
お菓子売りのてくてく 山口あいみさん

より美味しい!
趣味だった登山とお菓子作りを組み合わせ、山を歩きながら焼き菓子を販売する「てくてく」を2020年に創業。各地のパートナーと共に他地域でも展開中。

逆境から誕生した行商スタイル
山を歩きながら、途中で出会った登山者たちにお菓子を販売する女性──SNSなどでそんなユニークな光景を目にしたことはないだろうか? その正体は、お菓子売りの「てくてく」。山を舞台に行商する菓子店だ。
「もともと友人とカフェをやるつもりで準備を進めていたんです。ところが、コロナ禍でその計画が頓挫してしまったので、以前からの趣味だった登山と、カフェ開業のために試作を重ねていた焼き菓子を組み合わせて、新しいことを始めようと思ったんです」
そう語るのは、てくてくを営む札幌在住の山口さん。他の人が思いつきそうな方法では新鮮な感動は届けられない、そんなポリシーと、コロナ禍をきっかけに人々の休日スタイルがアウトドア遊び中心に変化していることに着目し、この独創的な行商スタイルにたどり着いた。ただし、前例のない販売スタイルのため、山での行商許可の取得など、開業までの道のりは容易ではなかったそう。
オープンは2020年の夏。登山道ですれ違った人に声をかけ、背中のショーケースに入れたお菓子を買ってもらう。そんな愉快な行商風景がSNSにアップされると、たちまち評判を呼んだ。
現在でこそ少し落ち着いたものの、ひところは登山口でお客さんの列ができ、登り始める前にお菓子が売り切れてしまうこともあったという。ちなみに、てくてくのお菓子は、登山中の行動食になるよう、持ち運びしやすく、高エネルギーかつ日もちのするものをラインナップしている。
「山で出会ったお客さんが一緒に写真を撮ってくれたりと、すごく喜んでくれるのがうれしいです。私自身も含め、関わるすべての人とハッピーな時間を共有できるところがこの行商の一番の魅力だと思っています」
現在、そんな山口さんのもとには、各地から同じように山でお菓子を販売したいという相談があり、すでに「四国」「みちのく」「福岡」「京都」のエリアで現地のパートナーが、いわゆるライセンシーとして山での行商を行なっているという。さらに「山梨」や「大阪」「愛知」などでも準備が進んでいるそう。
「これまで登山経験がほとんどなくて、『行商って面白そう』という動機で始める方もいます」
山口さんの目標は、単に店舗を増やすことではない。お菓子の行商を通じて、お客さんやパートナーが新しい世界や体験に出会える場を作ることだ。近いうちに、あなたがよく登る山でも「てくてく」のお菓子と出会えるかもしれない。
ジブンで作りました!
きれいに陳列された「ロッジ型背負子」

トレードマーク代わりのロッジ型の背負子。他の地域で活動している方の分も含め、すべて山口さん自ら木材で製作している。内部に設置された9本のステンレス棒に70〜90袋のお菓子を陳列することが可能。
お菓子だけでなくコーヒーバックも展開


クッキーなどの焼き菓子だけではなく、コーヒーのドリップバッグやピンバッジ等、オリジナルグッズの販売も行なっている。
山で行商するのはなかなかハード

お菓子や保冷剤を入れた背負子の重量は12〜13㎏。夏場は水を多く持っていくため、さらに重くなる。

山口さんが住む札幌近郊には樽前山はじめ、日帰りできる山が多いが、1泊2日で遠征して行商することもある。
季節のお菓子をそろえ週末限定で販売

季節ごとに商品ラインナップが変化。行商は5月のGWごろから11月の積雪があるころまで。週末限定で行なう。
拠点は北海道。現在は全国展開中

北海道のほか、現地パートナーによる四国店、みちのく店、福岡店、京都店も営業中。今後もさらに増える予定。
販売している自分も楽しい

体力的にはハードだが、喜んで買ってくれるお客さんの姿を目の前で見られることが、この行商の魅力。
元気が出るお菓子! 8月の新商品は?

7〜8月の限定商品は「トロピカルグラノーラ」。オートミールにドライパイナップル、マカダミアナッツ、ココナッツをトッピングして焼いた栄養満点の一品。
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インスタをチェック! てくてくが過去に登った山

※構成/佐藤旅宇 撮影/田辺信彦
(BE-PAL 2025年9月号より)