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紙の本を手に取って内なる自然と対話しよう!『エベレストには登らない』を読んで

2020.08.25 (閲覧数) 396

夏休みである。例年なら、このお盆のくそ暑くてどこへ行っても人だらけな一週間を快適かつ自堕落に過ごすために、涼しい場所へのファミリーキャンプを敢行するところであるが、新型コロナウイルスへの感染が懸念される状況では自宅でクーラーを着けっぱなしにしてじっとしているしかないではないか。

当然家族からはクレームである。もちろん自分自身のストレスもたまる。ありあまる時間をどうつぶすか。庭の手入れといってもこう暑くては命の危険を感じるのでそうそうやってはいられない。アマゾンプライムの映画やYoutubeの動画ももう飽きるほど見た。なので、最後に残された究極の暇つぶしとして読書に手を出すことにしたのだ。

『エベレストには登らない』は、日本を代表する探検家であり、作家である角幡唯介さんの雑誌『BE-PAL』での連載コラムを書籍化したものである。他にも『空白の五マイル』や『極夜行』などの冒険譚をまとめた著作があって、今どき珍しいドンキホーテな御仁である。

私は以前から角幡さんのコラムのファンだ。BE-PALを買うかどうか迷うとき、まずは付録の善し悪しだが、その次は角幡さんのコラムが面白いかどうかにかかっていたりするのだ。そんな楽しみなコラムの中でも、他国で拉致され無事に解放された安田さんに対しての自己責任について書かれたコラムが私は大のお気に入りで、普段は家族に自分が読んでいる雑誌を読ませるなどという行為を決して行わない私が、この時ばかりは「このコラムがとてもいいから読んでみて」と妻と子供に薦めたくらいである。

その角幡さんのコラムが書籍化されたのだ。普段から家にあふれんばかりの本と雑誌をどうにかしてと家族から言われ続けている私からすると、夏休みの一日をどこにも行かず家でのんびり読書などかましてみるなどもってのほかだが、以前家族へ紹介して評判の良かった角幡さんのコラムの本なのだといえば、若干の説得力を持って堂々と本を開くこともできようというものである。

で、この本は間違いなく面白い。読んで損はない。別にヨイショしているのではない。何が面白いか。それは角幡さんが自分の目でみて、肌で感じて、心に残ったものを等身大で書いているからだ。そこには誰かと比較してとか競争してとか何か物差しがあって、その物差しに従って物語っているのではなく、あくまで自分自身の中にある体験を言語化したものであることが大きいのではないかと私は思う。

ともすれば探検なども先人がいて全地球的に見れば二番煎じの話なのかもしれないし、例えば自転車の車道、歩道問題のような多くの人が既に体験済である事柄についても、角幡さん自身でいちから組み立てて、考えて、それを意見として書き記すという行為そのものが今の高度に情報化された社会ではやりたくてもできないことであるのだが、それを自然体で行っている点が、角幡さんのコラムが面白い理由なのだ。

探検時に命の安全を保障してくれるであろう衛星携帯電話をなぜ持ち歩きたくないのか。正確な位置がわかるGPSではなく、なぜアナログな六分儀を、しかもわざわざ日本に唯一存在する老舗に依頼して復刻改良版をワンオフで製作してもらい、使おうとするのか。おそよ合理的な選択とはいえないし、言い方は悪いが究極の自己満足なのかもしれないとも思う。

それでも読者はこの本の中身に惹かれてしまう。それは、角幡さんが自然と対峙するのではなく(本書の中では自然と対峙すると書いてあるのだが)、自らの身体器官、身体のセンサーをフルに活用して自然とコネクトする、自然との対話を試みようとしていることに対して読者は好意や憧れを抱くからなのではないだろうか。

IT関連企業に勤めており、今はリモートワーク中心で周りにデジタル機器を侍らせて生活しているが、やはり時間があれば、コーヒーを飲みつつ、スマホやタブレットではなく、こうしてゆっくり紙の本のページをめくってあれこれ思索に耽りたいものなのだ。それが自己満足だといわれようとも内なる自然との対話なのだ。

全編に渡り写真ではなく、つがおか一孝さんのイラストが却ってリアル感を増しているように思えます。これは、九三式気泡六分儀 角幡スペシャルバージョン2014

GPSの話を読んでいて思い出したのが、BE-PALの付録のコンパス定規。ボーイスカウトを長年やっている息子が持っているコンパスに引けを取らないお役立ちグッズだ。

自宅の玄関先にある温湿気圧計。もうかれこれ25年以上は稼働している。アナログで電源も要らず故障知らずだ。現在朝なのに28度。今日も暑くなりそうだ。

都会の旅人さん

写真や詩を通して身近な自然とふれあっています。 https://note.com/komarun

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