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これぞ地ビール! 農地を守る六条大麦でビールを醸造「金沢百万石ビール」

2022.03.09

地域に根づいたクラフトビールブルワリーを紹介するシリーズ。第27回は、石川県能美郡の農業法人わくわく手づくりファーム川北を紹介する。本業は農業という代表の入口博志(いりぐち ひろし)さんにインタビューした。

石川県産の六条大麦や米を使い、白山の伏流水で仕込む「金沢百万石ビール」。左から「グランアグリ 小麦のビール」(ヴァイツェン/駅ナカ限定)、「コシヒカリエール」「IPA」「ペールエール」「ダークエール」。

米から転作、六条大麦でビールをつくる

今回は、当シリーズでは初めて農家が始めたブルワリーを紹介する。わくわく手づくりファーム川北という社名が物語るように、会社の本業はファームであってブルワリーではない。

石川県能美郡。金沢の市街地から車で1時間かからない川北町に田畑が広がる。入口博志さんの家業は農業。入口さん自身もずっと農業に携わってきた。

日本の米の生産調整は1969年(昭和44年)に始まる。川北町では米から麦や大豆などへの転作を進めた。農業人口の減少、高齢化、休耕地の増大など、全国で起きている問題は当然、川北でも同様にあった。農地を守るために何か新しいコトを始めなくては。新しい地場産業を興すべく、入口さんは農業法人を立ち上げた。「自分の代で先祖代々の農地を手放すわけにはいかないというプレッシャー」もあると話す。

 1990年代後半は地ビールブームの最中だった。地元に麦があるのだから、これでビールをつくれば川北の農産物をアピールできるのではないか。入口さんはビール醸造の勉強を始めた。

わくわく手づくりファーム川北の代表、入口博志さん。

しかし、川北町で作付けしていた麦は「六条大麦」で、主に麦茶の原料になる。ビールの原料になるのは「二条大麦」。麦は麦でも種類が違う。

北陸の地は二条大麦に適さないという。冬は雪深く、湿度が高い土地は合わないそうだ。だから六条大麦を作っているのだ。しかし入口さんは試しに、自分の畑に二条大麦を作付けしてみた。すると、「たまたまです、その年は気候条件がよかったようで」(入口さん)、収穫できた。地ビールで六次産業だ! と意気込んだ。

日本では大手はもちろん、ほとんどのクラフトビールブルワリーは輸入したモルト(麦芽)を使う。麦芽はトン単位で必要だし、種類も複数必要だ。それに、たとえ麦が収穫できたところで、麦芽にする機械がない。「当時、麦芽の製造設備は1億円かかると言われました」。

だから入口さんは、収穫できた二条大麦を栃木県にあるサントリーの工場に頼んで麦芽にしてもらった。しかし数年後、それも断られてしまった。

会社に醸造設備はある。実家の田畑を担保に入れ、億単位の融資を受けてつくった醸造所だ。ふつうにモルトを輸入すればビールはできるわけだが、わくわく手づくりファーム川北はビールをつくるために作った会社ではない。そこで入口さんは発想を変えた。「六条大麦でビールをつくろう」。そして、もっともネックになる麦芽製造機を自作したのだ。

近所の農家から“壊れたシイタケ乾燥機”を譲り受けた。石川県の農業試験場や工業試験場から麦芽や機械のデータを取り寄せ、乾燥機の修理、改造を繰り返した。部品や道具はホームセンターで調達。「大学は工学系だった」という腕を振るった。3年後、ようやく「麦芽製造機」になったそれを図面にして、山口県の工場で製造を依頼し、ついに六条大麦用の精麦機が完成した。

地域の農産品を原料に取り入れるのはクラフトビールの得意芸であるが、主原料の麦芽が自前というブルワリーは少ない。さらに自前の精麦機を持っているブルワリーは極めて少ないのではないか。

「うちは農家ですから。やはり原料に力が入ります」と入口さん。やはりブルワリーではない。ビールに対するアプローチが違う。

六条大麦は入口さんの畑でつくられているが、ビールをつくるには、それだけではとても足りないので県内の他の農家からも仕入れている。ふつうなら麦茶になる六条大麦は、ここではビールになる。

醸造スタッフの大久保一樹さんは、「うちはこれだけ原料に特徴があるので、これを醸造するだけで十分、個性が出ます」と話す。

筆者も飲んでみた。六条大麦が原料の「金沢百万石ビール」は一口目、「ラガー?」と思わせるおだやかな味がする。とんがったところがない。クセもない。食事といっしょに楽しむビールだ。

醸造家の大久保一樹さん。前職はアウトドア用品メーカーという大の山好き。山小屋滞在中に入口さんにスカウトされて、わくわく手づくりファーム川北へ。

北陸新幹線の開業に間に合った !

わくわく手づくりファーム川北のビール製造量は、当初、年間15キロリットルぐらいだったという。瓶にして年間約5万本に満たない。いつまで会社がもつかと心配された極小ビールに、2015年、金沢まで延伸した北陸新幹線が大きな転機になった。

入口さんは北陸新幹線をきっかけに、それまで瓶ビールだけだったのを缶ビールの生産に乗り出した。ここでも入口さんは、知り合いから古い缶ビール充填機を譲り受け、またまた自分で修理。その缶ビール充填機は現在も使われている。

わくわく手づくりファーム川北は原料だけでなく、設備も手づくりの工夫にあふれる。

JR金沢駅、富山駅など、北陸新幹線沿線の駅ナカに、石川県の「金沢百万石ビール」が置かれるようになり、わくわく手づくりファーム川北の売り上げは一気に跳ね上がった。当時、コロナ禍前の金沢で観光需要は順調に伸びていった。

これからは地元で飲んでもらえるビールに

わくわく手づくりファーム川北のビールは、金沢だけでなく、東京駅の駅弁屋にも、大阪や京都の駅ホームなどでも見られる。実は、他社へ積極的にビール企画をもっていく提案型ブルワリーなのだ。たとえば、西日本の酒米どころに行って「(コロナ禍で)余っている酒米を使って、うちで限定品のビールを造りませんか?」と提案する。だから、兵庫や岡山の駅ナカにも、わくわく手づくりファーム川北のビールが置いてあったりする。

一方、地元に目を移すと、川北の町に直営店やタップルームがあるわけではない(以前は産直物産館に醸造所があり、そこでできたてのビールが飲めたのだが、現在は醸造所拡大のため移転)。どちらかといえば、販売網は地元というよりJR沿線である。しかしそれもコロナ禍をきっかけに変わりつつある。「これからはもっと地元で楽しんでもらう必要があると思います」と入口さんは話す。「今、うちのスタッフが地元のコンビニさんに置いてもらえるようがんばっていますよ」。

農地を守ること。それがわくわく手づくりファーム川北のいちばんのミッションだ。そのために良い六条大麦を作り、その有効な使い途としてビールがある。そしてビールの販路を開拓する。

入口さんは今も「地ビール」と呼ぶ。今人気のクラフトビールとは成り立ちが異なることへの意識と自負を感じる。地産の作物でできるビールを造る。それも副原料ではなく主原料で。必然、それはその土地ならではのビールになる。もともとお酒とはそういうものだなと気づかされる。

一方で、入口さんはホップ栽培も試し始めている。ホップの栽培地は北海道や東北、山梨、長野などが知られるが、北陸ではとんと聞かない。ホップは冷涼な地を好む。川北町は夏も暑かったり、湿気が高かったりとホップ栽培の適地とは言えないようだ。それでも、ここ何年か、土地に合う品種を探して試作中だという。そして、醸造所は食品安全管理の規格「JFS-B規格認証」を取得。すでに輸出も視野に入れている。

自家製ホップでつくった限定「毬花のビール」。

ビールは麦とホップと水でできる。この町の農地を守るために、できることは何でも試す。二条大麦でなくてもいいじゃないか。ホップはシトラやギャラクシーでなくてもいいではないか。ここでできる作物を使う。わくわく手づくりファーム川北のビールづくりがとても新鮮で斬新に見えた。

「川北は白山や北アルプス、白馬へもアクセスはいいです。川北の町には300円で入れる温泉があります。近くに来られたときはぜひ」(醸造家の大久保さん)。

 わくわく手づくりファーム川北 石川県能美郡川北町字橘新イ54-1 https://wkwkfarm.com

 

私が書きました!
ライター
佐藤恵菜
ビール好きライター。日本全国ブルワリー巡りをするのが夢。ビーパルネットでは天文記事にも関わる。@ダイムやSuits womanでも仕事中。
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