野草愛好家と製麺マニアの
摘み草スイーツ&野食ラーメン作り
身近なエリアでどれだけ自然を楽しめるか、それが今こそ求められる能力だ。そこで多摩川を中心に野草生活をエンジョイするのんさんを招き、私の趣味である製麺とのコラボで「摘み草スイーツ&野食ラーメン」のランチを楽しむのだ。
舞台は住宅街の河川敷。まずはラーメンの味付けのキモとなるテナガエビ釣りからスタート。近所の川の護岸から糸を垂らすと、くいくいっと浮きが引き込まれる。魚とはまた違う釣趣がある夏の風物詩的遊びである。
エビがある程度釣れたら、次は野草探し。といってもエビ釣り場のすぐ側の河川敷だ。旬を迎えて真っ黒に完熟したクワの実。雑草っぽすぎる見た目のクコとイノコヅチの葉、マスタードシードとして使えるカラシナの種など、次々と食べられる野草や果実をハントしていくのんさん。おかげで野趣溢れるラーメンができそうだ。
友人宅へと移動したら料理スタート。野草愛好家が作るスイーツはひと味違う。カラシナの種をたっぷりまぶしたクッキーは、甘い生地に苦みと香ばしさが加わる。エスプレッソをドクダミ酒に、ココアパウダーをドクダミ粉末に置き換えたティラミスは、軽い口当たりで、中に仕込まれたクワの実の爽やかさも見事。のんさんはドクダミをスイーツやお茶以外にも、エキスをアルコール抽出して、入浴剤、化粧水と大量に使うため、たくさん生えていた実家の庭のドクダミを根絶させたとか。
野食ラーメンはカラスムギ粉を練り込んだ自家製麺を使用。メインの具はテナガエビだが、エビを揚げた油こそが隠れた主役。汁麺には浮かせて、まぜそばは和えることで、テナガエビの風味が全体を包み込む。素揚げにしたイノコヅチのパリっとした食感は海苔の如く。エビ油で炒めたクコの風味も加わって、野食メニューらしさ満点。
遠くの山や海まで行かなくても、魅力的な食材はこの世に溢れている。さっと採って、いつもの料理にちょっと加えれば、採取の思い入れもあいまって、素敵な隠し味になるはずだ。
テナガエビ釣り
所要時間 約120分
短いのべ竿と簡単な仕掛けで狙える。エサにはアカムシ(釣具屋で売っている)を使う。護岸から、川の中の障害物の周辺を狙おう。
河川敷で野草探し
所要時間 約40分
自分で採取しないと食べられない旬の野草を楽しもう。食べられる野草は意外と多いが、毒草もあるので要注意。
クワの実
木の場所を覚えれば毎年楽しめる初夏のご馳走。真っ黒に完熟したものが甘い。
カラシナの種
枯れたカラシナの莢から集める種は、スパイスや粒マスタードの材料として活躍。
クコの葉
クコの赤い実が食べられることは有名だが、野草愛好家は若葉の味も楽しむのだ。
イノコヅチ
本州以南に広く生息する多年草。柔らかい葉は食用に、根は漢方薬に利用される。
カラスムギ
オートミールに使われるエンバク(燕麦)の仲間だが、種子から殻をはずすのは超大変。
自家製麺を作ろう
所要時間 約40分
カラスムギ入り自家製麺
材料
強力粉・・・495g
カラスムギ粉・・・5g
水・・・190cc
粉末かんすい・・・5g
塩・・・5g
作り方
(1)水に粉末かんすいと塩を溶かす。
(2)強力粉にカラスムギ粉を加え、(1)とよく混ぜ合わせオカラ状にする。
(3)厚手のビニール袋に入れて押し固める。
(4)製麺機やパスタマシンで麺にする。
製麺機があれば中華麺も簡単に作れる。カラスムギは殻を取り、ミルサーで粉にするのだが、これがもう大変。やらなくてもよかった。
野食ラーメンを作ろう
所要時間 約90分
テナガエビの汁麺とまぜそば
材料
水・・・2L
テナガエビ・・・20~30尾
猪肉(豚肉でよい)・・・ひとかたまり
鶏ガラ・・・適量
昆布・・・適量
香味野菜(今回はノビル)・・・適量
イノコヅチ・・・適量
サラダ油・・・200mL
カラシナの種・・・大さじ2
クコの葉・・・ひとつかみ
塩・・・適量
醤油・・・適量
作り方
テナガエビの汁麺
(1)鍋に水を入れ、出汁となる食材を加えて、アクを取りながら煮込む。今回はたまたま冷蔵庫にあった猪肉、鶏ガラ、昆布を使用。
(2)アクが出なくなったら、香味野菜を追加。今回は香味野菜として野草のノビルを追加。
(3)1時間煮込んだらスープの完成。
(4)テナガエビをよく洗い、水分を拭き取って、サラダ油で素揚げする。揚げたあとの油がテナガエビオイルとなるのでとっておく。
(5)イノコヅチも素揚げし、自作メンマなどのトッピングを用意する。
(6)丼にスープを注ぎ、塩、醤油で味をつけて、④のテナガエビオイルを大さじ3杯浮かべる。
(7)茹でた麺を入れ、お好みの具をのせたら汁麺の完成。
テナガエビのまぜそば
(8)(4)のテナガエビオイル大さじ5杯をフライパンに入れ、カラシナの種を加えて加熱。
(9)種がパチパチしてきたらクコの葉を入れて、ひと混ぜして火を止める。
茹でた麺と(9)を和えて、塩、醤油で味付けする。
皿に盛って(4)のエビをのせ、まぜそばの完成。取材ではカラシナ製粒マスタードを皿に添えた。
味の決め手はテナガエビを揚げた油。少なめの油でたくさん揚げれば、しっかりとエビを感じさせるオイルとなる。
摘み草スイーツを作ろう
所要時間約90分
ほろにがマスタードクッキー
材料
発酵バター・・・200g
グラニュー糖・・・200g
玉子・・・1個
バニラビーンズ・・・少々
薄力粉・・・360g
アーモンドプードル・・・80g
ベーキングパウダー
・・・ひとつまみ
カラシナの種・・・適量
作り方
(1)発酵バターは常温で溶かし、グラニュー糖、玉子、バニラビーンズ、薄力粉(粉ふるいにかける)、アーモンドプードル、ベーキングパウダーをヘラで混ぜながら順番に入れていき、さらに混ぜてなめらかにする。
(2)(1)を棒状にして、カラシナの種を入れたバットの上でゴロゴロさせてから冷凍庫に入れる。
(3)冷えて固まったら、厚さ1cmくらいの輪切りにして、予熱をした180度Cのオーブンで12分焼けば完成。
ドクダミとクワの実のティラミス風
材料
ドクダミ酒
(ホワイトリカーに
ドクダミの葉を入れて
寝かせたもの)・・・適量
乾燥ドクダミ・・・適量
クワの実・・・10個
市販のカステラ・・・3切れ
マスカルポーネチーズ
・・・100g
生クリーム・・・200mL
砂糖・・・30g
作り方
(1)カステラをバットに置き、ドクダミ酒を振りかけて染み込ませる。乾燥ドクダミはあらかじめ炒ってからミキサーで粉砕して粉にしておく。
(2)(1)のカステラをちぎってつぶしながら容器の底に敷き詰め、上にクワの実をのせる。
(3)マスカルポーネチーズをボウルに移し、ゴムベラでよく混ぜる。別のボウルで、砂糖を加えた生クリームを泡立て器で角が立つまで泡立てて、マスカルポーネチーズのボウルに入れて、よく混ぜ合わせクリーム状にする。
(4)(2)の上に、(3)のクリームをのせて、ヘラで整え、冷蔵庫で冷やす。よく冷えたら、小分けに切り出し、器に盛り、上から茶こしで乾燥ドクダミの粉をふるいかけ、飾りにドクダミの花を添える。
野草×製麺、異なる分野の愛好家がコラボで作るデザート付きラーメン定食。
のんさん(左)
『365日野草生活』を掲げて、多摩川の河川敷などで自ら摘んだ野草を毎日実食する野草愛好家。野草観察会の講師としても活躍中。
ライター 玉置標本(右)
身近なフィールドでの食材採取が趣味のライター。古い家庭用製麺機の収集家でもあり、粉からこだわる手作りラーメンが得意。
※構成/玉置標本 撮影/宮沢 豪
(BE-PAL 2020年8月号より)