークショップ・プログラミング教室を開催しています。毎日おいしいチーズが食べられて幸せ。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員

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