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雪上車で向かう静かな朝

CATが進むと、キャタピラが雪を踏みしめる振動が、足元から伝わってきました。車内には軽油の匂いが漂い、いわゆる観光的な雰囲気はありません。ガイドさんの話では、登坂ルートは、私たちが滑る予定の斜面を踏まないよう、慎重に選ばれているそうです。
窓の外は吹雪で、景色はほとんど見えません。それでも不思議と不安はなく、規則正しいエンジン音と揺れが、これから向かう場所の特別さを静かに伝えてくれました。
世界選手権の舞台に立つ

雪上車を降りた場所は、1993年にアルペンスキー世界選手権が行なわれた斜面。猛烈な吹雪で男子競技が中止に追い込まれるなか、強行されたのが女子滑降だったとか。
世界の強豪女子たちが、100km/h超のスピードでエッジを食い込ませ、極限のスピードで駆け抜けた舞台を滑れるのです。ワクワクする一方で独身時代以来、久しぶりのパウダー。大丈夫だろうかとドキドキ…。


晴れていたら岩手山を望む標高1,000m地点。そこには水分を一切含まない、驚くほど軽い雪がありました。歩くたびに雪はキュッキュと鳴り、手で握るとすぐにほどけ、指の間から落ちていきます。板を走らせれば、雪が音もなく舞い上がりました。
日本のパウダースノー(ジャパウ)は海外でも評価が高いですが、ここで感じた雪は、それとは少し違います。水分をほとんど感じない、乾いた粉のような感触。
じつはこれ、地形が生む天然のフィルター効果によるものだそう。日本海側からの湿った空気が奥羽山脈にぶつかって水分を落とし、山を越えて雫石側へ吹き抜けるころには完全に乾いた空気に変わります。この乾いた風が結晶をさらに乾燥させ、極限まで軽い雪が降り積もるとか。現地の人々が敬意を込めて「シズパウ(雫石パウダー)」と呼んでいる理由に、深く納得しました。
気になるCATツアーのお値段は?

今回体験した雪上車による滑走は、1本17,000円(1名)。そのほか1日1組限定で、午前中に特定の非圧雪エリアを貸し切ることもできるとか。その際の料金は1日50万円。最大15名まで参加できるため、人数がそろえば1名あたりの負担はもう少し現実的な数字になります。
正直にいえば、最初に金額を聞いたときは驚きました。ただ、早朝の静かな山に立ち、誰のシュプールも入っていない斜面を前にすると、この体験が「リフト何本分」といった単純な物差しでは測れないものだということも分かってきます。
頻繁に楽しめる遊びではありませんが、条件がそろったときの「選択肢」が用意されていること。雪山との付き合い方を、もっと自由にしてくれるような気がしました。
かくいう私は、久しぶりすぎるパウダーに、ビビりながらのスタート。でも、だんだん水の上を浮いているような感覚に…。独身時代、夏はサーフィン、冬はスノーボード、横乗りスポーツにいそしんでいたころの感覚が、ふっと舞い降りてきて…。と思ったら、調子に乗って新雪に埋まりましたが。ああ、そうそう。もがいても、あがいても、どーにもできない感覚。なつかしい(笑)。大満足の、ファーストトラック体験でした!
手ぶらで滑るという選択

今回は新幹線で現地へ向かい、ギアはレンタルを利用。身長やスタンスを伝えると、その場で調整してもらえます。自分の板ではありませんが、違和感はほとんどありませんでした。ちなみにレンタル料金は、ボードとブーツが6,500円、ヘルメットは2,500円(共に1日料金)でした。


雪と温泉の匂いがつながる
重たい道具を運ばず、滑り終えたらそのまま温泉へ向かえる。この身軽さは最高です。
ところで、温泉に身を沈めた瞬間、朝に乗った雪上車と似た匂いをふわっと感じました。軽油に少し甘さを足したような香りです。聞けば、太古の植物が由来となる「モール泉」という温泉特有の匂いだそう。化石燃料と同じプロセスを経た成分が含まれているため、特有の「アブラ臭(ガソリンのような香り)」がするのだとか。
機械の匂いと、大地の匂い。
本来は別物のはずが、ここでは不思議と一本の線でつながっているように感じられました。そんな発見も、雫石プリンスホテルを拠点にする楽しみのひとつかも。
コンパクトなスキー場の楽しさ

朝一でCATツアーを楽しんで、朝食後はゲレンデへ。ホテルの目の前から出ている、ちょっとレトロなロープウェーで向かいます。昭和55年製だそうで、「同じ昭和生まれだね」と親近感をいだきながら乗り込みました。

手書きで恐縮ですが、地図に記した①~④のおすすめコースを説明します。
- ①E1ダウンヒルコース
1993年の世界選手権で「男子滑降(ダウンヒル)」のために用意された、世界が注目した決戦の舞台。 - ②C1(ジャイアントスラロームコース)~C2(スラロームバーン)
パウダー狙いならこのコースを滑るのがおススメ。 - ③EASY PARK
名前の通り、腰の引けた私でもたっぷり楽しめた、気持ちいいパーク。 - ④B5(クリスタルバイパス)~D3(ジョイフルコース)
風が強めに吹きがちな雫石。そういう場合は風を避けられるこのコースがおすすめ。

すっかりシズパウを堪能しましたが、ウインタースポーツをしないという方でも、雫石は楽しめます。いくつかご紹介します。
ノンスキーヤーも楽しめるアクティビティ
スノーシュー

スノーシューで歩いたゴルフコースは、雪に覆われることでまったく違う表情を見せていました。
風の通り道、吹き溜まり、動物の足跡…。音が吸い込まれるような静けさのなかで、雪がつくる造形をじっくり眺めていると、滑ることだけが雪山の楽しみ方ではないと、あらためて感じます。
スノーシューセットも、すべて最新ギアのレンタルがそろっています。レンタル料金は、スノーシュー&ポールセットで4,000円。
テントサウナ

スノーシューコースの途中にテントサウナがありました。

白銀の世界で体をじんわり温め、外気のひんやりとした心地よさを感じる瞬間。クールな外気と温かなサウナのコントラストを楽しむ、心身をととのえる時間。サウナ好きにはたまらない環境だと思います。
おすすめグルメ

ロープウェー山頂駅を降りたらすぐのレストラン「アリエスカ」。午前中、思い切り滑ったあとの、エネルギーチャージ。スープ付きで1,700円でした。
あねっこ味噌ラーメン

たっぷり入った炒め野菜がしゃきしゃきで、とてもおいしい、あねっこ味噌ラーメン。ウインタースポーツ目的でない人も、わざわざ食べにくるという地元民のソウルフード。ロープウェー山麓駅のなかにあるラーメン屋で食べられます。
「ゲレンデ食だからこの程度」という妥協が一切ないクオリティが楽しめました。
シズパウ、グルメ、温泉と、1か所で3つの魅力がそろう雫石

雫石は、滑る、温まる、休むが、無理なくつながっています。移動に追われないからこそ、自然と向き合う時間が長くなる。雪の質、地形、静けさ…。そのひとつひとつが体に残り、派手さはありませんが、密度を感じました。
3月上旬まで楽しめるCATツアーをはじめ、雫石のポテンシャルはこれからが本番。 便利さや快適さの先にある、自然への没入。もしあなたが、今の自分にぴったりの雪山との距離感を探しているのなら、雫石の静かな斜面は、きっといい答えをくれるはずです。
重いギアは置いて、好奇心だけをパッキング。次の週末、東北新幹線に飛び乗って出かけませんか?







