スイスに数多くあるスキーリゾートの一つですが、店がまばらにあるだけの、日本ではまだなじみの薄い小さな村です。かくいう私も十数年前に旅の帰路に少し立ち寄ったきり。
そのため今回は、気になるアーデルボーデンのスポットをギュッとまとめ、1日で大自然を満喫すべく欲張りな弾丸旅をスタートさせたのでした。
- Text
有名観光地とは一線を画す素朴な山村
夏の繁忙期が去り、静けさを取り戻した村を歩いていると、通りの可愛らしい家々と、その向こうに広がる雄大な山々のコントラストが印象的で、思わず足を止めて見入ってしまいます。
特に村のどこからも見えるローナ―山(der Lohner)は、山々が重なり合って塊状になっている山塊で、一番高い山頂のフォアデレローナ―(Vordere Lohner)は3048mの標高があるそう。
そして1日目の締めくくりは、山を真っ赤に染めるアーベントロート。幸先良さそうなスタートに、翌日への期待が高まります。

15分で迫力のエングストリーゲン滝へ!
翌朝ホテルで朝食を済ませた後、いざ1つ目の目的地へ。
まず向かったのはウンター・デム・ビルク(Unter dem Birg)。ここからロープウェイで標高1964mのエングストリーゲンアルプ(Engstligenalp)まで行くことができます。
本音を言えば、ロープウェイで一気に山頂を目指したいところ。しかし今日は1日3カ所を巡る急ぎ足のスケジュール。

そんなわけで今回は、ロープウェイ乗り場から15分ほど歩いた先にあるエングストリーゲン滝(Engstligenfälle)だけ見に行くことにしました。なんでもスイスで有数の高さを誇る滝の一つなのだとか。

さっそく道幅が広い散策ルートを足取り軽く歩いていきます。

小川にかかる橋を渡り、うっそうとした森の中の曲がりくねった小道を進んでいくと、突然パッと視界が開け、目の前に勢いよく流れ落ちる滝が飛び込んできました。想像していたよりも立派な滝で、なかなか見ごたえがあります。
頂上駅エングストリーゲンアルプ付近から、水が大きく2段にわたって流れ落ちていました。標高差だけ見ると、自分たちのいる辺りまで500mほどの総落差があることに。

足元の岩場をよじ登ってさらに滝へと近づいたその時、ふと横の岩壁に目をやるとクレッターシュタイク(ヴィア・フェラータ)を登っていく人の姿が。黄色いリュックを背負い、トレッキングポールで軽快に山頂の方へ向かっています。
あの黄色いリュック、見覚えがありました。滝まで続く道を歩いている時、軽やかなテンポで背後から私たちを追い越していった男性です。その横顔は日焼けした精悍なベテランの風貌。このルートの常連なのかもしれません。

ちなみにこのクレッターシュタイクの公式難易度は、最高K6まであるうちの「K2(初中級)」。しかし道らしき道は見えず、石と砂利が広がる急な崖。これを「初中級」と言い切るスイス基準の恐ろしさよ…。
「これぞスイス」と感心しつつ、次の目的地へ。そこで足がすくむ体験をするとも知らずに——。
タダで恐怖が味わえる?スリル満点の渓谷
再びアーデルボーデン村へ戻り、そこから今度は滝とは反対の方角へ。この周辺にはいくつものハイキングコースがあるので、気分や体力に合わせて自在にルートを組み、1時間~1時間半ほどでさくっと巡る人が多いのだそう。
その中で私たちが目指すのは渓谷を挟むコース。車道から横道に入り、そこから歩いていくことにしました。舗装された林道を歩いていくと、誰かが設置したらしい「昆虫ホテル」を発見。「ミツバチハウス(ホテル)」とも呼ばれる、ミツバチやテントウムシなどの益虫向け避難所です。
昆虫の自然生息地がますます減少している現在、種の保全や生物的害虫防除に重要な役割を果たしているのだとか。

ほどなく「コレレン渓谷入り口」の標識が現れました。その先には、沢へと下る細い砂利道が伸びています。スリル満点とウワサに聞く渓谷はもうすぐそこ。一気に胸が高鳴ります。



ジグザグの坂道を下りて行くと、渓谷の入り口が見えてきました。奥の方には岩の間の暗い隙間とその中に吸い込まれていく通路が見えます。
スイスには有料の渓谷遊歩道がいくつか存在しますが、このコレレン渓谷は全長100mほどと小規模ながら、無料でドキドキ体験できる隠れた名所なのです(5月~10月頃まで)。

シンプルな作りの細い歩道を行くと、岩の割れ目近くからひやっとした空気を感じました。さらに奥の方から滝の流れる音も聞こえてきます。
やがて激しい流れの水流、そして滝とご対面。しかしその先は狭い通路と格子状で底が丸見えの螺旋階段…。ここを上っていくのかと思うと、自称高所好きの私も一瞬フリーズ状態に。

ほぼ飾りにしか見えない低い手すりを頼りに上る途中、高所恐怖症の夫がとうとう「もう無理、引き返す!」と音を上げました。どうやら足がすくんで動けなくなった様子。
とはいえこのルート、戻ろうにも一方通行。人とすれ違えないほど狭い階段は、下って戻る方がよっぽど地獄です。

結局私にしがみつく夫と共に下は一切見ず、進行方向の上だけを見て無事なんとか出口まで到着。冷気と恐怖の相乗効果で“涼む”体験をたっぷり満喫できたのでした。
ハイジの巨大ブランコが待つチェンテンアルプへ
渓谷からアーデルボーデンへ戻り、すぐその足で最後の目的地へと向かうロープウェイ乗り場へ急ぎます。目当ては、前日村へ着いた瞬間からずっと視線を奪われていた、赤・青・黄の3色が並んだ「三連」ロープウェイ。
15分間隔でアーデルボーデンと山頂のチェンテンアルプ(Tschentenalp、標高1940m)を結んでいます。そこで黄色のゴンドラに乗り込み、山頂へ。わずか7分ほどの空中散歩であっという間に到着しました。

すでにランチタイムには遅い時間でしたが、頂上駅のレストランにあるテラス席は、昼下がりのワインやビールを楽しむ人々で大賑わい。そんな賑わいを横目に、図らずも貸し切り状態となった静かな店内で遅い昼食を済ませました。
エネルギー補給したら、すぐさまアルプスの大自然の中へと繰り出します。

どこを見ても美しい山々の大パノラマの中、のんびり歩いているとカウベルの音が優雅に響き渡っています。放牧されているウシの姿はといえば、目を凝らしてようやくゴマ粒ほどに見える距離。カウベルの音響効果、恐るべし。
やがて分岐点へ。なぜか右手には人だかりができています。あ、もしやここに名物のアレが?

はたしてそこには巨大ブランコがあり、20人ほどの少女たちが集まっていました。聞けばイギリスのガールスカウトの一団で、全員が交代でソロ写真を撮影中とのこと。
写真撮影係をしていた引率の男性が「僕たち大人数なので、良かったらお先にどうぞ!」と快く譲ってくれたのですが、多感なティーンたちの大ギャラリーに見守られながらブランコに乗る度胸はさすがになく…(笑)。ここは丁重に遠慮させていただいたのでした。

順番に乗る彼女たちを見ていると、開放感抜群の絶景に加え、目の前が急斜面なせいで「そのまま空へ放り出される」錯覚を覚えるようで、こわごわこいでいるみんなの姿が何とも微笑ましかったです。

こうして1日に3か所も詰め込んだ強行旅。若干の消化不良感は否めませんが、おかげでアーデルボーデンの魅力を一気に知ることができました。
とはいえ、次回再訪する時はもっとじっくりこの地を味わいたいと思います。
Adelboden:
https://www.instagram.com/myadelboden/skyrun-1.jpg




