
どうも。オーストラリア在住ライターの柳沢有紀夫です。
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「国境の街」ゲルリッツへ(ドイツ・ザクセン州旅その1)
というわけでやってきたのはドイツ東部にあるザクセン州。旧東ドイツで、東側の国境はチェコ、南側はポーランドと接しています。
そしてその州の東の端にある街がゲルリッツ(Gorlitz。ドイツ語表記だとoの上に点々がつくのですが文字化けの可能性があるので英語のアルファベットで記しています)。人口約5万7000人の小都市ですが、観光地として有名で街中にトラム(路面電車)も走っています。
この街はポーランドの国境であるナイセ川に面していて、川の向こう側はズゴジェレツ(Zgorzelec)という人口約3万人の街です。
なぜ2つの街が川沿いに向き合ってあるのか。答えは簡単でじつはもともとゲルリッツとズゴジェレツは川を挟んだ1つの街だったんです。ところが第二次世界大戦終結後にそれまではずっと東側(つまりポーランド側)にあった国境が今のナイセ川に移されたのです。
そんなゲルリッツの旧市街からウォーキングをスタートしましょう。

じつはこの日は日曜日。スーパーマーケットも含めほぼすべての商店が閉まるので繁華街に人はいないのです(飲食店は開いています)。

早朝ウォークでなく真っ昼間で人の映り込みがこんなにないのも珍しいです。一瞬映画のセットかと思うほど。
ちなみにこのゲルリッツ、映画のロケ地としても有名。2015年のアカデミー賞で4部門を受賞した「グランド・ブタペスト・ホテル」など、様々な映画の撮影が行われています。いわゆる「聖地巡礼」の観光客もいそうですね。
突然始まった「舞台裏探検」
そんなふうに街歩きをしながら、観光名所の一つ「聖ペーター&パウル教会」に到着。

入場料無料ですが、写真撮影は2.5ユーロ必要です。

一通り見終わってからふと気になることが。受付のお兄さんというかちょっと「ヤンチャなあんちゃん」風の人に「塔には上がれないんですか?」と聞いてみたところ英語が通じない。それでも身振り手振りを交えて伝えたところ、「テン・ミニッツ」と英語での返事。
「10分待て」ということだと理解して、ブラブラと写真撮影していたのですが、本当に約10分後に目が合った瞬間、「あっちに行くぞ」と目配せ。

で、のこのことついていこうとしたのですが…このお兄さんがマジで健脚。階段を飛ぶようにしてガンガン上がっていきます。私のほうはその階段の様子も撮影したいのでついていくのに必死です。

いったいどこに連れていかれるのでしょうか。そういえばこのあたりは鉄のカーテンの向こう側の旧東ドイツだしな。この「秘密の通路」に私が入ったこと、他の観光客は誰も知らないしな。
頭の中にふと「身柄拘束」という言葉が浮かびます。いや、塔だから「幽閉」?。…なんてちょっとビビり始めたころ。
「ここだ!」とお兄さんが再び目配せ。その先に重厚なドアがありました。そしてお兄さんがカギを差してそのドアを開けると…。

待っていたのはなんとも絶景!
「こっちだ」と身振りで示すお兄さんに招かれるままに進んでみると…。


「ワオ!」「グレート!」。…そんな言葉をつぶやいたら照れくさそうにはにかむお兄さん。意外とかわいい。笑
とにかく必死でついてきた甲斐がありました。そこでこの景色を堪能し、撮影をすること約3分。教会のボランティアらしきお兄さんにあまり時間を取らせるのも申し訳ないので「ありがとう。堪能した」と伝えました。
それで降りるのかと思ったら、「いやいや、別のところに行くぞ」という雰囲気。
同じ階にある別のドアを開けるとそこは巨大で薄暗い屋根裏部屋でした。

この先、右側にあるハシゴを登って行き…。

ガラスのない古い窓です。「暗い部屋を明るくするためかな」と思っていたら、下りてきたお兄さんが「おまえものぼってみろ」というジェスチャー。

木枠を残してちょっと絵画ふうに撮影してみました。もちろん窓から顔を出すこともできます。

鐘の部屋に到着・・?
本当に大満足の舞台裏探検。笑顔で「ありがとう」と伝えたら「まだまだだ」という表情。

高さも幅も2メートルくらいだったでしょうか。無茶苦茶デカくて、「ああ、これなら街中に響き渡るな」と納得。これ以外にも鐘がいくつかあってメロディーを奏でられる「カリヨン」の部屋も見せてくれました。
一通り撮影を終えてお兄さんを見ると、ようやく「下りるぞ」のジェスチャー。下りるのもこちらのほうは見向きもせずに超特急です。のんびりしていて私の存在を忘れられてここに閉じ込められてしまったら大変なので、必死についていきます。
こんなに案内してくれるなんて、とてもサービス精神旺盛なお兄さんでした。そしてこんなに中身が濃い15分もそうはないと思いました。
1階まで降りたら手をあげただけで教会の建物から出ていこうとするおにいさん。「日本のメディアに載せるために写真撮ってもいい?」と聞いたらなんとか通じたようで、たぶん「えっ? オレ撮るの? いやいやいや照れるなあ」みたいなことをドイツ語でつぶやきながらも…。

普通に塔に登るのも楽しいですが、こっそりと「舞台裏」を見せてもらったような「冒険感」満載の時間でした。


緊張のポーランド入国…かと思いきや
というわけですでに「ゲルリッツに来て良かった~」と大満足状態なのですが、この日はもう1つやりたいことがあります。それは隣国ポーランドへの潜入、いや入国です。…さっきの「秘密の探検」でのスパイ気分が抜けません。笑



カメラは様々なほうを向いていて「橋を通る者はネズミ一匹見逃さない」という鉄の意志が伝わってきます。こちらにも緊張が走ります。そのとき!

えっ? そんなんでいいの? 周囲を見回してみると…。

明らかに「暑いんで日陰に避難してます~」というユル~い雰囲気。空港の保安検査場にあるX線検査機とまではいかなくても、校門前の守衛室のような「詰所」はあるんじゃないか。そこで虎の威を借る役人から「パスポート!」とぶっきらぼうかつ高圧的に求められるくらいのことはあるんじゃないか。
そんなふうに身構えながらも、ある種期待していたのですが完全な肩透かしです。ドイツもポーランドも国境の行き来を自由にするという「シェンゲン協定」締結国なので一度域内に入ればパスポートの提示は要らないんですね。
ちなみに空港のX線検査機でポーズを取るたびに「クリスチャーノ・ロナウドのゴールパフォーマンスみたいだな」と思うのは私だけでしょうか?
橋の上には「こっちがドイツで、こっちがポーランド」という標識も路上の線も見当たりません。

そんなこんなであっさりとポーランドに入国。川沿いに北に向かって散策を開始します。


通貨単位も「ユーロ」ではなく、ポーランドの「ズウォティ」に変わりました。


遊歩道を途中で引き返して南下します。

途中から川沿いの遊歩道を歩きます。先ほど渡った「旧市街橋」から1キロほど南下したところに車も通れる橋もあります。


ただ対岸も森っぽくなっていて景色はあまり変わりそうになく、この日は猛暑日だったこともあり、左側のゆるやかな坂道を上がってみることにしました。

「コミュニティーセンター」だそうで中にも入れます。奇遇にも私が住むオーストラリアの先住民アボリジナルピープルのドットペインティングという技法を用いた絵画の展覧会をしていました。
再び橋を渡ってドイツへ。ここでも国境を記す路上の線とか標識はありません。

「秘密の塔」に潜入させてもらったり、逆に隣国には意外にもあっさり入れたり。小さな街の旅は予想外の出来事だらけで本当におもしろいです。
【柳沢有紀夫の世界は愉快!】シリーズはこちら!
ドイツ観光局
https://www.germany.travel/en/campaign/german-local-culture-jp/home.html
ザクセン州観光局(英語サイト)
https://visitsaxony.com/
ザクセン州観光局(ゲルリッツの紹介ページ)
https://visitsaxony.com/poi/goerlitz