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創設47年。生物学界の教授を続々輩出! 京大野生生物研究会

(写真左から)
鳥 担当 杵築京子さん
野研入会後、一人で北海道に行ったり熊に遭遇したりと人生が激変。
哺乳類 担当 北尾拓磨さん
園児のころから砂遊びで餌やりの真似をしていたほどの動物好き。
コムシ 担当 横川智之会長
1回生から会長に名乗り出たり毎月遠征調査したりと意欲の機関車。
甲殻類 担当 谷口真一副会長
カニ好きだが、食べ物のカニはそう好きでもない野研のバランサー。
魚 担当 小田泰一朗さん
釣ったスッポンを自らさばいて料理するなど野性味あふれる2回生。
知らなかった生物を通して自然の見え方が変わり、世界の解像度が上がっていく
創設47年の歴史を持つ京大のサークル「野生生物研究会」、通称「野研」は多数の研究者や教授を輩出している。会誌『やけん』からして勢いが違う。そのボリューム、なんと300ページ超! 学生たちがこぞっておもしろい寄稿をしている。巻末の「事件簿」から引く。
──〇月〇日、観光客だらけの秋芳洞に洞窟ガチ勢の格好をして入洞。観光客にYouTuber と間違われる。〇月〇日、琵琶湖にて希少水草を発見しニヤニヤしていたところを職質される。お巡りさんに車軸藻の魅力を力説。〇月〇日、鹿せんべいで鹿の首がどこまで上に伸びるか確かめようとしたら、普通にジャンプされ、鹿せんべいごと手を噛まれる。〇月〇日、ベニテングタケを食す──。
「この自由で独特な雰囲気に魅了されました」とカラス好きの杵築京子さん。「中2で読んだ本に野研のことが出ていたんです。大学入学と同時にドキドキしながら門を叩きました」
毎週木曜に行なわれる例会に筆者も潜入してみた。その日の発表は会長横川智之さんのタイでのコムシ調査報告。コムシとは地中や洞窟に住む昆虫に似た生物だ。日本では1928年以降、専門家が不在で、そのため新種だらけ。タイの洞窟でも発見があった、と横川さんは熱狂的な目で話す。コムシ研究に全時間を割くために、2回生までにすべての履修を終えたという。
発表のあとは団らんが始まった。同好たちの集いの熱気たるや! 虫の標本を見せる者、食い入るように見る者、「今週鹿児島にミミズハゼの採集に行くけど、一緒に行く人?」と募る者、それに手を上げる者。
「みんなありえないくらいフィールドワークやっています。僕ほど生物好きはいないだろうと思っていたけど、僕は“普通”でした」と話す小田泰一朗さんは、魚の目には世界がどう見えているかを知りたくて、魚に特殊な眼鏡をかけさせて家で飼っている。……“普通”の基準がもう違う気がする。
「いろんな生物好きが集まって知識の幅が広がるのがいいですね。知らなかった生物を知れば自然の見え方が変わり、世界の解像度が上がる感じがします」
そう話す北尾拓磨さんは哺乳類好き。ある日、象を見ていてふと思ったそう。耳をパタパタするのは犬の尻尾振りに近い情動なのでは──。動物園に通い、緻密な解析を行なうために耳の動きを観察し続けた。
「夢の中にまで象が出てくるようになりました(笑)」
〝知りたい〟が彼らを衝き動かしている。〝好き〟が互いを高め合っている。研究者を育む豊かな土壌と、まぶしい青春がそこにあった。
やったもん勝ち! 学祭のおもろい出し物数々

去年の学祭ではミミズ食のヒルとミミズの、捕食者と被食者の関係を超えた禁断の恋愛劇「ひるどら~長い物には吸われよ~」を上演。

今年11/21~24開催の学祭で販売するカードゲームを作成。実験用の生物の情報を満載した神経衰弱。絵も自分たちで描いている。

毎週の例会はアツい発表の場

毎週木曜19~21時に開催される例会。調査の報告や研究の成果がスライドを用いて発表され、情報交換、各連絡、談笑で盛り上がる。

会誌『やけん』に
玉虫の標本も心を込めて保管


鳥担当だが虫も好き。玉虫の標本をひょいと鞄から出してくれた。友人との交換用だとか。
似ているけど虫とは別のコムシ


前例にない速さで新種のコムシを発見し続ける会長の横川さん。近く論文を発表する予定。
耳の動きにも謎があるゾウ


昔から家族でよく動物園に行った北尾さん。象の仮説を証明するために今も動物園に通う。
活動の舞台はフィールド。海外遠征も!

あったか~い!

ワラジムシの仲間のミズムシは普通は白いが、タイの洞窟には赤い個体がいて驚嘆。特定の洞窟にだけ棲む希少種だと説明する現地の研究者。

北海道遠征でエゾサンショウウオの幼生を探す道中、シマヘビの模様変異個体を見つけ、素早く捕まえた2回生の石井智樹さん。

北海道の湧別川でガサガサを行ない、スマホで同定作業と写真撮影をする。瓶に入っているのはカワヤツメのアンモシーテス幼生。

お宝だらけ!
1回生の哺乳類好き、相磯悠惺さんは海浜に上がる骨を狙って北海道へ。キタオットセイの骨を発見し、ジップロックに入れてご満悦。
農業で地域おこし! ビールも蕎麦も縄もつくる 東大むら塾
東大のサークル「むら塾」の目玉は田植えだ。千葉の活動拠点で5月に行なわれる。「最初はまったく興味がなかった」と話す矢澤真之介さんは、新歓の田植え会で生まれて初めて田んぼに入り、新鮮な気持ちになった。
「ドロドロで、おたまじゃくしなど生物がたくさんいる環境がこんなに気持ちいいなんて」
農業で地域おこし──。そんなテーマで10年前に発足したサークルが、今では会員140名もの大所帯になった。耕作放棄地での農作業に、収穫物の加工販売、クラフトビール作り、地域のイベント、地域の子供たちの勉強を見る“寺子屋”など、活動は多岐にわたる。矢澤さんはとうとう代表にまでなった。
「僕は3年生で今年引退なんですが、活動拠点で地域の人と話していると、『引退しても会おうぜ』と笑顔でいってくれるんです。ここまで深く人と関われたことが本当にうれしくて」
最近はソバの栽培も始めた。工夫を重ねて精選機を自作し、実を選り分け、蕎麦打ちの特訓を繰り返す。世話になった地域の人に蕎麦を振る舞うためだ。
「人と生物と農業が関わり合う、そんな世界に惹かれ、2年生の夏に農学部を選びました*¹」と小山華穂さんはいう。卒業後、農水省に入ったOBもいる。彼らの経験という宝は、大きな未来へとつながっている。

千葉の富津で米作り。手植えして育てたコシヒカリを天日干しにした地域ブランド米「てとて」を年間600kg収穫し、活動資金に充てる。

むら塾恒例の新歓田植え会。素足で、もしくは靴下だけはいて田んぼにつかる気持ちよさと生物と農業の営みに感動する新入生が続出。
蕎麦もソバの実から作ります

耕作放棄地が白い花を一面に咲かせたソバ畑に。ソバの成長は早く、4月に播種後、6月末には収穫期を迎えた。

バドミントンラケットを用いてソバの実を大まかに選別する。

扇風機と段ボールで自作した唐箕(精選機)でさらに実を精選する。

そば粉業者の名人に蕎麦打ちを習いながら特訓を繰り返す。

蕎麦切り包丁の使い方も堂に入ってきた。
学祭での縄ない体験が評判に


藁をより合わせ、縄にする。経験を積んだ矢澤さんは1分程度で藁1本分の縄をなえるが、初めての人は15分ぐらいかかる。
※1 東大は全員が教養学部に入学したあと、2年生の夏に希望の学部を選ぶ「進学選択制度」をとっている。
※構成/石田ゆうすけ 撮影/安田健示
(BE-PAL 2025年12月号より)







