アメリカザリガニとアカミミガメの規制から考える 「身近な外来種」との付き合い方
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  • 自然観察・昆虫

    2022.09.09

    アメリカザリガニとアカミミガメの規制から考える 「身近な外来種」との付き合い方

    アメリカザリガニ

    アカミミガメ

    2022年3月1日の閣議で、政府は外来生物法改正案を決定。アメリカザリガニとアカミミガメの販売や放流、不特定多数へ分ける行為が近く禁止される見通しだ。長く子供たちの遊び相手だった2種への規制から、今後の外来種の扱いを考える。

    福岡県保健環境研究所
    中島 淳さん

    湿地を 大切にね!

    専門研究員。博士(農学)。生物の保全・研究業務の傍らブログやSNSで水辺と生物に関する情報を発信・解説。著書に『にほんの水生昆虫』(共著)、『日本のドジョウ』ほか。

    侵略的外来種とは

    今や日本の里川でもっともポピュラーな生き物となったアメリカザリガニとアカミミガメ。3月1日の閣議では両種を特定外来生物へ指定する外来生物法改正案が決定。来夏の施行を目指して整備が進められる。

    改正案では、両種を捕獲しての飼育を認める一方、販売と販売目的の飼育、輸入や野外へ放つことなどを禁止。ザリガニ釣りのようなその場で釣って逃す行為は許される。

    アメリカザリガニやアカミミガメが外国産なのは理解できるが「外来種」や「特定外来生物」とはなんだろう。そもそも外来種はみな悪なのだろうか?

    「時代と地域を問わず、本来の生息地から人が移入したものは外来種(外来生物)です」

    解説してくれたのは、水棲生物の専門家として水辺環境の保全に取り組む中島淳さん。

    「一部で『明治以降に人が移入した国外由来の生物を外来種とする』という意見を見ますが、これは間違い。『特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(外来生物法)』の規制対象が『概ね明治元年以降に導入された』国外から来た種であることから誤解されたようですが、どの時代に移入されても外来種は外来種。イネやノネコ、モウソウチクなどは明治以前に日本に持ち込まれましたが、これらも外来種なのです」

    外来種を考える上で重要な視点が「侵略性」だと中島さん。

    「外来種といってもその影響の度合いはさまざま。外来種のなかで『地域の自然環境に大きな影響を与え、生物多様性を脅かすおそれのあるもの』を侵略的外来種と呼び、蔓延の防止や防除の対策がとられています」

    アメリカザリガニとアカミミガメは以前から国の侵略的外来種のリストに数えられていたが、外来生物法の定める「特定外来生物」には指定されてこなかった。それは両種の影響の大きさに配慮したことによる。

    環境省はアメリカザリガニが全国で約540万匹、アカミミガメは約160万匹が家庭で飼養されていると推定。特定外来生物に指定されると輸入、飼養、運搬、野外に放つことが原則として禁止されるが、両種を指定すると飼育中の個体が遺棄される可能性がある。そのため、特定外来生物への指定は見送られてきた。

    「その点で、特定外来生物に指定はしつつ個人での飼育を認め、販売や不特定多数への譲渡は禁止、という改正案はバランスがとれていると思います。遺棄を防ぎ、これ以上の蔓延にブレーキをかけていますから」

    しかし、蔓延の防止といってもアメリカザリガニとアカミミガメはすっかり日本に定着しているのではないだろうか?

    「そんなことはありません。まだ両種が侵入していないエリアはあります。また、近年アメリカザリガニは自分が住みやすくなるように環境を改変することがわかってきました。在来生物を捕食するだけでなく、在来生物が暮らしやすい環境を壊す点でもアメリカザリガニの影響は大きい。今からでも蔓延防止と数を減らすことが重要です」

    アメリカザリガニは乾燥に強く、陸上を歩いて移動することもできる。一度侵入すると根絶は難しいが、捕獲を続けて減らすだけでも在来生物に良い効果を生める、と中島さんはいう。

    外来種の影響は直接的な食害にとどまらない。アカミミガメは農産物への食害も報告されているが、在来のカメ類の生息環境を奪う点でも注意が必要だ。

    「在来種を食べる、在来種と交雑する、病気を媒介する……外来種の及ぼす影響は多様です。一般の飼育者として守るべき原則は、とにかく野外へ逸出させないこと。購入・採集した生物は自宅内で終生飼育することが絶対に守るべきマナーです」

    一般の飼育者の態度によっては、今後ほかの外来種も取り扱いのルールが変わる可能性がある、と中島さんは指摘する。

    「トウキョウサンショウウオやタガメなどの希少種は、愛好家の売買が問題になり販売・頒布に係る捕獲や譲渡が禁止されました。外来種の飼育においても、個人の行為から全体の規制につながることがありえます」

    外来種本体とともに、飼育に使う水草や付着する微生物にも注意が必要だという。

    「個体の逸出を防ぐのはもちろん、飼育に使った水草や水の行き先にも留意したい。外来水草や輸入ペットに付着する寄生虫や微生物、病原菌を広めないためにも、飼育水は自然河川ではなく、処理場を通るルートへ流すのが望ましいですね」

    水と愛好家を介して外来種が広まった例に中島さんは、ミズワタクチビルケイソウを挙げる。

    「北米原産の藻類ミズワタクチビルケイソウは川底をマット状に覆って川の生産力を低下させます。この藻類は水産用放流や釣り人の防水ウェア等を介して、異なる水系へ運ばれると考えられています」

    このような事例から、現在は違う川に移動する前には、道具類を逆性石鹸や塩水等で消毒することが勧められている。

    「外来種をめぐる法律やマナーは日々変わっています。場合によっては知らずに法を破ったり、個人の行為が環境を破壊することもある。一般の愛好家も情報を更新することが大切ですね」

    外来種の何が問題?

    在来種への食害

    在来種を餌資源として直接的に食害。在来種の数を減らしてしまう。

    農林水産物への食害

    農作物や漁業資源を食害。それによって産業に悪影響を与える。

    近縁の在来種と交雑して雑種をつくる

    元々いた近縁種と交雑して、地域で培われてきた遺伝子を攪乱。多様性を損なう。

    在来種の生息・生育環境を奪ってしまったり、餌の奪い合いをする

     

     

    あとから来た外来種が、その場を利用していた在来種の生息場所・生育場所を奪う。

    毒があり危険

     

    ヒアリやセアカゴケグモのように毒を持つ場合、直接的に人畜や在来種を加害する。

    ※イラスト出典:「外来種はどんな影響をあたえるの?」(環境省)
    http://www.env.go.jp/nature/intro/4document/files/panel_2.pdfを加工して作成

    殖えるだけじゃない!

    環境そのものを変えてしまう
    アメリカザリガニ

    アメリカ南東部原産。水草、魚類、昆虫類など、なんでも食物にできる。1回の産卵で200〜1000個の卵を孵し、泥に穴を掘って乾燥を避けるなど、環境の変化にも強い。

    侵入前

    アメリカザリガニの侵入前。全体にさまざまな水草が茂り、水質も良好に保たれている。水生昆虫をはじめ池を利用する生物も多い。

    侵入後

    池の生態系が貧弱に!

    侵入後。ザリガニは食べるためだけでなく、水草を刈り取る習性がある。隠れ家がなくなったことでほかの生物が激減し、水も濁った。

    全部外来のカメ!

    在来種のすみかを奪う外来種

    在来生種の居場所がなくなる。

    水から頭を出した護岸でたくさんのカメが日光浴。一見のどかな光景だが、本来ここに乗っているはずの在来のカメは1匹もおらず、写っているのはすべてアカミミガメ!

    今後飼育者が注意すべき種

    ニシキゴイ

    コイは国際自然保護連合の選ぶ「世界の侵略的外来種ワースト100」のひとつ。小動物を捕食し水底の泥を巻き上げて水を濁らせる。

    ヒメダカ

    ペットとして人気の高いヒメダカを含む改良メダカ。野外へ逸出すると、在来のメダカと交雑して遺伝子の多様性が損なわれる。

    園芸スイレン

    ASCII

    ヨーロッパスイレンの園芸種。逸出すると池の水面を覆い、在来の水草の生育を阻害。水が貧酸素となり生物が暮らしにくくなる。

    ※構成/藤原祥弘 写真提供/中島 淳、柴田佳秀(アカミミガメ日光浴)

    (BE-PAL 2022年6月号より)

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