日本の長距離トレイルの代表格「信越トレイル」とは?(前編) | 山・ハイキング・クライミング 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2020.12.05

    日本の長距離トレイルの代表格「信越トレイル」とは?(前編)

    私が書きました!
    山岳ライター
    吉澤英晃
    群馬県生まれ。登山用品を扱う会社の営業マンを経てフリーランスとして独立。幼少のころ家族で楽しんだキャンプでアウトドアが好きになり、大学で探検サークルに入ってから山に登り始めました。現在は山岳会に所属して、春から秋は沢登りとテンカラ釣り、冬は主にラッセル山行とアイスクライミングを楽しんでいます。

    日本国内にある長距離トレイルを順ぐり紹介する本企画。今回は、全国にある長距離トレイルの生みの親ともいえる「信越トレイル」を、前編・後編の2回に渡ってお伝えします。

    長野県と新潟県の県境に連なる山を線でつないだ「信越トレイル」

    東の起点「天水山」

    「信越トレイルは、地元行政と国を巻き込んで長距離トレイルをつくるという、日本で最初の雛形をつくった偉大な存在です。信越トレイルがなければ、国内にほかの長距離トレイルが誕生することはなかったかもしれません」。こう話すのは、トレイルブレイズ ハイキング研究所の代表理事を務めつつ、登山用品専門店ハイカーズデポのスタッフでもある長谷川晋さん。

    まさに歩くことを楽しむための道を白紙状態から切り開いた信越トレイルとは、一体どんな道なのでしょうか? トレイルを現地で維持管理する「信越トレイルクラブ」の鈴木栄治さんに魅力について話を聞きました。

    信越トレイルについて教えてくれた鈴木さん。米国にある長距離トレイル「アパラチアントレイル」をスルーハイクした経験をもつ生粋のハイカーでもある

    「信越トレイルは、長野県の北部にある飯山市と新潟県上越市、妙高市など9つの市町村に挟まれて弧を描くように南北に連なる関田(せきだ)山脈の稜線に沿ってつくられたトレイルです。全長は、メイントレイルの65kmと、アプローチ区間の15kmを足した80km。2000年から事業に着手し、2008年に現在の全線が開通しました。起点となるのは関田山脈の北東に位置する天水山(あまみずやま:1088m)と、南西にそびえる斑尾山(まだらおやま:1378m)。このふたつのピークを結ぶトレイルが、現在の信越トレイルになります」。

    信越トレイルが“長距離トレイルの代表格”といわれる所以

    トレイル上に設置された道標。細やかな整備がうかがえる

    全国に点在する長距離トレイルに先駆けて完成した信越トレイル。歴史的背景から見ても“長距離トレイルの代表格”と言えるのですが、理由はそれだけではありません。完成から10年以上が過ぎてもなお信越トレイルが存在していることが、実は大きなポイントになります。

    ハイカーのためにつくられた木製の階段。

    「長距離トレイルは、トレイルを愛して誇りに感じてくれる地元地域の協力がなければ存続することができません。道をつくってはい終わり、ではいつかは廃れてしまう存在なのです」と話すのは冒頭に登場した長谷川晋さん。まったくその通りで、まず地元地域の協力がなければ信越トレイルの全線開通が為し得なかったことは言わずもがな。さらに、道づくりから携わりいまはハイカーをガイドする立場で信越トレイルと関わっている人がいたり、ハイカーのために送迎サービスを行なってくれる宿泊施設が周辺地域に多数あったり、多くの支えによって信越トレイルは成り立っています。

    そして、出来上がったトレイルを維持整備する作業も欠かせません。

    ボランティアの手も借りてトレイルを整備する。

    「毎年5月中旬から6月下旬にかけて集中整備を行ないます。まずルート点検から始まり、道が崩れていたり、木が道を塞いでいたり、橋が流されていたり、整備が必要な箇所をチェックするんです。その後、セクションと呼んでいる区間ごとに人手を集めて、倒木を除去したり、道標を修理したり、トレイルを整備していきます。80kmという長い距離を信越トレイルクラブだけで整備することはできません。そのため周辺の自治体や関連団体もトレイルの整備活動を行なっています。

    しかしこれで終わりではなく、集中整備のあとは安全に歩けるようになった道を維持するために、定期的にトレイルを歩いて除草作業を行ないます。信越トレイルがある関田山脈は標高が高くない山脈なので、たとえば2か月も放置すると草が成長してトレイルを覆ってしまうんです」。

    除草作業も多くの人手が必要。

    長距離トレイルを維持することは簡単ではありません。それでも地域や大勢の人々のサポートを受けながら、毎年ハイカーに歩く旅の楽しさを教えてくれる信越トレイルは、他の長距離トレイルが見習うべき姿であり、だからこそ長距離トレイルの代表格といえるのです。

    豊かな自然が残るブナ森を歩き、歴史ある峠を越える

    そんな信越トレイルを歩けることに感謝しつつ、では実際にトレイル上ではどのような景観に出会えるのでしょうか。

    前述のとおり信越トレイルがある関田山脈を形成するのは、それほど標高が高くない1000m級の山々。しかしこの山域は長野県の最北にあって、冬になると日本海の水分を含んだ冷たい北風が真っ先にぶつかるため、積雪が8m以上にもなる世界でも有数の豪雪地帯として知られています。この厳しい自然環境によって信越トレイルの個性的な魅力は育まれました。

    「信越トレイルには、ほかの植物が生育できないほど過酷な環境を耐え抜き、たくましく育つブナの森が広がっています。これこそ信越トレイルならではの景観と言えるでしょう。特にトレイルの東に位置する天水山から関田峠の区間では、長い年月をかけて育まれたブナ森の中を歩くことができます。また、この豊かな自然は、関田山脈の麓に暮らす人々の生活と深く関わってきました。この山域には所々に炭焼きの跡が残っていて、炭の材料や薪などにするために何度も木を切ることで生まれる“ブナのアガリコ”も確認できます。いずれも、かつて人々がこの土地を利用していたことを静かに物語る痕跡です」。

    これがブナのアガリコ。何度も木を切った結果、ひとつの株からいくつも幹が生えている

    さらに、関田山脈には信州(長野県)と越後(新潟県)の生活と文化を結ぶ交通の要所として利用されていた歴史があり、トレイルを歩くと13個もの峠を越えるのだとか。

    昔の石垣が残る「富倉峠」。

    「車が通れるように整備されて現代でも利用されている峠がある中で、もちろん時代と共に廃れてしまった峠もあります。トレイルの中心から西に向かって歩くと現れる富倉峠には、いまでも当時の石積みが残されていて、近くには戦国を代表する武将のひとり、上杉謙信が川中島の合戦に出向く際に陣を張ったと伝わる大将陣跡も確認できます」。

    歴史を伝える「大将陣跡」

    過去には親鸞聖人も通ったと伝わる、いにしえの峠を巡るロマンがあるのも信越トレイルの魅力です。

    後編では、実際に信越トレイルを歩くプランと、適したギアを紹介します!後編はこちら

    信越トレイルのさらに詳しい情報はこちら
    https://www.s-trail.net/

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