皆さんは冬に会いたい野鳥と言えばどんな鳥をイメージしますか? 大きな種類ではコハクチョウやタンチョウでしょうか。または、朝の雑木林なら忙しなく木から木へ、枝から枝へ飛び回るアカゲラやカラ類の混群とのひとときも楽しいですね。各地の水辺であれば、美しい緑色の頭のヨシガモやオシドリなどの面々が浮かびます。そうそう、冬枯れの葦原を舞うコミミズクやハイイロチュウヒも人気の猛禽類です。
私は本格的に鳥を観たり撮ったりするようになってオオマシコという冬鳥を知りました。オオマシコは体長約17センチ。アジア北部で繁殖し、日本には本州以北の山地、平野などに冬鳥として飛来します。例年11月ごろから翌年の3月ごろまで各地で観ることができます。ちなみに、マシコとは、以前ご紹介したベニマシコと同じ「猿子」と書きます。猿のように赤い顔を意味する言葉です。
初めて野鳥の専門誌で姿を知ったオオマシコは、小雪が舞う景色の中、枯れ草にぶら下がって器用に実を啄んでいました。紅色を纏(まと)った身体は、冬枯れの風景の落ち着いたトーンにとても映えます。オスの首元の白い羽、背中の黒い縦斑など、一幅の日本画から飛び出してきたようなオオマシコに会ってみたいという衝動が湧いてきました。

初めてのオオマシコに感激、でもその場所に漂う違和感
オオマシコに会える場所をインターネットで検索してみると、すぐに見つかりました。
早朝、電車を乗り継いで埼玉県の西部に位置するその場所に向かいました。最寄駅から山道をひたすら1時間ほど登ります。いつのまにか汗びっしょりです。現地に到着すると、すでに同好のカメラマン20人ほどが一箇所に集まっていました。それはライブの開演を待つ観客さながらの光景。すぐに状況を理解しました。カメラマンたちは目の前の「倒木」にやってくる目的の鳥を待っていたのです。
やがて談笑していたカメラマンたちが口を噤(つぐ)むと、いつの間にかその倒木に何羽かの鳥が降りてきていました。オオマシコでした。
会いたかったオオマシコが目の前に!
もちろん、すぐにシャッターを切りました。オオマシコは大勢のギャラリーの前でも平然と採餌していました。そう、餌を食べていたのです。餌というのは本当の「エサ」です。飼い鳥用にペットショップなどで売られている稗(ひえ)や粟(あわ)といった穀物です。「倒木」や地面に撒かれたエサが写り込むのですぐに分かりました。
この状況、餌は論外として、実は特に都市部の公園では野鳥を撮影しているとよくある光景なのです。皆で同じ場所、同じ構図で野鳥を撮影する状況は珍しい風景ではありません。
ただ、雰囲気に違和感がありました。その後、この場所の主のような人物がオオマシコを呼び寄せるエサを撒いていて、場を「仕切って」いることが分かりました。撮影を終えてその人物に御礼の言葉を述べて帰る人もいました。
私はなんとも言えない虚しさを感じつつ、帰路に就きました。下山中、一羽のウソが頭上から慰めてくれたことを覚えています。
(個人的なポリシーにより、そこで撮影した写真は掲載を控えます)
霧氷とのコラボを夢見て長野へ


オオマシコとの出会いを求めて、次に目指したのが長野県の山岳道路でした。事前のリサーチでは、オオマシコが道路沿いに自生するハギ類の実を採餌している場面を確認していました。あとは雪または霧氷の出現が見込める気象条件が揃うかどうか。年末年始の休みを使って、計画を決行しました。
現地は山岳道路といっても鉄道の駅から徒歩で行くことができる場所。駅前のビジネスホテルに投宿し、3日間連続で現地に通いました。大晦日の朝の林道、気温はマイナス10度。残念ながら霧氷はわずかしか現れませんでしたが、ハギの実を啄むオオマシコの群れに遭遇することが叶いました。

群れの中で目立つのは、やはり濃い紅色の羽が美しいオスの成鳥ですが、まだ紅がまばらなオスの幼鳥や控えめな彩りのメスの色合いも雪景色にマッチしてとても美しく、ついシャッターを連写してしまいます。
ここは前述の埼玉のポイントとは違い、オオマシコは「天然」の餌を求めて飛び回っていました。好物のハギのほか、イタドリやカラマツの実にも取り付いて採餌していました。もちろんエサを撒くような人はいないので、群れが1箇所にとどまっているようなこともありません。

路面に落ちた実をついばむオオマシコ

ハギの実はそれほど高い位置にはないので、カメラのレンズの向きはほぼ横方向です。そしてオオマシコが止まるハギの枝はとても細いためスッキリした構図で撮影することができます。その細さゆえアクロバチックな姿勢で採餌する姿もまた印象的な絵柄を創り出すのです。
一方で、オオマシコの群れは路面に落ちた植物の実にも集まります。積もった雪に実が落ちていれば雪の上に舞い降りることもあります。
野鳥を撮影していて気付くのは、草の実はあちこちに落ちているということです。どこに落ちていてもその小さな実をちゃんと見つける鳥たちの視力にも驚きますが、そうやって自身の種子を野鳥によって遠くに運ばせる植物の戦略にも今さらながら感心してしまいます。



冬の山道を賑わす鳥たちとの出会いも
真冬は気温がマイナス10度以下になることもある現地ですが、こんな厳しい環境でも色々な鳥たちに会うことができます。道路沿いの茂みで「チッ、チッ」と小さく囁くミヤマホオジロや、群れで賑やかに鳴きながら松の木の天辺に止まるイスカ、20羽以上の群れでハンノキの実を食べにくるマヒワなど、モノトーンの林道に豊かな彩りを添えてくれます。



いかがでしょうか。オオマシコは毎年当たり前のように会える野鳥ではありませんが、日本に渡ってきてくれたシーズンには必ず観に行きたい赤い鳥です。彼らが選んでくれた越冬地の環境や、何を採餌しているのかということなどを考えながら、冬の間は温かく見守ってあげたいですね。









