申し合わせなどしていないのに、ツアー先で思いがけず友人と出会える──旅暮らしの僕には、そんなことが時として起こります。それってね、とても幸運な気持ちになる、素晴らしいことなのです、はい。
それが、「おー、久しぶり、偶然だね」なんて挨拶にとどまらず、感動のままに「せっかくだから明日一緒にサーフィンしようよ」なんて展開になるとしたら、それはもう偶然などという言葉では片付けられない、不思議で温かい縁を感じずにはいられません。
そんな出来事が先日旅の途中で立ち寄った四国・徳島で起こったのでね、ここに記しておきたいと思います。
海辺の嬉しい邂逅

徳島の海陽町は、高知との県境にあるとても長閑で美しい町です。ここ数年は毎年のように訪れて、海辺のレストラン「テイクサンド」でライブをやらせてもらっています。
そよぐ風と、耳元で囁くような優しい波の音に包まれながらのライブは、とても心地よい時間。僕にとって「テイクサンド」は、我が家に帰ってきたような感覚でライブができる、稀有でありがたい場所なのです。
そんな場所だからこそ、ちょっとしたドラマが生まれたのかもしれません。
セカンドステージに突入し、ライブもいよいよ佳境を迎えた頃、車椅子に乗った彼が扉を開けて入ってきました。愛知に住む友人のサーファー、マサくん(小林征郁)です。
目が合った瞬間、「え、なんでここにいるの!?」と驚きましたが、あとから聞けば、近所の飲食店で食事をしていたところ、そこのマスターから僕が近くでライブをやっていると聞いたらしく、わざわざひと目会いに来てくれたんだそうです。
マサくんは、パラサーフィン──障害のあるサーファーの競技──の世界で活躍している人物。以前このエッセイでも紹介したことがあるので、ご存知の方もいるかもしれません。
彼はまた、愛知県東海市にある「ピースカフェ」というお店のオーナーです。僕も何度かライブをやらせてもらっていて、そうしたご縁が重なって、あるパラサーフィンの大会のテーマソングを作らせてもらう機会に恵まれました。
その曲のミュージックビデオには、マサくんも僕と一緒に出演してくれています。
さて、そんなマサくんと旅先で思いがけず再会できたら、盛り上がらないわけがありません。
波乗りだよ、全員集合!
「明日セッションしようぜ!」ってことになりますよね、やはり。ここで言う“セッション”とはつまり、サーフィン。一緒に波乗りしようってことなのです、はい。
サーファーってこういうのがあるんですよホントに。ミュージシャン同士のノリにもちょっと似ててね。お互いの楽器を持ち寄って、自然と会話するかのように音を出し合い、気づけば一つの音楽の波を奏でている──そんな感じです。
「明日フジワラさん(藤原智貴)も来るから、せっかくだしみんなで海入りましょう!」とマサくん。
「おっ、フジワラくんも来るの?岡山から?」
そうなんです。偶然はさらに重なり、岡山に住むもう一人の友人、パラサーファーのフジワラくんも合流できるとのこと。嬉しさが輪をかけて広がり、胸が弾みました。

日本でも少しずつ認知度が高まって来たパラサーフィン。試合では、最大9つのクラスが設けられ、選手が波に乗る技術やスタイル、スピード、パワーなどが評価され採点されます。また、パラリンピックの正式競技入りも検討されており、国際的な注目も高まっています 。
実はマサくんもフジワラくんも、日本代表として世界で活躍するパラサーファーなのです。マサくんは、「Kneel」という膝をついた姿勢で波に乗るクラスで、2025年度ワールドツアー世界ランキング3位。
フジワラくんは、「Prone 2」という、腹這いの姿勢で補助が必要なクラスの選手。日本選手権で複数回の優勝経験があり、2017年にアメリカで行われた世界選手権では初出場ながら銅メダルを獲得しています。そして2025年度世界ランキングは2位。
そんな二人に加え、その日のライブにもきてくれていた、これまた日本を代表する伝説的ビッグウェーバーの田中宗豊(パタゴニア サーフィンアンバサダー)くんもセッションに参加することになりました。彼はこれまで僕の為に何本ものサーフボード削ってくれています。

さらに、今回のツアーで途中合流した、新宿を代表する旅人兼遊び人兼ビジネスマン、ケンちゃんソースのケンちゃんも加わるという、なんとも豪華なセッションになったのです、マジで。
ライブ翌日に最高の仲間とサーフィン。僕としてはこんなに嬉しいことはありません。

チームワークで波をつかまえる

海陽町・宍喰の海岸に届いていた波は非常にコンパクトでしたが、僕らのセッションにとっては最高のコンディションだったかもしれません。というのも、藤原くんのサポート──つまりパラサーファーのサポートを経験するのは、僕にとって初めてだったからです。
まずは、彼らの命とも言えるサーフボードを海へ運びます。それぞれが本人の身体特性に合わせて作られた、世界戦仕様のオリジナルボード。細部までこだわってチューニングされています。

マサくんはビーチを這って自力で海へ。フジワラくんは三人がかりで担いで、波打ち際まで連れて行きます。僕らにとってすべてが真新しく、どこか心温まる体験でした。
そのひとつひとつは友人として当然の行為なのですが、人の役に立てているというそのシンプルなことに、僕はとても喜びを感じていました。しかも洋服を脱いでウエットスーツだけになった、裸に近い格好の自分がそこにいてね。

フジワラくんのクラス「Prone 2」には、テイクオフを(沖側で波に乗る)サポートする「ピッチャー」と、インサイド(陸側)での介助を行う「キャッチャー」、2名のサポーターが必要です。
僕とケンちゃん、ムネトヨくんの3人でローテーションを組んで、彼のサポートにあたりました。これがもう本当に最高に楽しかった。

ピッチャーに求められるのは、選手との信頼関係はもちろん、波を見極める能力。ブレイクしそうな波を選び、最適なポジションに選手をセットして、タイミングよくプッシュする。テイクオフが成功したときは、自分がいい波に乗れたとき以上の喜びが全身を駆け巡ります。

一方のマサくんは、海に入ってしまえばほとんどサポートは不要。ゲッティングアウト(沖に出ること)もテイクオフもすべて自己完結です。以前一緒に海に入ったときは、僕よりも多くの波をキャッチしていました。
さすが世界ランカーの二人。波に対するストイックで真摯な姿勢は、目を見張るものがあります。
海では誰しもが丸裸
一本一本の波をとても丁寧に、そして精一杯の力でインサイドまで乗っていく。頸椎損傷で胸から下が不自由であるにもかかわらず、フジワラくんは静かながら熱い眼差しで、波のボトムからリップへと駆け上がります。キャッチャーの位置からその姿を目の当たりにしたとき、胸に熱いものが込み上げました。
マサくんのライディングはアグレッシブで、とても明るい印象。彼の人柄がそのまま映し出されているようで、見ているこちらまで楽しい気持ちにさせてくれます。

サポートの合間には、ムネトヨくんが削ってくれた僕のボードを、3人で順番に数本ずつ乗りました。自分自身のライディングは少しでしたし、セッションの時間も短かったけれど、僕はいつも以上に満ち足りた気持ちで海をあとにしました。
きっと、パラサーファーの二人と過ごしたことで、いつもとは違う角度で海を、そして波を見ていたからなのでしょう。彼らの目線を、少しだけ体験させてもらったのです。
今、振り返っています。
これまで陸の生活の中で、彼らのような障害を持つ方々の目線で何かを感じようとしたことがあったでしょうか。彼らの視点で、真剣に物事を考えたことがあったでしょうか。
でもね、海の上ではサーファーはみんな平等です。肩書きも、年齢も、性別も関係ない。誰もが海と向き合い、自然の一部となる。
僕は彼ら二人と同じサーファーであることを、心から誇りに思います。そして、彼らがこんなにも近い存在なんだと教えてくれた、海とサーフィンに、深く深く感謝するのです。

今回のアウトドアにおすすめの曲
ジャックジョンソン, ALO「I shall be released」ディランの名曲を見事なジャック節でキメてくれています。海上がりに郷愁を誘います。
東田トモヒロNEWS

2025 “なつ旅” スケジュール
今年の夏も北海道を旅します。ご都合のつく方はぜひ遊びにいらしてください。
8月9日(土)興部CLC
インフォメーションcoming soon…
チケット問合せ: Instagram: @city_lights_coop_okp
8月10日(日)Trial手稲山 (手稲)
open: 11:00
Live: 14:00
エントリー:前売 ¥2500
当日 ¥3000※高校生以下無料
GARAKUによるスープカレー販売、drink販売あり
チケット問合せ:Instagram: @trial_teineyaama_groove
8月15日(金)居酒屋りしり (東川町)
open:17:00
Live:18:00
エントリー:前売¥2500
当日¥3000※高校生以下無料
drink&軽食販売あり
チケット問合せ:Instagram: @spray166 @shinya_nakagawa
8月16日(土)TACとかちアドベンチャークラブ (十勝)
イベントインフォメーション
https://higashidatomohiro-tokachi.peatix.com/view
8月17日(日)petetok (ペテトク) 弟子屈sawarna sup
open:10:00
Live:14:00
エントリー:前売¥2500
当日¥3000※高校生以下無料
チケット問合せ:Instagram: @petetok_hokkaido