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Plate3 自然の恵みを実感できる!命をいただくワイルドキャンプ飯
登山家・作家 服部文祥さん
1969年生まれ。1996年にK2に登頂。食料を現地調達しつつ登る「サバイバル登山」を実践するうちに狩猟と農へと傾倒。現在は横浜と古民家を往復しながら自給的な生活を楽しむ。

「家でつくるキャンプごはん? その企画なら、うちほどの適任はないんじゃないかな。何しろ、我が家にはふだんの食事と野外料理の間に垣根がない」
そういって笑ったのは登山家・作家の服部文祥さん。家族と暮らす横浜市の家で郊外型サバイバル生活を実践してきたが、それでは飽き足らず7年前に廃村の古民家に拠点を移した。今は山中で猟と農を組み合わせる生活の研究をしている。
「殖えすぎたチャボを間引かなくてはいけなかったが、どうにも踏ん切りがつかずにいた。ちょうどいい機会だから、ひね鶏と畑の野菜でカレーにしよう」
狩猟で肉を得るのが当たり前の服部さんでも、共に暮らした生き物を絞めるのは抵抗があるんですか? と聞くとしばし考え込んだ。
「この感覚は簡単には表現しにくいな。作業中はあまり考えないようにしている。ただ、手を動かす。はた目にはドライに見えるかもしれないが、今の心情はウェットな思考を重ねた末に至ったものだな……」
自身の存続のために他の生物を殺める。単純な善悪で線引きできない行為への葛藤と、諦め。
「俺の活動を残酷だ、という人もいる。しかし、自分の手を使わない食べ方のほうが、より冷酷なんじゃないか。そう思うこともあるよ」
と、服部さん。
チャボは速やかに解体されていく。絞めて湯につけて羽根をむしり、内臓を抜いて切り分けたら見慣れた肉へと変わった。
「出汁を取っている間に畑に行こう。先日、シカにだいぶ盗られてしまったが一食ぶんの野菜なら収穫できるだろう」
古民家の周囲には小さな畑がいくつも拓かれている。藪に還った畑を柵で囲って獣を遮り、少しずつ開墾して果樹と野菜を植えているという。
「基本は不耕起で植えたあとは雑草を適度に刈るくらい。肥料は周囲の木々が供給する落ち葉と、俺のウンコ。ウンコの力はすごいよ。埋めて少し経つとその周囲の野菜だけ伸びる」
しかしどんな場合も効くわけではない、と服部さん。ウンコの分解と野菜の成長のタイミングが合わないとうまくいかないこともあるそう。
「ハマるとうれしい。ウンコ一発カボチャ2個!」
歌うようにいって服部さんはペシペシとカボチャを叩いた。

服部さんのウンコで育ち、食料となるカボチャ。「野菜と獲物と共に、循環している」

「鶏をカゴに取り込むと様子が変わる。自分に何が起きるかわかるのだろう。最近は名前をつけるのも止めた」と服部さん。
育てた鶏を絞めて下処理をする
「恐怖と痛みはできるだけ短くしたい。複数の鶏をさばくときは、ほかの鶏に見せないように。恐れて震え出すこともある。鶏を抱いたら、それと気づく前に首を素早く強く引いて首の骨をはずし、首を落として血を抜く」。

1 70度Cのお湯に浸けて毛穴を開き、羽根をむしる。

2 総排泄孔の前に包丁を入れて開く。

3 腸を破らないように注意しつつ、腹腔に指を入れる。

4 指先で食道と気管の根元を切り、内臓を引き出す。
鶏をさばいて下茹でする

ざっと洗い肉を切り分ける。「さばいたチャボは産卵数が減った老鶏。ほかのチャボをいじめるヤツを選んだから、群れの雰囲気がまた変わるだろうな」。分割した肉は熱湯にくぐらせ、血を洗う。

老鶏は硬いので圧力鍋で煮る。途中で腿肉だけ引き上げ、残る身はほぐれるまで加熱する。


むしった胸の毛で毛鉤を巻く。「ちょっと毛足が長いが、使えるだろう」と服部さん。
「大学時代のシルクロードをたどる旅で、初めてインドカレーに出会った。その翌年にはデリーからインド南端のコモリン岬まで自転車で走った。これらの旅で、すっかりカレーとチャイが生活の一部になった」
それ以来、体内のスパイスが切れるとカレーの有名店をめぐるカレー行脚を始めたが、そのうちに自作するようになった。今ではスパイスからカレーをつくり、チャパティも焼く。
「現在のレシピは『エリックサウス』の稲田俊輔さんのもの。次男がエリックサウスでバイトしてから服部家はこの味になった。とはいえ、肉も野菜もそのとき手元にあるものが入るから、毎度味は違うのだけれど」
年を追うごとに、カレーに占める食材の自給率が高まっていくのがうれしい、と服部さん。
「この家で食べて泄すうちに、獲物や野菜、腸内細菌を通じて土地とつながる感覚ができた。年々、自身と環境の境が曖昧になっていく。来年には主食の米と麦もできそうだ。俺のカレーは、完成に向かっているよ」
もちろん野菜も自家栽培

「シカに入られる前なら、もっと見栄えがしたのだが……」と悔しがる服部さん。「スパイスも試している。ニンニクとディル、フェンネルは育ったがショウガはダメだった。標高が高すぎるんだ」

林のなかに拓かれた畑でエゴマを収穫。雑草に混じって生える野菜は強健。薬なしでも育つ。
インド放浪時のカレーを超える、掛け値なしに旨い服部流
チキン野菜カレー

焼き上げたチャパティと、チャイと共に食べる。濃厚な老鶏のコクが口の中に広がり、たまらなく旨い。「肉も野菜も調理に使う燃料も、庭先と裏山でとれたもの。チャボはほかの鶏と比べて卵を孵す性質が強く、庭で飼いやすい。ほかの品種は繁殖に人の干渉が必要だがチャボは勝手に殖えていく。そして、このチャボは食べられたが、その子供たちは庭に残って栄えている。これも人と鶏の共生といえるのではないか」
エリックサウス稲田俊輔さんのレシピ本を参考にしてカレーを作る
『「エリックサウス」稲田俊輔のおいしい理由。インドカレーのきほん、完全レシピ』(世界文化社)で紹介されている「王道のチキンカレー」が服部家の基本。

1 スパイスをテンパリングして香りを出す。

2 刻んだタマネギを加え、飴色になったらニンニクとショウガのペーストを追加。

3 残るスパイスと野菜、ほぐした身を追加。

4 鶏のスープを加えて固さを整え、腿肉も合わせて煮込む。残った内臓は炒めて塩で。美味!

クミンパウダー
シナモン
チリパウダー
ガラムマサラ
ターメリック
塩
コリアンダーパウダー
クミン
ローリエ
トウガラシ
スパイス一式。「重要なのが、スパイスの配合比と鮮度。それぞれを適当に混ぜただけでは味が決まらない。これだけは秤できっちり量りたい」

ビーパル付録で肝焼きも!
※構成/藤原祥弘 撮影/矢島慎一
(BE-PAL 2026年10月号より)




