
設計図なし、電動工具も使わない"自由木工"でつくる3本脚ベンチ
丸太運びからスタート!

オモテ

置いてもガタつかない
ウラ

4本脚よりカンタン!
3本脚の椅子は、4本脚の椅子に比べると安定性にやや欠けるが、置いたときにガタつかず、つくりやすいというメリットがある。木の枝を脚にそのまま利用すれば、穴あけは手回しドリルだけで済む。穴数も3つでよい。2股になった枝を使えば、2穴で自立する。
ヒトとはホモ・ファーベル(工作する人類)である―アンリ・ベルクソン(フランスの哲学者)―
師匠・鹿熊(以下鹿):ハラボーは、ヒトの学名「ホモ・サピエンス」の意味を知ってるよね?
編集・ハラボー(以下ハ):もちろんですとも。「賢い人類」っていう意味でしょ?
鹿:じゃあさ、「ホモ・ルーデンス」はわかるかな。
ハ:えっ、なんですかそれ。絶滅した旧人類かなにか?
鹿:ヨハン・ホイジンガという人が提唱した言葉で、意味は「遊ぶ人類」。ヒトの文化は遊びにより高められたという説だよ。
ハ:あら素敵。ビーパルの編集者としては深く賛同します!
鹿:ヒトの定義にはほかにもあるよ。たとえば「ホモ・ファーベル」。アンリ・ベルクソンという哲学者の考えた人間観で、意味は「工作する人類」。人間の本質はモノづくり、つまり創造力だという意味だね。
ハ:知性・遊び心・モノづくり。この3つが人間の人間たるゆえんというわけですね。
鹿:そのとおり! というわけで、今日は間伐丸太と雑木の枝で工作を楽しんでもらおうと思うんだ。テーマは3本脚ベンチ。使っていいのは素朴な手工具だけ。木工といえばミリメートル単位の設計図が付きものだけど、それもなし。機械にも数字にも頼らず、直感で仕上げてもらいます。題して自由木工!
ハ:へえ、楽しそう~。丸太と木の枝を組み合わせたベンチなんて、想像したこともなかったです。ところでなんで3本脚?
鹿:4本脚よりバランスを取りやすいし、脚をはめ込む穴がひとつ少ないから楽でしょ。2股になった枝を使えば、2穴で自立させることも可能だよ。
ハ:なるほど! でも、丸太じゃ座りにくいですよね。どうやって平らにするんです?
鹿:割り木工といって、鋸で引くんじゃなく楔とハンマーでコツコツ割って板にするんだ。縄文時代からある技術だよ。
ハ:21世紀のホモ・サピエンスであるハラボー、いろいろ試されている気がします!
鹿:その心意気が大事。ホモ・ファーベルの先輩に笑われないくらいのものをつくろうね。
割る道具

丸太を割る鋼製の楔は小1本、大2本ほど用意。長く太い材ほど数が必要になる。片手ハンマーは2㎏以上のものを。薪割りでも活躍するので、備品としてもおすすめ。
削る道具

大工道具の鋸や台鉋が普及する前、木材は楔で割ってから刃物で削って仕上げた。右から、鉈、セン(ドローイングナイフ)、小刀。
穿つ道具

脚部の穴あけに便利なリングオーガー(木工用手回しドリル)。今回は直径2~3㎝を使用。右は脚部(枝材)の直径を調節する鋸。
作り方を紹介!
STEP 1 割る
木の筋目を読みクサビを打ち込む

針葉樹なら乾いた丸太でも良いが、堅い広葉樹は半乾きのときが割りやすい。小口(切り口)の自然にできたひびに小さな楔を打ち込む。

ひびが亀裂になったら、大きな楔を打ち込む。成長した亀裂に沿ってさらに楔を打ち、縦に2分割するイメージで割れ目を広げる。

ひびが反対の小口に達すると、メリメリッという亀裂音が大きくなる。ここまでくればもうひと息。最後のひと振りでパカンと割れる。

クセになる感覚です
中心から2等分するように楔を打ち込むときれいに割れやすい。長さは60㎝くらいまでが手頃。風倒木や小径木など、薪にしかならないような材を活用する。
STEP 2 削る
半分割してささくれを取る

2つに割ったら、厚い板をつくるイメージでもう半分割しよう。最初のようにはきれいには割れにくいので、鉈やセンで削りながら、ざっくりとした平面に仕上げる。

STEP 3 組む
脚は木の枝の個性を活かそう

脚部の枝は乾燥したものを。差し込み外周に鋸で切り目を入れ、径に合わせて鉈で削る。

穴の角度は、板に対して直角よりやや開く。脚に使う枝の曲がりも見ながら決める。

枝の差し込み部分は削りすぎないようにし、最後に穴の奥まで力強く叩き込む。板が半生であれば、乾くにつれ穴が締まり強度が増す。組み上がったら脚の長さを鋸で微調整。
Complete!

(椅子だけに)
完成したベンチでさっそく読書を楽しんだ。強度に不安があるときは、脚を差し込む際に木工用ボンドを入れておこう。
里山で使っても良し、持ち帰っても良し

直線・直角・きれいな曲線ばかりが木工ではない。自然素材に勘と目見当で向き合い、当意即妙の感覚で気軽に楽しむのが自由木工だ。
※構成/鹿熊 勤 撮影/藤田修平
(BE-PAL 2025年5月号より)