
夏山を楽しむには対策が必須

低山から高山まで、山を存分に楽しむ夏山の季節がやってきました。この時季に合わせて、これまで登れなかった山に挑戦される方も多いのではないでしょうか。冬山のような降雪や低温の脅威がない夏山は、冬と比較して登りやすい印象がありますが、夏山ならではのリスクが存在します。
代表的なのは気温。夏の気温は上昇傾向にあり、標高が上がれば気温は下がるとはいえ、真夏の日中の日差しや気温は想像以上に強烈です。また、高温多湿の環境下での行動は熱中症や脱水症状のリスクを高め、さらに蚊やアブ、ブヨといった虫の活動も活発になります。
これらの対策を怠ると、体調を崩したり、集中力を欠いてしまうなど思わぬ事故に繋がりかねません。夏山を心ゆくまで楽しむためには、これらのリスクを理解し、適切な対策を講じることが何よりも重要です。
今回は、夏山を楽しく快適に過ごすための注意点と対策についてご紹介します。
夏山で気をつける注意点
強い日差し

夏山の最大の脅威の一つは、平地よりもはるかに強力な紫外線です。標高が1,000m上がるごとに紫外線量は約10%程増加すると言われています。標高2,000m級の山では、平地の約1.2倍もの紫外線にさらされることになり、紫外線は肌の炎症(日焼け)だけでなく、眼へのダメージも引き起こします。
また森林限界を越えると日差しを遮る樹林帯がなくなるため、こうした脅威に晒される時間が長くなります。長時間強い日差しにさらされると熱中症の一因にもなり、高山の一部に残る雪渓が残る山域では、照り返しによるダメージも考慮する必要があります。
高い気温と脱水症状

夏山といえば、平地より気温が低く過ごしやすいイメージがあります。そのイメージ通り、標高が高くなれば気温も下がり、涼しい風が吹けば行動しやすく汗ばむことも少なく快適です。
一方で、こうした高所にたどり着くまでとなる登山口から中腹にかけては気温が高く、無風状態では蒸し暑く感じることも少なくありません。特に湿度が高い日本では、汗をかいても気化しにくく、体温調節が難しくなります。大量の汗は体内の水分だけでなく、塩分やミネラルも失わせるため、脱水症状や熱中症のリスクを大幅に高めます。
脱水症状はパフォーマンスの低下を招き、最悪の場合、行動不能に陥ることもあります。
まとわりつく虫などの生物

夏山で避けられないのが、虫の存在です。蚊、アブ、ブヨ、マダニなどは登山者を悩ませるだけでなく、刺されると強いかゆみや腫れを引き起こし、場合によっては感染症を媒介することもあります。
特に渓流沿いや湿った場所、草むらなどは虫が多く生息し、刺された場所をかきむしることで、とびひなどの二次感染を引き起こす可能性もあります。集中力を削がれ、快適な登山を妨げる要因にもなるため、しっかりと対策を講じる必要があります。
私は沢登りをはじめとした登山道を外れて行動することが多くありますが、ホームである丹沢では吸血ヒルに夏は何度も襲われ、何年経ってもその姿に慣れることはありません。
天候の急変と雷

夏の山は天候の急変に最も注意が必要な季節です。特に午後は発達した積乱雲によって雷雨が発生しやすくなり、夏山では天気の動向には最新の注意が必要です。山の天気は非常に変わりやすく、雷は落雷だけでなく、雷鳴や稲光によっても恐怖を感じるほど。雷雲が迫り不気味な光が見えたり、空間が割れるような音を聞いたとき、生きた心地がしなかったです。
さらに急な雨は体を冷やし、低体温症のリスクを高めます。これに視界不良も加わり、道迷いの原因にもなります。天気が良く予報でも問題なかったのに、局所的に天候が悪化するなど、常に空の動向を把握しながら判断する力も求められます。
夏山を楽しむ対策
涼しい時間に登る

夏山登山を快適に楽しむための最も効果的な方法の一つは、涼しい時間帯に行動することです。日中の最も気温が高くなる時間帯(正午前後)を避け、早朝に出発することで、まだ気温の低い時間帯に標高を稼ぐことができます。相応のスキルは求められますが、日の出前に行動を開始するのも選択肢の一つです。
また、早朝は虫の活動も比較的穏やかで、澄んだ空気の中、美しい景色を独り占めできるというメリットもあります。私は夏の低山では早めの時間に登り、登山者が山頂に着く頃には下山するスケジュールを組むこともあります。その後の時間に余裕もでき、夏山では早朝の登山がおすすめです。
虫除けや肌の露出を防ぐ

虫刺され対策としては、まず肌の露出をできるだけ避けることが基本です。通気性があり吸水速乾性に優れたロングシャツやロングパンツの着用はもちろん、首元も手ぬぐいやタオルなどで覆うのも有効です。
また、虫除けスプレーや自家製のハッカ油などを携帯し使用することも重要です。登り始めや随時の使用を忘れず、虫除け対策を行いましょう。
水筒と行動食を活用

脱水症状を防ぐためには、こまめな水分補給が不可欠です。十分な量の水やスポーツドリンクを持参し、喉が渇く前に意識的に水分を摂ることが大切です。また、ハイドレーションシステムを活用すると、歩きながらでも手軽に水分補給ができます。
この他、エネルギー補給のための行動食も忘れずに。ゼリー飲料やチョコレート、ナッツなどは手軽に摂取でき、疲労回復にも役立ちます。水分以外の失われた塩分の補給も兼ねて、行動食は計画的に摂取していきましょう。
夏山登山を快適に楽しもう

いかがでしたか。夏山は、さまざまな山に挑戦できるチャンスがある一方で、油断すると遭難や生命の危険に晒されるリスクもあるため、十分な備えが必要です。こうした危険を極力回避することで、夏山特有の眺望を堪能でき、動植物の存在などを感じることができます。
夏山登山の注意点を理解し、ぜひ快適な夏山を楽しんでください。